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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2022年10月

アフリカの開発と世界環境問題

2022/10/24/Mon

 今年はアフリカ北東部では旱魃、西部では洪水の被害が大きく報じられ、来月エジプトで来月開催されるCOP27を前に、気候変動への関心が否応なく高まっている。21日付けファイナンシャルタイムズは、気候変動を考える上でのアフリカの重要性について、コラムニストのD.ピリングの記事を掲載している。興味深いので、以下紹介する。  アフリカは、一般に考えられている以上に気候変動の中心課題である。約14億人(世界人口の17%)の人口を持つアフリカが、エネルギーと製造業の分野で見れば、グローバルな二酸化炭素排出量の2~3%しか出していないことはよく知られている。この数字は、エジプト、アルジェリア、南アフリカという大国を除けば、1%に下がる。  しかし、これはミスリーディングだ。この数字には、国連が「土地利用変化」と呼ぶものが含まれていない。アフリカの多くの地域では急速に森林破壊が進んでおり、それに伴う温室効果ガス排出量も急増している。マッキンゼーの試算では、アフリカの排出量は6%に近く、メタンガス、二酸化窒素を含むガスの10%に達する。コンゴ盆地は,アマゾンに次ぐ世界第二のカーボンシンク(二酸化炭素吸収源)であり、二酸化炭素の爆弾の上に存在しているようなものだ。ガボンの森林の一部だけで、26.5ギガトンの二酸化炭素含有量があり、これは米国の5年分の排出量に相当する。  第2に、アフリカが貧しいままでいない限り、二酸化炭素排出量は今後劇的に増える。現在のアフリカの一人あたり排出量は年間一人あたり0.7トンで、世界平均4.5トン、米国平均14.7トンと大きな差がある。しかし、アフリカの都市化率は世界最速であり、その一人あたり排出量が今後急速に増えることは確実だ。  この対応は喫緊の世界的課題である。アフリカ諸国にエネルギー消費を拡大する権利を認めることは当然だが、そこでどんなエネルギーを使うのかが重要になる。化石燃料が使われるなら、気候変動に深刻な影響を与えることは避けられない。一つの選択肢は、水素に大規模な投資を行うことだ。また、排出量取引における価格設定も重要な課題となる。  以上がピリングのコラムの概要である。環境問題のなかでアフリカは単なる被害者ではない。世界環境問題は、アフリカの経済発展のあり方に深く結びついている。世界全体で協働しなければ対応できない程度に、環境と開発をめぐる課題は世界各国の利害を複雑に関係づけているということだ。 (武内進一)

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ザンビアの債務交渉と中国

2022/10/10/Mon

 6日付ファイナンシャルタイムズは、米国シンクタンク「外交問題評議会」(CFR)のセッツァー(Brad Setser)上級フェローの論説を掲載した。ザンビアの債務交渉と中国の銀行に関する興味深い内容を含んでおり、以下概略を紹介する。  ザンビアは、2000年代以降の銅価格高騰を背景に積極的な対外借り入れを行い、3回にわたってユーロ債を発行してきた。しかし、2010年代の資源価格低下を受けてルング政権期(2015~2021年)に債務状況が悪化。2020年にはユーロ債の利子支払い繰り延べを要請するなど、デフォルト状態に陥った。それ以来債務再編をめぐる交渉が続いているが、中国からの債務の扱いをめぐって難航してきた。  かつて、債務危機に陥った国は、政府債務についてパリクラブとの間で交渉し、民間債務については商業銀行が組織するアドホックな委員会との間で交渉した。債務国間に返済条件の差が出ないよう、「比較可能な取り扱い」(comparable treatment)原則へのコミットが各債務国に求められた。しかし近年では、中国やインド、サウジアラビアなど、パリクラブに入っていない国々が積極的に対外融資を展開し、債務国の債務の構成も複雑になった(9月26日付FT)。ザンビアはその典型である。2021年末の段階で、全体で約200億ドルの対外債務のうち、約60億ドルが中国からのものであり、これは再編対象となっている債務の4割を超える。  ザンビア、IMF、伝統的なバイドナー、そして中国は、融資再編をめぐって議論を続けてきたが、2年の交渉を経てもなお、中国国営銀行の債務再編条件はまだ決まっていない。大きな問題は、中国において公的部門と私的部門の境界が曖昧であることだ。従来、貧困国の債務再編においては、公的債権と民間債権を分けてそれぞれ別々に交渉を行っていた。しかし、一帯一路政策に参加した国営金融機関は商業的な利益を求めて商業的融資を提供したと考えている。中国側は、中国輸出入銀行からの融資は公的債権だと認めたものの、そのほかの国営商業銀行からの融資は民間債権だと主張してきた。  G20では、2020年11月に、中国や非パリクラブのバイドナーが、パリクラブの伝統的バイドナーと同じ交渉の席に着くという「共通枠組み」が合意された。しかし、現在までこれに従って債務再編が実施された例はない。  ザンビアをめぐる交渉のなかで、中国の輸出信用機関(Sinosure)から保証を得た融資は公的二国間貸し付けだと判断されることになったようだ。そうなれば、今後の債務再編プロセスはより容易になるだろう。 とはいえ、個々の中国企業や銀行が債務再編に関する条件を飲んだわけではなく、先行きは依然不透明である。  これまでの交渉を通じて、中国の金融機関も債務再編にあたって譲許的利率を受け入れざるを得ないことが明らかになりつつある。中国の金融機関や融資の仕組みに光が当たり、新しいルールを共に考えていくことになるだろう。  以上の論説は、中国という資金提供者が急速に存在感を増したことで、債務再編をめぐる新たな国際的ルール構築が必要になったことを示している。中国側もまた、アフリカに貸し付けた資金をどのように回収するかを考える必要に迫られている。中国がパリクラブに入ることはないにしても、債務返済をめぐってルールの調整が図られている局面と理解できる。 (武内進一)

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ブルキナファソ新政権のゆくえ

2022/10/08/Sat

 9月30日のクーデタを指揮したイブラヒム・トラオレが、5日正式に大統領に就任した。今後、「国民集会」(Assises nationlales)で移行期の大統領を任命する予定で、それまでの間国家元首を務めるという位置づけである。トラオレは34歳で、チリのボリッチ大統領(36歳)を抜いて世界一若い国家元首になった。  このクーデタは、イスラーム急進勢力(ジハディスト)との戦いが失敗を続ける中で起こった。トラオレは、ジハディストとの戦いの前線である北部の街カヤ(Kaya)の砲兵連隊長であった。ブルキナファソではジハディストの支配領域が国土の4割に達し、前政権のダミバ中将に対しては、亡命中のコンパオレ前大統領を招いて和解を演出するなど、「テロとの戦い」に本腰を入れないという批判と不満が若手将校に広がっていた。今回のクーデタには、軍内の階級間、世代間の対立が反映されている(3日付ルモンド)。  今後の動向で注目されるのは、フランスとの関係である。クーデタ発生時に、ダミバ中将がフランス大使館に逃げ込んでいるとの噂が流れ、首都ワガドゥグのフランス大使館と第二の都市ボボ・デュラソのフランス文化センターが襲撃された(1日付ルモンド)。また、反仏、反Ecowasのデモが頻発し、ロシアとの関係強化が叫ばれている。民衆の間に表出している反仏感情は、「テロとの戦い」に無策だという憤りと結びついている。  反乱軍は当初ロシアへの接近を窺わせたが、その後トラオレは「フランスも、ロシアも自分たちのパートナーだ」という言い方に変わった(3日付ルモンド)。すぐにロシア側に走ることはないとしても、フランスの対応は極めて難しい。ブルキナファソは現在フランス軍が駐留するが、マリのように関係が悪化し、駐留ができなくなる可能性も考えられる。サヘル地域のイスラーム急進勢力との戦いは、当面先が見えない状況が続きそうだ。 (武内進一)

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ブルキナファソで再びクーデタ

2022/10/01/Sat

 今年1月にクーデタがあったブルキナファソで、9月30日に再びクーデタが発生した。30日未明から首都ワガドゥグ郊外の軍キャンプで激しい銃声が聞かれたが、午後早く政府はFacebookに「国軍の一部部隊の動きにより混乱が生じている」、「事態沈静化のために交渉中」と投稿。軍スポークスマンは報道機関(AFP)に、「これは国軍内の危機であり、事態打開に向けたやりとりが続いている」と説明した。  22時少し前に、軍服姿の10数名がテレビ放送し、トラオレ(Ibrahim Traoré)大尉が声明を読み上げた。そこで、国軍トップのダミバ(Paul-Henri Sandaogo Damiba)中将の罷免、政府の解散、憲法の停止、国境封鎖が発表され、21時~5時の外出禁止令が発布された。トラオレ大尉は、反乱軍が組織した「保護復興愛国運動」(Mouvement patriotique pour la sauvegarde et la restauration:MPSR)の代表で、反乱軍のトップという位置づけである(30日付ルモンド)。  今回のクーデタの引き金となったのは、9月26日に北部マリ国境近くで起こった襲撃事件である。イスラム急進主義勢力に包囲された町(Djibo)に食料などを届けるために組織され、軍のエスコートを受けたトラックの車列が襲撃され、少なくとも兵士11人が死亡し、民間人50人以上が行方不明となった(28日付ルモンド)。ブルキナファソは全13州のうち10州でアルカイダ系、IS系の勢力が活動すると言われる。こうした勢力に包囲された町では物資流通が滞り、住民は飢えに瀕している。  今回のクーデタは、治安回復に無力な政権に軍内部で不満が高まって起きた。首謀者の肩書きが「大尉」であることから、若手が決起したものであろう。政権を倒すことはできても、イスラム急進主義勢力を駆逐することは簡単ではない。中央が混乱すれば、その活動はさらに勢いを増す危険がある。 (武内進一)

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