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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2023年03月

ケニアの政治暴力

2023/03/30/Thu

 経済危機に直面するケニアで、政治暴力が顕在化してきた。27日、野党指導者のライラ・オディンガは前週に続いて抗議デモを組織したが、政権側は暴力で応酬した。この日、ナイロビのスラムで、ライラ・オディンガの支持者が警官の激しい抑圧を受け、3人が死亡した。  同日、首都から約30キロに位置する前大統領ウフル・ケニヤッタの農場「Northlands」に数百人の暴徒が侵入し、ヒツジを略奪したり、木をチェンソーで切り倒すなどの蛮行を働いた。ノースランズは4500ヘクタールの広大な農場だが、1400頭の家畜が白昼に盗まれ、夜には下草に火が放たれた。  さらにこの日、ナイロビ中心部で、オディンガが所有する企業East Africa Spectre(ガス・シリンダー製造)が襲撃された。  2022年の大統領選挙で、当時の大統領ケニヤッタはオディンガを支援したが、副大統領のルトが勝利した。ケニヤッタとオディンガを標的にした襲撃は、野党側から、政権側による「宣戦布告」だと受け止められている。事実、地元紙The Nationは、ノースランズ侵入の前日、数百人がルト派から一人あたり20ユーロ(3000円程度)の報酬で動員されていたと報じている(29日付ルモンド)。  オディンガは、下院議員のイチュングワ(Kimani Ichung'wah)が農場襲撃の首謀者だと非難している。同氏が率いる政党Azimio la Umojaは30日に集会を予定しており、暴力のエスカレーションが懸念される。  ケニアではこれまでも、有力政治家が主導する暴力が繰り返されてきた。2007年末の大統領選挙をめぐる暴動はその典型であった。「貧困層の代表」として、政治の刷新を掲げて大統領に当選したルトだが、その手法は従来のままなのだろうか。 (武内進一)

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中央アフリカで中国系鉱山採掘企業襲撃される

2023/03/26/Sun

 19日、中央アフリカ内陸部のバンバリ(Bambari)近くの鉱山が襲撃された。この鉱山では中国が出資するGold Coast Groupが採掘事業を行っており、襲撃により中国人9名が殺害され、2名が重傷を負った。翌日、中国の習近平国家主席は、中央アフリカ政府に対して、2人の負傷者に必要な手当てをし、犯罪者を処罰することを求めた。  22日には首都バンギで、殺害された中国人を悼む政府主導のデモがあり、約200人が動員された。このデモでは中国を支持する横断幕が掲げられ、中央アフリカと中国、ロシアとの友好関係が強調された。中央アフリカ政府はこの事件について調査委員会を設置し、3週間をめどに報告書が提出される予定である。  政府は、反政府勢力のCPC(Coalition des Patriotes pour le Changement:「変化のための愛国者同盟」)がこの事件に関与したとして、非難している。CPCは前大統領フランソワ・ボジゼを指導者とし、様々な出自の兵力を糾合した武装勢力である。2020年にはCPCの攻撃が首都に迫り、政府はロシアの民間軍事会社ワグネルとルワンダ政府軍に支援を仰いでようやくこれを撃退した。それ以降、治安状況の深刻さは若干軽減したものの、首都を離れれば反政府勢力が支配する状況が続いている。一方で、CPCは襲撃への関与を否定し、事件を引き起こしたのはワグネルだと主張している(24日付ルモンド)。  事件の真相は未だ不明だが、この事件はトゥアデラ政権へのダメージを意図したものだと考えられる。もともとフランスとの関係が深い中央アフリカだが、2016年に発足したトゥアデラ政権の下でロシアへの依存を深めた。現在は中露との親密な関係を誇示しつつ、憲法改正と三期目の任期を視野に入れている(24日付ルモンド)。こうした政権のあり方に不満を持ち、不安定化を図る勢力が事件を引き起こした可能性が高い。  アフリカ政治でよく指摘されることだが、中央アフリカにおいても、競合する政治勢力は常に国際関係の力学を念頭に置き、それを国内権力闘争に利用している。 (武内進一)

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ポール・ルセサバギナ氏の釈放

2023/03/25/Sat

 2020年8月にルワンダで拘束され、2021年9月に懲役25年の判決を受けたポール・ルセサバギナが、カガメ大統領の恩赦により釈放されることが決まった。ルセサバギナは『ホテル・ルワンダ』の主人公のモデルとなったことで知られる。ベルギー国籍を持ち、米国に居住していたが、カガメとルワンダの政治体制を厳しく批判してきた。  彼はドバイから事実上拉致される形で拘束され、ルワンダ南西部に侵攻した武装勢力に活動資金を出資したとして有罪判決を受けた。裁判に際してルセサバギナは、いかさまだとして出廷を拒否した。  釈放に際して、カガメに宛てたルセサバギナの書簡が24日ルワンダ法務省から発表され、「米国の家族の元に戻れるよう恩赦をお願いする」、「残る人生を米国で内省するために用いる」、「個人的、政治的野心はない」と記されていた。今回の恩赦はカタールが仲介し、先週カガメがカタールを訪問した際に決定したという(25日付ファイナンシャルタイムズ)。  今回の恩赦が、外交的考慮を踏まえて決定されたことは間違いない。ルセサバギナの逮捕と裁判については欧米でも関心が高く、昨年8月にブリンケン米国務長官がルワンダを訪問した際には、この問題について懸念を伝えていた。さらに、昨年後半から激化したコンゴ東部でのM23の活動に関して、コンゴはもとより、欧米でもルワンダの支援を非難する声が高まっている。今回の釈放は、米国政府へのメッセージだと考えてよいだろう。  ルワンダの政府系紙New Timesは、武装勢力の侵攻による犠牲者の遺族が、賠償を求め続けているとの記事を掲載した(25日付)。ルワンダ政府としては、恩赦はしたが、有罪判決は変わらない、という姿勢である。 (武内進一)

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アンゴラもコンゴ民主共和国に派兵

2023/03/24/Fri

 22日付けルモンド紙によれば、アンゴラ議会は、17日、コンゴ民主共和国東部に派兵するため、500人の部隊創設を可決した。アンゴラの軍事安全保障担当大臣によれば、この部隊は「反乱勢力M23の解散、武装解除、再統合の監督」を担当する。部隊の派遣日はまだ明らかにされていない。  コンゴ東部には100を超える武装勢力が存在するが、周辺国の部隊も数多く展開している。 東アフリカ共同体(EAC)軍の枠組みで、ケニア軍、ブルンジ軍が既に派兵され、南スーダンとウガンダからの派兵も決まっている。今回、そこにアンゴラが加わった。加えて、世界最大の国連平和維持活動MONUSCOも存在する。  周辺国の部隊がコンゴ東部で具体的にどのような任務を負うのか、必ずしも明らかでない。コンゴのルトゥンドゥラ外相は、アンゴラ部隊が「M23を攻撃することはない」と述べている。  東アフリカ軍については、そのマンデートで「M23および約100のコンゴ東部の反乱勢力(negative forces)に平和を強制(enforce)すること」が規定されている。ただし、これまでのところ、実際の戦闘例は多くない。ブルンジ軍が、自国の反乱勢力FNL(Force National de Libération)やRED-Tabaraと戦闘した例や、ウガンダ軍が2021年11月にADFに対して実施した軍事作戦くらいである。これらの周辺国軍は、コンゴ東部で自国の反乱勢力と戦っている(3月22日付ルモンド)。  東部では、治安が一向に改善しないことへの不満から、反MONUSCO、反東アフリカ共同体を掲げるデモが起こっている。周辺国軍を呼んでくるだけでは、治安の改善を展望することは難しい。気にかかるのは、MONUSCOとコンゴ国軍との協働が進まないことである。2013年にコンゴ国軍はMONUSCOとの共同作戦によってM23に軍事的勝利を収めたが、近年では北キヴで両者の協働が見られなくなったと報じられている(3月22日付ルモンド)。統合的な作戦がなければ、治安対策として導入したはずの周辺国軍がさらなる秩序の分散化を招くことにもなりかねない。 (武内進一)

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アフリカと国連改革

2023/03/18/Sat

 16日、ブリンケン米国務長官はエチオピアの首都アジスアベバのAU本部を訪問し、ムサ・ファキ・マハマトAU委員長に対して、国連安全保障理事会やG20でアフリカの代表性を高めることへの支持を表明した。  AUは常々、国連などでアフリカ諸国がより多く代表されるべきだと主張してきた。ブリンケンに対してムサ・ファキは、安保理の議題の6割はアフリカに関するものだと述べた。アジスアベバを訪問中のグテーレス国連事務総長も、「安保理の最大の不公正は、常任理事国にアフリカが含まれていないこと」だと同調した。  現在アフリカは、国連安保理の非常任理事国に3つの地域枠を持つのみである。国連改革に対するアフリカの立場は、AUが2005年にスワジランド(当時)で採択したエズルウィニ・コンセンサスに示されており、安保理に2つの常任理事国、5つの非常任理事国を得るというものである。  国連安保理にアフリカを含める方向性は大国の支持を得つつある。ドイツとフランスは早期に支持を表明したし、中国、ロシア、米国も改革の方向性を支持している。とはいえ、その実現が近いとは言い難い。実際に改革が実現されるには、国連総会で可決された後、安保理ですべての常任理事国の支持を得て可決されねばならない。また、アフリカ域内も、ナイジェリア、南アフリカ、エジプトのなかでどれが常任理事国となるのか、コンセンサスは得られていない。  一方、G20については、早期に改革が進む可能性がある。現在、G20のメンバーに入っているのは、アフリカでは南アフリカだけだが、AUをメンバーに加える方向で調整が進んでいる。今年の議長国インドが前向きの姿勢を示していることもあり、早期に実現する可能性が高まっているという(17日付ルモンド)。  ウクライナ戦争が勃発して以降、国際秩序のあり方が強く意識されるようになった。この問題に関する国連でのアフリカの投票行動も、既存の国際秩序への不満や疑問を表明したものと考えられる。こうした状況下、国連をはじめとした国際機関の改革がアジェンダに上がっている。アフリカの代表性を高めることに主要国の間で異論がないだけに、その方向性で改革が進む可能性が高い。 (武内進一)

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