27日、チャド政府は国際刑事裁判所(ICC)からの脱退を表明した。6月下旬に、ニジェール、マリ、ブルキナファソの三カ国が脱退を表明しており、それに続く動きである。
チャドの脱退の背景には、米国からの働きかけがある。ファドル(Abdoulaye Sabre Fadoul)外相は、脱退の決定が米国からの要請に従ったものだと述べた。7月23日、米国のガルシア(Frank Garcia)アフリカ担当国務次官補は、チャドに対してICCからの離脱を検討するよう電話で促した。米国は、ICC関係者への制裁と加盟国への離脱の働きかけの両面で、ICCへの圧力を加えている。
ただし、米国の働きかけだけが脱退の理由ではない。チャドには、ICCを恐れる理由がある。スーダン東部・ダルフールでの残虐行為に関する捜査が始まったからである。7月3-8日、ICCのカーン(Nazhat Shameem Khan)副検察官がチャドを訪問し、ダルフール紛争に関する捜査の一環で東部のスーダン人難民キャンプを訪れた。
ICCによるダルフールでの捜査は、2005年の第1次ダルフール紛争の際に始まり、すでに起訴、逮捕がなされている。2023年にスーダン内戦が勃発すると、ダルフールが再び戦場となり、数々の残虐行為が繰り返された。特に、2025年後半のエル・ファシェール陥落時には、準軍事組織RSFによって民間人の大量虐殺がなされた。これに対応して、ICCも捜査を再開したのである。
RSFは、主としてアラブ首長国連邦(UAE)によって支援されてきたが、その他にもエチオピア、ケニアなどのアフリカ諸国からも支持を得ている。チャドもまた、RSFに後方基地を提供してきたと指摘されている。これまで、ICCとチャド政府の協力関係は問題なく進んでいる。7月16日、カーン副検察官は国連安保理で、チャド政府の協力に感謝した。しかし、チャド政府は、RSFへの捜査が自国に及ぶことを警戒している。実際、スーダン市民社会から、UAEをはじめ、RSFへの協力国に対する告発がなされている。
ICCに対する警戒感があるところに、トランプ政権からの働きかけを受け、チャドがICC脱退を決断したと見てよいだろう。チャド政府は脱退に際して、それがICCの機能不全を指摘した(7月27日付ルモンド)。ICCの機能を限定的にしているのは、米国のような大国である。(武内進一)