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今日のアフリカ

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コンゴ民主共和国―チアニ法提出が意味すること

2021/08/01/Sun

 コンゴでは今年初めからチセケディ現大統領が権力基盤を強化し、4月には新内閣を発足させた。チセケディはAU議長としても活発に活動し、6月末には隣国ルワンダを訪問し、カガメ大統領と2日間にわたって国境付近の街で会談するなど、周辺国との関係改善にも積極的に取り組む姿勢を見せている。
 一方で、国内的には気になる動きがある。7月8日、片方の親が外国人であれば、三権の長になることを禁じる法案が下院に提出された。法案は、作成を主導したノエル・チアニ(Noël Tshiani)の名を取って、チアニ法(loi Tshiani)と呼ばれる。チアニは、世界銀行などで勤務経験があり、2018年の大統領選挙にも立候補した。彼は国会議員ではなく、法案はキンシャサ選出のプルル(Nsingi Pululu)議員が提出した。
 両親の国籍によって大統領立候補資格が制限されるというこの法案をめぐって、大きな論争が生じている。この法案が通過すれば、有力な政治家の一人カトゥンビ(Moïse Katumbi)は、父親がギリシャ人であるため、次期大統領選挙に立候補できない。この法案は、かつてコートジボワールで起こったこと―ワタラを大統領候補者から排除するために「コートジボワール人性」(イヴォワリテ:Ivoirité)なる概念を導入し、国民を分断した結果、内戦に至った―を想起させる。イヴォワリテの次は、コンゴリテ(Congolité)か、というわけだ。コンゴに駐留する国連平和維持部隊(Monusco)のトップであるケイタ(Bintou Keita)は、法案提出の前日に国連安全保障理事会で懸念を表明した。
 コンゴの状況は、当然ながら、コートジボワールとは異なる文脈も含んでいる。政治学者のンプトゥ(Jean-Claude Mputu)によれば、この動きの背景にはルワンダとの関係があるという(7月19日付ルモンド)。彼の説明は、概略次のようなものだ。ルワンダは、1990年代以降コンゴ東部に介入を繰り返し、内戦の当事者となってきた。2010年代半ば以降、両国の指導者間では友好が謳われているが、とりわけコンゴの民衆レベルで不信感は根強い。ジョゼフ・カビラ前大統領に対しては、常に「ジョゼフの母親はルワンダ人であり、彼は実はルワンダ人だ。だからルワンダに友好的な政策を取る」という批判がなされてきた。この動きは、そうした大衆感情を利用したものである。5月にパリを訪問してインタビューを受けたカガメが、コンゴ内戦時にルワンダ軍が行った虐殺行為を否定したことも、コンゴ人の反ルワンダ感情を刺激した。
 チセケディとカガメが友好を演出しようとも、大衆レベルでは反発が渦を巻くのがコンゴの実情である。チアニ法は、その感情を利用して、カトゥンビを大統領レースから排除する効果を持つ。カトゥンビの支持基盤であるカタンガ地方の議員は法案に猛反発しており、法案の審議がどのように進むかが注目される。