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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2023年02月

国連総会でのアフリカ諸国の投票行動をめぐって

2023/02/26/Sun

 2月23日、ウクライナへのロシア侵攻1年の時期に、国連総会で「ウクライナの包括的、公正、永続的な平和の根拠となる国連原則」と題された決議が審議された。G7を含む西側諸国が起草したもので、ウクライナからのロシアの即時、完全、無条件の撤退を呼びかけている。  既に広く報道されているとおり、ウクライナ戦争開始以来、アフリカ諸国はこの種の決議に曖昧な態度をとり続けてきた。この傾向は今回も変わらない。決議は賛成141、反対7、棄権32、無投票13で採択されたが、アフリカ諸国に限れば、賛成30、棄権2(エリトリア、マリ)、棄権15、無投票7であった。54ヶ国のうち、辛うじて半分強が賛成したという結果である。  昨年3月2日、侵攻直後に行われた国連総会決議の際は、賛成28、反対1(エリトリア)、棄権17、無投票8であった。この時と比べると、棄権から賛成に回ったのはマダガスカルと南スーダンで、モロッコが無投票から賛成へと態度を変えた。一方、ガボンが賛成から棄権に変わり、マリが棄権から反対へ回った。  ナイジェリア、エジプト、ケニア、ガーナ、コンゴ民主共和国といった国々は賛成の立場を維持したが、南アフリカ、アルジェリア、アンゴラ、エチオピア、モザンビークなどは棄権や無投票のままである。  こうしたアフリカ諸国の対応について、苛立ちを示す向きもある。ファイナンシャルタイムズのコラムニスト、D. ピリングは、23日付け論説で、「南アフリカは道義的な高みを失った」と論じた。ロシアへの撤退要求は「単純で子供じみている」とパンドール外相が発言したり、ロシア、中国と合同軍事訓練を行う南アフリカの対応を捉えての批判である。  一方、アフリカに西側の外交圧力に対する嫌悪感があるとの指摘もある。2月22日付ルモンドは、昨年8月のブリンケン米国務長官の南アフリカ訪問時に、パンドール外相が、2022年4月に米国議会で採択された''Countering Malign Russian Activities in Africa Act''に強く反発したと報じている。アフリカでのロシアの影響力を制限しようとの法律で、ロシアの「代理人」たるアフリカ政府関係者を監視し、報告する、といった内容を含み、一見してパターナリスティックな色彩が強い。アフリカ側がこれに反発するのは、よくわかる。  ウクライナ戦争には国際秩序をめぐる戦いという側面がある。その中でアフリカの立ち位置が問われ、影響力を行使しようと大国がアプローチしている。 (武内進一)

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南アフリカ・エスコム社のCEO解任

2023/02/25/Sat

 南アフリカの電力供給を担う国営企業エスコム(Eskom)の理事会は22日、CEOのアンドレ・ドゥ・ルイター(André de Ruyter)の即時解任を決定した。テレビインタビューで、エスコムが犯罪組織の犠牲になっていることや、ANC高官の汚職について言及した翌日のことである。  ドゥ・ルイターCEOは、これまでもマンタシェ(Gwede Mantashe)エネルギー相と衝突してきた。マンタシェはドゥ・ルイターを公に非難して、昨年12月には辞任表明に追い込み、彼はこの3月に退任することになっていた。しかし、この発言で即時解任となったのである。  南アフリカの電力事情の悪化に悪化については、広く報じられているとおりである。計画停電が続き、停電時間は次第に延びている。テレビインタビューでドゥ・ルイターは、それが更に悪化する見込みを示していた。  エスコムの苦境については、ANCが抜本的な改革に消極的だという批判がある。ファイナンシャルタイムズは、一貫してこの立場からANCを批判してきた。同紙コラムニストのD.ピリングは、今年1月1日付けの記事で、エスコムの改革が進まないのは、ANCが石炭産業の既得権益に手を付けたがらないからだとして、概略次のように述べている。  「アパルトヘイト後の黒人優遇政策の中で、石炭産業は黒人経営者へと移転され、半分以上が黒人経営者のものとなった。他産業に比べて黒人への移行が成功したと言える。しかし、ANCは石炭中心のエネルギー構造に手を付けたがらない。石炭産業の雇用を脅かす改革にすべて反対してきた。現在のマンタシェ・エネルギー相は石炭産業出身で、『石炭原理主義者』だと自称し、改革の試みを潰してきた。」  「発電所はンプマランガ州など石炭炭鉱のそばにあるが、炭鉱から発電所に運ぶ途中で良質の石炭は盗まれて国外に流れ、品質の悪い石炭が発電に利用される。それが停電の原因の一つになっている。エスコムはズマ政権下で腐敗に蝕まれたのだ。」  ピリングの論説から、二点指摘できる。第一に、石炭依存からの脱却などエスコムの改革を急ピッチで進めようとする勢力と、雇用への配慮などからそれに反対する勢力が対峙していること。第二に、電力供給悪化の背景に、エスコムをめぐる犯罪や汚職が存在することだ。ドゥ・ルイターの解任については、周知の事実(ANC高官の汚職)について言及しただけであり、理事会は政治介入に屈したという声がある。エスコムをめぐる問題はすでに政治化しているが、南ア経済に決定的なダメージを与える危険をはらんでいる。 (武内進一)

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誰がブルキナファソの軍事政権を支えているか

2023/02/18/Sat

 昨年9月にクーデタで誕生したブルキナファソの軍事政権は、フランス軍に撤収を命じ、ロシアとの接近に動いている。この政権の支持基盤について、興味深い記事が16日付ルモンド紙に掲載されたので紹介する。  Morgane Le Cam記者の署名入り記事は、イブラヒム・トラオレ(Ibrahim Toraoré)を首班とする軍事政権を支えるのは、「パンアフリカ主義者」と「ワッハーブ主義者」の同盟関係だと指摘している。  この政権下で頻発する反フランスデモでは、「フランス帝国主義」を敵対視し、抑圧、搾取されてきたマリの主権を強調するパンアフリカニズムのレトリックに満ちたスローガンが叫ばれる。  一方で、この軍事政権が誕生して以来、サウジアラビアで強い影響力を持つワッハーブ派の活動が活発化しているという。トラオレ(IB―イベ―と呼ばれる)は、ブルキナファソでは、1966年~80年まで政権を握ったラミザナ(Sangoulé Lamizana)以来のムスリムの国家元首である。記事では、「イベはワッハーブ派からメシアのように見られている。クーデタ以来、彼らは自分たちの時代が来た、結束して政権を支えよう、と言っている」と述べる同国の知識人の声が紹介されている。  ブルキナファソでは、ワッハーブ派は以前から一定の影響力があったようだ。記事では、アフリカ民主連合(RDA)が主導する独立運動にワッハーブ派が関わっていたと紹介されている。クーデタ以来、多くのワッハーブ派が街で政権支持とフランス軍撤退を主張するようになった。1月半ば、第二の都市ボボ・デュラソで行われた、政権支持とフランス軍撤退要求の集会は、ワッハーブ派に近いとされるグループ「Yelema Horonya」が主宰した。このグループの指導者はイマームのMohammad Ishaq Kindoで、サウジアラビアで教育を受け、反欧米の説教をすることで知られる。  ワッハーブ派とパンアフリカ主義者は、ロシアという表象を通じて繋がっている。この国には、旧ソ連に留学、研修で滞在した知識人が一定数存在することに加えて、マリが重要な役割を果たした。12月上旬、ブルキナファソ首相のキエレム・ドゥ・タンベラ(Apollinaire Kyélem de Tambèla)がモスクワを訪問した際に利用したのは、マリがチャーターした軍用機であった。同記事は、マリがブルキナファソのモデルになっていると指摘している。同首相が1月31日から翌日にかけてバマコを訪問した際、「マリで進行している『真の革命』は、ブルキナファソを刺激(インスパイア)している」と述べている。  こうした記事を読むと、歴史の知識なしに現状分析はできないと改めて思わされる。この地域の歴史に関する私の知識は限られており、この記事を適切に批評することはできないが、今後もっと議論が深められるべき領域であることは疑いない。 (武内進一)

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チュニジアで反体制派要人の一斉検挙

2023/02/15/Wed

 11日~13日にかけて、チュニジアで反体制派側要人が一斉に検挙された。これに対して、14日、ヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官は、チュニジアの「抑圧状況の悪化に懸念」を表明した。国連がチュニジアの政治にこうした意思表明をするのは初めてのことである。  この間、旧政権党ナフダの幹部で元法相のヌレディーン・ビリ(Noureddine Bhiri)や民間ラジオ局「モザイクFM」のヌレディーン・ブタール(Noureddine Boutar)など多くの反体制派要人が、いずれも「国家の安全保障を脅かした罪」で逮捕された。  チュニジアでは、2021年7月にサイード大統領が議会を活動停止にし、「例外状態」を宣言した。議会で続く政党対立に嫌気していた大衆は当初これを歓迎したが、結局は状況が変わらないことに反発し、大統領の肝いりで進められた憲法改正やそれに続く選挙にボイコットで応じた。サイードの人気はすでに低落しているが、彼に代わって大衆の支持を集める政治家は出ていない。人々は政治から距離を置こうとしているようだ。  一斉検挙は、こうした状況下で起こった。ルモンド紙は、国連人権高等弁務官の対応から、国際社会(特に欧米)のチュニジアへの対応が今後変わるかもしれないと述べ、ヨーロッパ外交官の次のような言葉を紹介している(14日付)。「サイードはずいぶん遠くに行ってしまった。何かが壊れたようだ。2021年7月の時には、我々は政治的リアリズムを持ってサイード政権とうまく付き合っていきたかった。しかし、どうやってこんな政権と一緒に仕事ができるだろう」。 (武内進一)

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仏語圏諸国の反仏感情をどう考えるか

2023/02/05/Sun

 最近になって、フランス軍がマリ、中央アフリカ、そしてブルキナファソから撤収を余儀なくされた。背景には各国での強い反仏感情がある。「フランスがジハディストと協力している」といった荒唐無稽に思える主張、そしてデモにおける親ロシア感情の発露(ロシア国旗が振られ、プーチンの顔写真が掲げられる)から、ロシアの情報戦の影響という説明が受け入れられやすいかも知れない。しかし、それは事実のごく一部しか説明していない。この問題を考える上で興味深い二つの論説がルモンド紙に掲載されたので紹介する。  一つ目は、1月26日に掲載された、陸軍上級大将(Général de corps d'armée)の肩書きを持つクレマン=ボレ(Bruno Clément-Bollée)の寄稿である。彼は、2002~2015年にコートジボワールに駐留したフランス軍のLicorne作戦で指揮官を務めた。論説は、「支配されたアフリカが終わり、主権を持つアフリカへ。メッセージは、アフリカをアフリカ人の手に」と題され、フランス人に認識の転換を促している。  植民地期、そして独立してもなお、アフリカでは旧宗主国の影響が大きく、「支配されたアフリカ」であった。しかし、グローバリゼーションのなかで「アフリカをアフリカ人の手に」という動きが不可逆的に起こった。そこではフランスだけでなく、西側全体が批判の対象になっており、西側が自分たちに有利になるようルールを決めるやり方が批判されている。時代が変わったこと、これまでのやり方がうまくいかなかったことを認めねばならない。開発プロジェクトは過度に中央集権的で、CFAフランは従属の道具だとの批判を呼び、安全保障協力はフランスのイメージを傷つけた。この動きは他のアフリカ諸国にも広がるだろう。クレマン=ボレはこのように論じる。  この議論を受ける形で、論説委員のフィリップ・ベルナール(Phillipe Bernard)もまた、考え方の変化を促している(4日付ルモンド)。マリやブルキナファソでロシア国旗が振られ、フランスへの敵意が示されるとき、ロシアの情報戦の成果だと思いたくなる。しかし、サヘルの国々がフランスに背を向けたのは、フランスに安全保障問題を解決する能力がないからだ。フランスはアフリカの政権と密接な関係を持ってきたが、そうした政権の多くは国民を排除し、貧困のうちに留める政策をとってきた。フランスはジハディストを「テロリスト」としか見なさないが、ジハディストは不満を持つ大衆に食い込み、「オルタナティブな統治」の可能性を示して人々の支持を集めてきた。サヘルで起きている紛争は、「テロリストの攻撃」ではなく、政府に対する反乱、すなわち「内戦」である。フランスはアフリカに影響力を行使しようとして、独立以降の統治の失敗の「共犯者」だと捉えられたのだ。現在起こっていることは、脱植民地化の新たな局面だと考えなければならない。  フランスが、アフリカの旧植民地諸国と独立後も深い関係を維持してきたことはよく知られている。現在の反仏感情の広がりが、そうした深い関係の反作用であり、アフリカにおける「国家の失敗」の裏返しだという指摘は的を射ている。ロシアの情報戦よりも、ずっと根が深い問題である。 (武内進一)

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コンゴ東部でM23をめぐる紛争続く

2023/02/04/Sat

 1月26日、M23は北キヴ州マシシ県のキチャンガ(Kitchanga)を制圧した。昨年10月末に本格的な攻撃を再開したM23は、ウガンダ国境の街ルチュルからゴマに向けて南下し、コンゴ軍との間で戦闘が続いてきた。12月初めの虐殺事件を契機に、M23、そしてルワンダへの圧力が高まり、M23は占領地からの撤退を表明したのだが、それ以降ゴマ西方のマシシ方面での軍事的プレゼンスを強めている。コンゴ軍の攻撃に反撃する形で、キチャンガを制圧したと報じられている(3日付ルモンド)。  M23をめぐる紛争については、アンゴラのロウレンソ大統領がアフリカ連合(AU)および南部アフリカ開発共同体(SADC)から委任を受けて仲介役を務めており、同時にケニヤッタ元ケニア大統領が東アフリカ共同体(EAC)のファシリテーターとして調停にあたっている。昨年7月、ロウレンソがチセケディとカガメを首都ルアンダに招き、和平に向けた合意を得たが、停戦は続かなかった。9月以降、ケニアのイニシャティブでコンゴ東部にEAC軍が展開されたが、抑止力としては機能していない。  この間、コンゴとルワンダの関係は悪化を続けている。M23の攻勢はルワンダの支援によるものだというコンゴ側の主張と、コンゴの国内問題だというルワンダ側の主張が平行線をたどっており、チセケディとカガメは相互に非難を繰り返すだけで、直接対話もできなくなっている。  国際社会のスタンスは、ルワンダにM23への支援を止めるよう求めるものだ。それに対してカガメ大統領は、M23はコンゴ国内の問題であり、問題はコンゴのガバナンスだと繰り返し、国際社会へのいらだちを隠していない。ルワンダが何らかの形でM23への支援を行っていることは、国連専門家委員会が認めるところである。一方、コンゴ側のガバナンスに深刻な問題があること、そして紛争の中で民兵組織を利用してきたこともまた事実である。ルワンダを締め上げれば問題が解決するわけではない。こうした状況下、戦闘の意思と能力を持つM23に引きずられる形で、紛争が拡大している。 (武内進一)

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