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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2022年09月

西アフリカの洪水被害

2022/09/30/Fri

 旱魃に苦しむ北東部アフリカとは対照的に、西アフリカでは多雨と洪水の被害が報告されている(27日付ルモンド)。ナイジェリアは、全土にわたって洪水の被害を受けている。特に北部の被害が深刻で、過去10年間で最悪と言われる。300人以上が死亡し、農作物が甚大なダメージを被った。ナイジェリア危機管理庁は、36州のうち29州が洪水による被害を受けたと発表している。ニジェールでも、ニジェール川の氾濫により159人が死亡、20万人以上が被害を受けた。チャドでは国土の半分以上が洪水の影響を受け、国連によれば、被災者数は62万人を超えている。  広範囲の洪水被害は、農業生産に大きなダメージを与えるであろう。既に深刻さを増している食糧危機への悪影響が懸念される。 (武内進一)

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ソマリアの飢饉

2022/09/25/Sun

 ソマリアで飢饉の恐れという報道が、しばらく前から繰り返し流れている。事態は相当に深刻さを増しているようだ。9月5日には、国連人道調整局(UN OCHA)トップが、「飢饉はもうそこまで来ている。これは最後の警告だ」と、強い調子で危機を訴えた。  ソマリアを中心とするアフリカ北東部では、3年にわたって雨期に十分な降雨がない。旱魃は、少なくともこの年末まで続くと予想されており、事態の改善は当面見通せない。農業、牧畜が打撃を受け、すでに100万人以上が避難民キャンプへの移動を余儀なくされている。既に430万人が深刻な食糧危機に直面しているが、国連は今年末までにその数は670万人になると推計している。ソマリアの人口は1500万人強だから、人口の4割にあたる数である。  国際社会の関心は低く、対策に必要とされる資金(15億ユーロ)の65%しか集まっていない(23日付ルモンド)。ウクライナ戦争をはじめ、世界各地で人道危機が起こっているため、ソマリアの状況に関心が向かないのである。飢饉は唐突に起こるものではない。ソマリアでは2011年にも飢饉が起こり、26万人が死亡した。犠牲者の半分は、正式に飢饉が宣言される前に亡くなったと、米国のNGOであるInternational Rescue Committeeの代表は述べている。  ソマリアでは、イスラム急進主義勢力シャバブの活動が問題をさらに複雑にしている。シャバブは農村部を広く実効支配し、人道上の理由を含めて、西側のあらゆる関与に敵対的である。9月2日には、モガジシオ北部で援助物資を運ぶトラックが襲撃された。旱魃によって最も大きな影響を被っているのは最も貧困な農村地域だが、こうした地域ではシャバブの許可なく援助物資を配布できない。  NGOの中には、反テロ活動を掲げて駐留する米軍が実施する様々な規制が援助活動の妨げになっていると指摘する声もある。また、8月末にシャバブが行った首都モガジシオへの襲撃事件に対して政府が全面的な反攻を宣言したことで、援助活動がさらに困難になると予測されている(23日付ルモンド)。  飢饉は単に気候、環境が引き起こす現象ではなく、常に政治経済的要因との関係のなかでで発生する。ソマリアの現状は、改めてその事実を想起させる。 (武内進一)

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ケニアと西サハラ

2022/09/24/Sat

 9月14日、ルト新大統領は「ケニアは『サハラウィ・アラブ民主共和国』(RASD)の承認を取り消す」とツイートした。しかし、そのツイートは削除され、2日後にケニア外務省は事務局長名で同省内および全在外公館に対して、RASDをアフリカ統一機構(OAU)のメンバーとしての承認した1982年の決定を遵守するとの通達を発出した。19日になってメディアにリークされたこの通達は、ケニアはソーシャルメディアで政策を発表しない、とも述べて、暗にルトを批判している(20日付ルモンド)。  13日にルト新大統領の就任式があったばかりで、RASDのブラヒム・ガリ大統領(ポリサリオ戦線議長)はこの就任式に出席していた。ルトのツイートは、モロッコの外相と会談した直後に投稿されたという(15日付ルモンド)。  この一件から、少なくとも2つの含意を読み取ることができる。第一に、ケニアの大統領府と外務省との亀裂である。ルトは今年4月にも、モロッコの主権下での西サハラの自治計画に賛意を示したことがある。大統領選挙で「貧者の味方」というキャンペーンを打ったルトは、公約で農民のために肥料価格を半額にすると約束した。モロッコは肥料の輸出大国であり、ウクライナ戦争によって世界的な肥料不足が深刻になるなかで、モロッコとの関係を重視したい意向がある(20日付ルモンド)。  第二に、西サハラ問題の国際化が顕著になっている。8月末のTICADにガリRASD議長が出席したことで、モロッコは参加を取りやめた。この一件をめぐってチュニジアとモロッコの間の外交関係は緊張を続けており、背景としてチュニジアに対するアルジェリアの影響力拡大を指摘する声がある(8月30日付ルモンド)。1982年のOAU決定を受けて脱退したモロッコは、2017年になってOAUの後継組織アフリカ連合(AU)に復帰したが、その後西サハラ問題をめぐって積極的に自国の立場を訴えてきた。2020年末にトランプ政権がモロッコの立場を認めて以降、その動きはさらに強まっている。こうしたモロッコの動きに対抗する形で、アルジェリアも積極外交に方針を転換しつつある(9月6日付ルモンド)。ここ数年、湾岸諸国やトルコが、相互のライバル関係を背景として、サブサハラアフリカへの関与を強めている。西サハラ問題をめぐるモロッコとアルジェリアの関係もそれに似た動きと言えそうだ。 (武内進一)

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エリザベス女王死去への反応

2022/09/15/Thu

 英国のエリザベス女王の死去(8日)に対して、多くのアフリカ諸国で女王に対する尊敬と弔意を示す声が聞かれた。ルワンダでは、9日、カガメ大統領が、女王の死を悼み、国旗とEAC(東アフリカ共同体)旗を反旗で掲揚するよう指示した(9日付New Times)。  とはいえ、アフリカ側の感情は複雑だ。南アフリカでは、急進的なEFF(経済的自由戦士)が「自分たちはエリザベス女王の死を悲しまない。英国は王室の下でアフリカ、そして我が国を植民地化した。1806年にケープに占領地を築いて以降、先住民は平和を失った」とコメントした。ルモンド紙は「誰もイギリスが植民地期にケニアでやったことを話さない」というケニア人の声、「自分のおばあさんが亡くなったようで涙が出るが、これが植民地心性というものか」というナイジェリア人の声を紹介している(10日付)。  フランスのメディアでは、脱植民地化後のアフリカに対する英仏の関係を比較し、女王の役割を考える報道が目立った。これは、旧英連邦諸国を中心としたコモンウェルスが、その枠組みを超えて加盟国を増やしている動きに触発されたものだ。モザンビークが1995年に加盟し、2009年にルワンダ、2022年にガボンとトーゴが続いた。  コモンウェルスを専門とするフランスの歴史家ロワロン(Virginie Roiron)は、ルモンド紙のインタビューに答えて、次のように分析している(9日付)。  コモンウェルスが旧英領以外の国にとって魅力的になった背景として、グローバル化の中で、英語圏とのつながりが経済的利益に直結するようになったことがある。一方で、とりわけBrexit以降、国際政治の中心課題において人権と民主主義の優先度は次第に下がり、コモンウェルスは経済協力中心の機構になった。2013年にスリランカでコモンウェルスのサミットが開催されたとき、タミル人反乱軍への抑圧をめぐって開催に反対する意見がでた。しかし、今年6月にルワンダがコモンウェルスのサミットを主催した際、そうした反対意見は出なかった。  日本と韓国、フランスとアルジェリアに見られるように、かつての植民地宗主国と旧植民地との間には複雑な関係があり、しばしば紛争に発展する。英国は比較的うまくこの問題を処理してきたように見え、その理由としてエリザベス女王の役割が挙げられることがある。女王が近代的なコモンウェルスの象徴であったことは間違いないが、近年のこの組織の活況に関しては、グローバリゼーションと英語の重要性の高まりという要因が大きそうだ。  (武内進一)

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TICADをもう一度振り返って

2022/09/09/Fri

 9月3日の本欄で、TICAD8について「大きな紛糾もなく終了した感がある」と書いたところ、コメントを頂戴した。これまでと違い、今回のTICADでは市民社会の参加が認められず、参加者が大幅に減少したことは重大な問題だ、というご指摘である。  コメントをくださった稲場雅紀さんは、昨日発行されたメールマガジン『グローバル・エイズ・アップデート』の編集後記のなかで、具体的にに問題点を指摘している。要点は、1)「コロナ」を理由に市民社会の参加が認められなかった、2)日本政府がチュニジア政府とともにトップダウンで両国の「市民社会代表」をノミネートし、スピーチさせた、3)西サハラ問題のミスマネジメントがあった、ということである。  市民社会の参加が認められなかったとすれば、これまで積み上げられてきたTICADの成果に照らして重大な問題である。外務省側は「市民社会の代表」が参加したと述べているが、仮にこの「代表」がトップダウンで選ばれたのであれば、問題は大きい。強権的なサイード政権と同じように「市民社会代表」を選んだのかと思うと、深く失望する。  本欄を書くにあたって、私はファイナンシャルタイムズやルモンドといった海外報道をベースにした。購読している日本の新聞は、朝日新聞と日本経済新聞である。これらマスメディアにおいて、上記の問題が取り上げられることはなかった。西サハラ問題についても、日本のミスマネジメントという文脈では報じられていない。  同じメールマガジンの記事のなかで、稲場さんは、TICADで日本政府が発表したグローバルファンドへの拠出額が大きなインパクトを持ったと報告している。TICADにはもちろん成果もあった。一方、外務省の公開資料とマスメディアの報道に依拠する限り、何が起こったのか、よくわからないというのが率直な印象である。今後、さらなる情報が出てくることを望む。  (武内進一)

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ケニア大統領選でルトの勝利確定

2022/09/07/Wed

 9月5日、ケニア最高裁判所は、8月9日に実施された大統領選挙結果に関するオディンガの訴えを退け、ルトの勝利を全員一致で確認した。オディンガは、不満を表明しながらもこの判決を受け入れた。これで、今後5年間、ルトがケニアの最高指導者となることが確定した。  今回の選挙戦では、現職のケニヤッタが副大統領のルトではなく、かつてのライバルであるオディンガを支援する構図となった。ルトは、二世政治家のケニヤッタやオディンガを「王朝」だと批判し、自分は貧困層の出身であり、「たたき上げ」の「アウトサイダー」だと強調した。  オディンガ有利との事前報道があったが、8月15日に選挙委員会(IEBC)委員長がルトの勝利を発表した。ルトが50.49%、オディンガが48.85%の得票率であった。しかし、同日IEBCの7人の委員のうち4人が別の場所で会合を開き、「開票手続きに不透明さがあった」として、委員長が発表した結果を否定したことから疑惑が広がった。8月22日、オディンガは最高裁判所に異議を申し立て、その判断が待たれていた。  前回(2017年)の大統領選挙でも選挙結果への異議が最高裁に持ち込まれ、結局、選挙のやり直しが命じられた。しかし、今回は最高裁が一致して選挙結果を認める結末となった。  今回、ケニア最大のエスニックグループであるキクユ人の居住地域(ケニア山地域)でカレンジン人のルトが圧勝したことを受けて、エスニックなファクターが重要性を失ったとの意見も報じられた(8月20日付ファイナンシャルタイムズ)。ケニヤッタがキクユ人からの信頼を失っていたことはおそらく疑いないが、副大統領のガチャグア(Rigathi Gachagua)はこの地域を地盤とするキクユであり、エスニックなファクターは依然一定の重要性を持ったであろう。  大きな暴力なく新たな大統領を選んだケニアの民主主義は評価されるべきである。とはいえ、本当の評価はこれから5年間の成果による。債務問題など課題は多いが、スタートアップ企業が活発に活動し、地熱発電などの有望な再生可能エネルギー源を有するケニアの潜在力には世界が注目している。民主主義の観点からも評価を高めてほしい。 (武内進一)

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ウガンダ「預言者」の逮捕

2022/09/04/Sun

近年、アフリカのペンテコステ・カリスマ系教会の指導者が詐欺や暴力などで起訴されるニュースは珍しくない。昨日は、ウガンダで「預言者」を名乗る牧師が、暴行、傷害、人身売買の罪などで起訴されたことが報じられた(BBC 9月3日)。ホイマ・エンパワーメント国際教会の牧師キントゥ・デニス(Kintu Dennis)だ。彼が自分の教会のメンバーを鞭打つ姿は、オンライン動画で広く流通した。今週水曜日、この映像に対する苦情を受けて、警察はこの42歳の牧師を他の教会員と共に逮捕したとされる。 キリスト教徒が人口の約80%を占めるとされるウガンダでの教会を巡る悲劇やスキャンダルは、今年4月に公開されたBBCドキュメンタリー「Faith Under Fire」でも詳しく報じられている。ここでは、2000年に500人以上の犠牲者を出した終末論的宗教運動や、神を名乗る教祖による教会運動、牧師による人間供儀など、近年耳目を集めた運動や事件が扱われている。現在アフリカのキリスト教を理解するために有益なドキュメンタリーではあるが、この映像が宗教の過激な側面のみを取り出し、教会の中にいる人々の切実なニーズや、教会全体に占める過激な行為の割合などを提示しないまま、非宗教的な教育を支持する態度をとっているといった傾斜には留意しながら観る必要があるだろう。  今回のウガンダのニュースで注目したいのは、まず動画が公式に教会のものとして放映されていたということであり、それがネット上で拡散し、異議申し立てをする人がいた結果、警察が介入したということだ。つまり、多くのペンテコステ・カリスマ系教会で、メディアでの福音を布教戦略として使っているが、SNSが普及する中、メディアは人々が教会の過激な行為を精査する手段ともなっているのである。今後、宗教とパブリックはメディアを介しながらどのような関係を作っていくのか。動向を見ていきたい。

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TICADを振り返って

2022/09/03/Sat

 8月27,28日にチュニジアで開催されたTICADは、サハラウィ・アラブ民主共和国(RASD:西サハラ)代表の出席に対してモロッコが不参加を表明するという波乱はあったものの、全体的に大きな紛糾もなく終了した感がある。今後3年間で300億ドルの資金提供というのは、昨年11月のFOCACで中国が表明した400億ドルには及ばないものの、日本政府としてはそれなりに大きなコミットメントと言えるのではないだろうか。近年減少傾向にある民間部門の対アフリカ投資が今後どう動くのかが注目される。  TICAD8の取組みには、1)経済、2)社会、3)平和と安定、という3つの柱がある。1)には民間セクター支援、食料安全保障、債務管理、グリーン成長イニシアティブ、スタートアップ支援などが、2)には新型コロナをはじめとする感染症対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)推進、質の高い教育支援、科学技術協力、気候変動対策などが、3)には民主主義の定着、法の支配推進、紛争予防、平和構築、コミュニティの基盤強化などが含まれる。日本では、1)と2)に力点を置いて報じられた。  NHKの報道によれば、岸田総理、チュニジアのサイード大統領とともに共同議長を務めたAU議長のサル大統領(セネガル)は、閉幕後の共同記者会見で、対テロ対策の重要性を訴えた(29日)。この点はルモンド紙も報じており、西アフリカにはテロ対策が予算の3割を占める国家もあるとして、武器購入がアフリカ諸国の債務負担につながらないようにしてほしいと要請した(8月29日付)。同じルモンド紙は、マリ、ブルキナファソ、ニジェールの3カ国にまたがる地域(Liptako-Gourma region)に830万ドルの支援が供与されることが決まったと報じているが、外務省の資料や日本側の報道では確認できない。  これまでのTICADにおいても、その取組は概ね上記3つの柱として整理されてきた。平和と安定は、TICADでいつも重要な柱と位置づけられながら、具体的な取組みがわかりにくい。関連する様々な努力がなされているだけに、残念なことである。

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