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今日のアフリカ

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マリの人質解放と新政権の性格

2020/10/15/Thu

10月8日、2016年12月に誘拐されたフランス人女性ソフィ・ペトロナン、去る3月に誘拐された野党党首スマイラ・シセなど4名の人質が解放された。解放に応じたのは、アルカイダ系の「イスラムとムスリムを支持するグループ」(Groupe de soutien de l'Islam et des musulmans:GSIM)で、指導者はトゥアレグ人のイヤド・アグ・ガリ(Iyad Ag Ghali)である。4人の解放と引き換えに、GSIMの戦闘員200人が解放された。

13日ルモンド紙に掲載された、クレモン・ボレ(Bruno Clément-Bollée)の論説は、この人質解放を批判的に分析している。同氏はフランス軍に長く在籍し、サルコジ政権下で外務省治安・国防協力局長を務めた人物で、この論説はフランス軍事筋の見解を反映していると思われる。論説の概要は以下のとおりである。

8月のクーデタによって成立したマリ新政権は、ECOWASの圧力にもかかわらず、反乱軍の影響力が強いことが知られている。ケイタ前大統領に対する辞任要求運動で大きな役割を果たした反政府グループM5から、市民活動家の入閣はなかった。M5は失望を表明している。一方で、やはりケイタ前大統領に批判的だった宗教指導者のディコ(Dicko)師は、側近を政権に送り込んだ。ディコ師はワッハーブ派の指導者で、イヤド・アグ・ガリともパイプを持っている。今回の人質交換にフランスは関与しておらず、マリ新政権の強いイニシャティブで行われた。4人の人質が解放されたことはよかったが、その代償は大きい。交換に解放された200人の戦闘員のなかにはフランス軍が拘束した者も含まれており、フランスとしては、イスラーム急進主義運動に対するマリ新政権の姿勢を確認し、協力関係を再考する必要がある。

フランスはバルカンヌ作戦でサヘルに5000人の兵士を派遣するなど、この地域の治安に深くコミットしてきた。今回の人質解放には、自分たちの苦労を無に帰すものだという印象を持つのであろう。フランスや国連等のコミットにもかかわらず、マリをはじめ、サヘル地域の治安情勢は改善していない。新政権の誕生が事態にどのような影響を与えるのか、注視する必要がある。