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今日のアフリカ

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南アフリカ・エスコム社のCEO解任

2023/02/25/Sat

 南アフリカの電力供給を担う国営企業エスコム(Eskom)の理事会は22日、CEOのアンドレ・ドゥ・ルイター(André de Ruyter)の即時解任を決定した。テレビインタビューで、エスコムが犯罪組織の犠牲になっていることや、ANC高官の汚職について言及した翌日のことである。
 ドゥ・ルイターCEOは、これまでもマンタシェ(Gwede Mantashe)エネルギー相と衝突してきた。マンタシェはドゥ・ルイターを公に非難して、昨年12月には辞任表明に追い込み、彼はこの3月に退任することになっていた。しかし、この発言で即時解任となったのである。
 南アフリカの電力事情の悪化に悪化については、広く報じられているとおりである。計画停電が続き、停電時間は次第に延びている。テレビインタビューでドゥ・ルイターは、それが更に悪化する見込みを示していた。
 エスコムの苦境については、ANCが抜本的な改革に消極的だという批判がある。ファイナンシャルタイムズは、一貫してこの立場からANCを批判してきた。同紙コラムニストのD.ピリングは、今年1月1日付けの記事で、エスコムの改革が進まないのは、ANCが石炭産業の既得権益に手を付けたがらないからだとして、概略次のように述べている。
 「アパルトヘイト後の黒人優遇政策の中で、石炭産業は黒人経営者へと移転され、半分以上が黒人経営者のものとなった。他産業に比べて黒人への移行が成功したと言える。しかし、ANCは石炭中心のエネルギー構造に手を付けたがらない。石炭産業の雇用を脅かす改革にすべて反対してきた。現在のマンタシェ・エネルギー相は石炭産業出身で、『石炭原理主義者』だと自称し、改革の試みを潰してきた。」
 「発電所はンプマランガ州など石炭炭鉱のそばにあるが、炭鉱から発電所に運ぶ途中で良質の石炭は盗まれて国外に流れ、品質の悪い石炭が発電に利用される。それが停電の原因の一つになっている。エスコムはズマ政権下で腐敗に蝕まれたのだ。」
 ピリングの論説から、二点指摘できる。第一に、石炭依存からの脱却などエスコムの改革を急ピッチで進めようとする勢力と、雇用への配慮などからそれに反対する勢力が対峙していること。第二に、電力供給悪化の背景に、エスコムをめぐる犯罪や汚職が存在することだ。ドゥ・ルイターの解任については、周知の事実(ANC高官の汚職)について言及しただけであり、理事会は政治介入に屈したという声がある。エスコムをめぐる問題はすでに政治化しているが、南ア経済に決定的なダメージを与える危険をはらんでいる。
(武内進一)