今日のアフリカ
2025年07月
ナミビアの鉱山の町とアートセンター
2025/07/31/Thu
5月にナミビアの鉱山の町オラニエムントで初展示された「OMDisアーティスト・イン・レジデンス:2025アート展」が、7月29日、首都に移動し、2回目の展示を迎えた。
この展示は、オラニエムント・アートセンターが、首都のStArtアートギャラリーおよびナミビア芸術協会と共同で開催し、ドイツやナミビア出身の3名のアーティストによる写真、陶芸、絵画、映像などの作品が展示された。
オラニエムントは、ナミビアの南西部の南アフリカとの国境を流れるオレンジ川の河口近くにある、ダイヤモンド採掘産業で栄える小さな町である。オラニエムント・アートセンターは2023年にOMDis タウン・トランスフォーム・エージェンシーによって設立された新しいセンターである。OMDisは、Oranjemund Diamondsの略称であり、ナミビアのダイヤモンド生産量の85パーセント以上を供給してきたナムデブ・ダイアモンド・コーポレーションによって2019年に設立された特別目的会社である。彼らの使命は、オラニエムントの町の経済を2030年までにダイヤモンド採掘から自立経済へとシフトさせることである。地域観光や起業の支援に加えて、文化プロジェクトにも力を入れており、オラニエムント・アートセンターはその中核施設としての役割を果たしている。
センターでは、絵画、彫刻、音楽、裁縫、革細工などの教室を子どもや大人向けに開講したり、アーティスト・レジデンス・プログラムという、国内外のアーティストにオラニエムントで1か月滞在して制作をおこなってもらう独自のプログラムを主催したりしている。今回の展示では、このプログラムに参加したアーティストらがオラニエムントで生活しながら制作した作品が並んだ。アーティストらは、さまざまな媒体をもちいて、砂漠の移り変わる色彩、母性とアイデンティティ、土地に重なる記憶などを表現している。
なぜナムデブは近年になってOMDisを設立する必要があったのか。その背景には、オラニエムントの地中にある採掘可能なダイヤモンド鉱床が枯渇してきた事情がある。長年の採掘によって、アクセスしやすい場所にある地中のダイヤモンドが少なくなり、ナムデブは2017年に鉱山の段階的閉鎖計画を発表していた。その後、閉鎖の年が延長されたものの、地中のダイヤモンド産業は縮小傾向にある。そのため、経済の多角化を求める動きが高まっていた。一方、海洋のダイヤモンド採掘は反対に盛んにおこなわれるようになってきている。オラニエムント沖には、地中からオレンジ川を通って海に運ばれて海底に堆積した鉱床が豊富にあり、2020年代から、造船開発とともに生産量が増大し、現在のダイヤモンド生産量の約80パーセントを海洋採掘が占めるようになっている。
アーティストの一人であるナミビアの陶芸家ケブリン氏は、地元紙のインタビューにおいて、オレンジ川の粘土を採取し加工した作品について次のように語っている。「土地の永続的な存在、そしてかつてこの地域で生活していた狩猟採集民の存在が、それぞれの作品の創造、質感、そして感覚に反映されています」。ダイヤモンドが採掘しつくされた土地で、さらにその利益を得てきた会社が設立したアートセンターの展示において発表されたこの作品は、アイロニカルでうったえかけるメッセージの重さを感じる。(宮本佳和)
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コンゴ政府とM23がカタールで停戦協定に署名
2025/07/20/Sun
19日、コンゴ政府とM23がカタールで停戦協定に署名した。両者は、コンゴの交渉に向けた原則に合意し、「恒久的な停戦に向けて約束を守る」と宣言した。
同宣言では、包括的和平協定に向けた公式な交渉を近々開始し、東部コンゴにおける国家権限の確立に向けたロードマップの作成を進めるとしている。この和平協定に向けた交渉は、6月末にワシントンで署名されたコンゴとルワンダの和平協定の枠組みに準拠する。両当事者は、遅くとも2025年7月29日までに宣言を実施に移し、8月8日までに直接交渉を開始する(19日付ルモンド)。
この合意については、コンゴ政府はもちろん、米国、ルワンダ、AU、EU、Monuscoなど、関係する政府、国際機関が評価している。
米国とカタールがコミットした和平プロセスが、ここまで進展したことは評価に値する。一方で、今回の署名は、交渉をスタートさせることにコンゴ政府とM23が合意したということである。チセケディ政権がM23との交渉を拒絶していたことを考えれば大きな進展だが、今後どのように合意に至るかはなお不透明と言わざるを得ない。
特に、東部コンゴに国家の権限を確立するという、戦争終結に不可欠なプロセスがどう展開するかが重要である。今年初めの攻勢で、M23は支配領域を大きく広げたが、それはコンゴ政府が求める国家権限の確立と真っ向から対立するだろう。今後の事態の展開を注視したい。(武内進一)
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米国が南スーダン、エスワティニに「不法移民」を移送
2025/07/19/Sat
7月15日、米国は、エスワティニ(前スワジランド)に対して、ベトナム、ラオス、イエメン、キューバ、ジャマイカの国籍保持者5人を送還した。これらの人々は、本国が引き取りを拒否した「犯罪者」だと、米国側は説明している。
これに先立つ、7月4日、トランプ政権は南スーダンに8人の「不法移民」を送致した。8人のうち南スーダン国籍は1人だけで、残りはミャンマーやキューバの国籍保持者である。
米国では6月に最高裁が、「不法移民」を強制送還する際、出身国が受け入れを拒絶した場合には「第三国」に移送することを認めた。これが南スーダンとエスワティニへの移送につながったのだが、この2ヵ国だけでなく、多くのアフリカ諸国がトランプ政権から「不法移民」の受け入れを持ちかけられている。
7月9日、セネガル、ガボン、モーリタニア、リベリア、ギニアビサウの大統領がホワイトハウスに招かれた。トランプはそれぞれの大統領と面会し、鉱物資源取引を協議したが、ここでも「不法移民」の受け入れについて打診された模様である(10日付ルモンド)。
また、ナイジェリアの外相は、国外追放処分となったベネズエラ人を受け入れるよう、米国から圧力を受けたと認めている(11日付ファイナンシャルタイムズ)。同外相は、既に様々な問題を抱えているナイジェリアにとって、そうした受け入れは困難だと述べた。
こうした動きにアフリカ側から反発の声が上がるのは当然だ。エスワティニの市民社会勢力からは、我々は米国の「ごみ箱」ではない、という批判がでている(17日付ルモンド)。
一連の動きは、トランプ政権がアフリカを必要としていることを意味している。鉱物資源や移民問題などをディールの材料として、米国はアフリカに接近している。援助を大幅に削減したトランプ政権は、アフリカとの関係を切断するのではなく、ディールに基づく別の形での関係を構築しようとしている。(武内進一)
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