今日のアフリカ
2025年06月
ナミビアのオーケストラとおとぎ話
2025/06/30/Mon
6月20日と21日、ナミビア国立劇場でユース・オーケストラ・フェスティバルが開催された。「音楽を通したものがたり」をテーマに、8歳から28歳までの100名を超える若い音楽家が集まった。
若い音楽家らは、ドイツ大使館が主催するベルリン交響楽団の指導を受け、指揮は著名なドイツ人指揮者クリスチャン・ルートヴィヒ氏と、気鋭のナミビア人指揮者エルソン・ヒンドゥンドゥ氏がとった。
プログラムでは、ルートヴィヒ氏が指揮する、「山の魔王の宮殿にて」、「ホーダウン(ロデオより)」など、時代を超えた名曲が並んだ。また、ヒンドゥンドゥ氏が作曲した「オチハンバレレ―ナミビアのおとぎ話」が初演された。この作品のテーマは、コミュニティ、愛、裏切り、そして許しである。
オチハンバレレとは、ヘレロ語でおとぎ話のことを指す。このおとぎ話は、親が子どもを寝かしつけるときに語ったり、家の外でおこした火を囲みながら年配者らが子どもたちに語ったりするものである。物語にはさまざまな野生動物や家畜などが登場する。講演でも野生動物にふんした子どもたちが舞台をかけめぐり、ナレーションとオーケストラの音色が混ざり合いながら、コンヴィヴィアルな空気を作り出した。
ヒンドゥンドゥ氏は、地元紙ナミビアンのインタビューでこの作品の経緯を語っている。「祖父母やオジたちと火を囲んで、オチハンバレレをたくさん聞いていたんです。[・・・]これらは私たちのアイデンティティと文化を思い出させてくれる貴重な思い出です」と回想し、村で過ごした幼少期からインスピレーションを得たことを語った。ナミビアの都市部ではこうした口承による物語が衰退しつつあるため、音楽を通してその美しさと文化的価値を復活させようとしたという。
「ナミビアの物語を引き出し、私たちが何者であるかを思い出させてくれるような作品を作曲したかったのです」と同紙インタビューで同氏が続けるように、この作品はユース・オーケストラの子どもたちが、自分たちで物語を書き、この作品の土台を築いたという。ヒンドゥンドゥ氏は、「子どもたちがこの作品の青写真を作ってくれたんです。彼らの想像力の豊かさに驚きました。私たちは彼らを刺激しましたが、物語は彼らのものです。この作品は彼らの想像力の上に成り立っています」と、子どもたちとの協働によって「オチハンバレレ」が出来上がったことを指摘している。そして、インタビューの最後では、「私たちが国民として団結し、手を繋げば、私たちは無敵です。観客のみなさまがナミビアに誇りを感じ、音楽を通して私たちの物語の奥深さを感じ取っていただければ幸いです」と締めくくっている。
ヒンドゥンドゥ氏は合唱指揮者で、約10年前にナミビアの青少年合唱団のソリストとして頭角をあらわし、その後ナミビアと南アフリカで専門的な音楽の訓練を受けた。以来、合唱、吹奏楽、弦楽四重奏、交響楽団、そして現在は舞台のための作品を作曲している。2023年には、ナミビア人作曲者として初のオペラ作品「ヒヤングア首長」を作曲し、ナミビアとドイツの首都で公演し、盛況のうちに終わっている。ドイツ語とヘレロ語でうたわれたこのオペラは、首長の息子を主人公に、恋愛、実存的危機、植民者との出会い、キリスト教への改宗と裏切り、虐殺のテーマを扱ったチャレンジングな作品である。
近年のジェノサイド交渉をめぐる国内での対立や、ナミビア国内のドイツ系入植者とジェノサイド被害者の子孫らが分断している現状を考えると、音楽を通してナミビアを一つにしようとするヒンドゥンドゥ氏の作品は、暗たんとする状況のなかの新たな光のようである。(宮本佳和)
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ナミビアの男性のメンタルヘルスと高い自殺率
2025/06/30/Mon
ナミビア保健社会サービス省のルヴィンダオ大臣は、5月のメンタルヘルス啓発月間を記念して6月11日に首都で開催されたシンポジウムで講演をおこなった。講演では、メンタルヘルスをめぐる政策の遅延と高い自殺率について懸念が示された。
ナミビアにおけるメンタルヘルスの問題は、特に若者のあいだでうつ病、不安障害、自殺が増加しており、最も差し迫った公衆衛生上の課題の一つとなっている。世界保健機関(WHO)によると、ナミビアの自殺率は現在、世界で11位、アフリカで4位である。2023~2024(2023/24)年度には、10万297人のメンタルヘルス疾患患者と542件の自殺が報告された。
ナミビア警察が発表したデータによると、2023/24年度に自殺した542人のうち82%が男性だった。地域別では、北中部の自殺者数が多く、全国平均は人口10万人あたり17.9人だった。一方、自殺未遂件数は、2018年の1,655件から2023年には2,332件に増加した。2023/24年度の自殺者数は前年(2022/23年度)と比較して19%増加し、2019年から2024年にかけては自殺未遂件数が53%増加した。こうした深刻化する危機に対応するため、保健社会サービス省は、主要な関係者と連携し、実用的かつ協調的な解決策を見出すために、多分野にわたるアプローチを強化している。しかし、依然としてインフラ整備および法改正が遅れていることを大臣は講演で強調した。
国営放送や地元紙では、こうした状況を反映して、自殺者数の大半を占める男性のメンタルヘルスに関する特集が頻繁に組まれている。地元紙ナミビアンの特集において男性の自殺者が多い要因としてあげられているのは、社会経済的要因、文化的およびジェンダー規範、メンタルヘルス支援の不足の3点である。ジェンダー規範において男性は家族を養うことが期待されており、失業や貧困などでこの期待に応えることができない場合、孤立感や男性らしさの喪失感を抱き、助けを求めることへの抵抗感と相まって危機的状況をもたらしているという。
ナミビアでは初の女性大統領が今年3月に誕生し、新内閣を構成する14名の大臣のうち9名が女性である(「今日のアフリカ」、2025年3月26日)。2002年には党の指導的地位に男女半々の代表者を置く方針を決定し、政策や支援においても男女平等や女性へのエンパワメントに力を入れている。しかし、その背後では、こうした男性のメンタルヘルス危機の問題が静かにすすんでいる現状があることは見逃してはならないだろう。(宮本佳和)
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コンゴ民主共和国とルワンダ、米国主導の和平協定締結
2025/06/28/Sat
27日、ルワンダとコンゴの外相が、米国の首都ワシントンでルビオ国務長官を間に挟んで着席し、和平協定に調印した。トランプ大統領は、30年にわたるコンゴ東部の戦争を終わらせる素晴らしい協定だ、と成果を強調した。
和平協定の内容は明快だ。両国の領土的一体性はともに守られ、敵対行為はただちに停止される。コンゴはルワンダのフトゥ系武装勢力FDLRを「中立化」(つまり解体)し、ルワンダはコンゴから撤兵してM23への支援を止める。武装勢力は武装解除、動員解除して、コンゴ国軍や警察に統合する、という内容である。
こうした約束はこれまでも繰り返しなされてきた。4000人コンゴ領内にいるというルワンダ軍の撤兵を誰の監視の下でどのように進めるのか、コンゴ国軍が実効的にFDLRを「中立化」できるのか、それ以外の武装勢力をどう扱うのか、などなど、和平協定の実効性に関する疑問は尽きない。
トランプ政権は、そのあたりを気にしていない。コンゴとの間で鉱物資源開発に関する「ディール」を結び、米国企業が投資することで和平が担保されると考えている。
この文脈で、ゴマに近いルバヤ(Rubaya)鉱山に関する「ディール」が報じられている(28日付ファイナンシャルタイムズ)。ルバヤ鉱山は、コンゴのコルタン生産の半分を占めるといわれる巨大埋蔵地だが、その開発をめぐる交渉を行っているコンソーシアムに、トランプ大統領に近いジェントリー・ビーチ(Gentry Beach)氏がトップを務める投資会社America First Globalが含まれているという。関係者は、紛争鉱物問題の代名詞とも言えるこの鉱山を、地域の繁栄の中心地に変えると意気込んでいる。
ルバヤ鉱山は、紛争のなかで様々な武装勢力が支配下に置き、コルタンの密輸によって巨額の富を得てきたところである。今年の初め以来、M23が支配下に置いている。この鉱山で採掘されるコルタンを合法的にルワンダに運び、同国内に精錬所を建設して付加価値を高めて世界市場に輸出するという構想のようだ(28日付FT)。
これは、ルワンダ優位の現状をそのまま永続化させることを意味する。それをコンゴ側(政府およびローカルコミュニティ)が受け入れるだろうか?事はそう簡単でないと考えざるを得ない。(武内進一)
アフリカからの留学生支援のため、現代アフリカ教育研究支援基金へのご協力を呼びかけています。
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