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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2022年08月

マクロン仏大統領のアルジェリア訪問

2022/08/28/Sun

 8月25~27日、フランスのマクロン大統領がアルジェリアを訪問した。大統領としての訪問は、2017年12月以来である。今回の訪問は、二国間関係の修復が主たる目的であった。  マクロンは大統領候補者であった2017年2月にアルジェを訪問し、「植民地主義は人道に反する罪だ」と発言し、議論を呼んだ。国内の右派はこぞってこの発言を批判したが、マクロンは大統領選挙に勝利し、その後は積極的に「過去」の問題に取り組んできた。  彼の任期中にこの取組みが順調に進んだとは言えない。2021年1月、マクロンの命を受け、歴史家のバンジャマン・ストラがフランス・アルジェリア間の記憶をめぐる和解に関する報告書を提出したが、アルジェリアでの受け止めは冷淡だった。加えて昨年9月には、マクロン自身の発言がアルジェリアの反発を呼び、大使召還や領空通過禁止措置にまで至った。  今回の訪問は、国賓待遇ではなく、「公式かつ友好的訪問」と位置づけられた。ビジネス振興、エネルギー確保、移民問題、マリへの対応など両国間の懸案は多岐にわたり、マクロンの訪問には財務相、内務省、国防相、外相、さらにはビジネス界、文化界の要人など90人が随行した(25日付ルモンド)。しかし、あくまでも両国間の友好と信頼関係の再構築が前面に打ち出され、マクロンはアルジェに到着後、テブーン大統領に会う前に独立戦争で殺されたアルジェリア人のモニュメントに献花した。  27日、両首脳は、二国間関係の「不可逆的な新ダイナミズム」を呼びかける共同声明に署名。テブーン大統領は、マクロンの訪問を賞賛した(27日付ルモンド)。まずは外交的な信頼再構築という目的は達せられたように見える。  植民地支配の経験をめぐって外交関係がギクシャクするのは、日本を含め、多くの国が経験することである。首脳による一回の訪問が持つ効果は限定的であるにせよ、リーダーシップがなければ新たな局面を打開できないことも事実である。

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南アの公教育の多言語化

2022/08/24/Wed

 南アフリカの東ケープ州で、史上初めて試験問題をコーサ語とソト語に翻訳することになったと報じられている(BBC 8月23日)。翻訳されるのは12年生試験で、数学、物理科学、生命科学、歴史、農業科学、会計学である。コーサ語とソト語は、南アフリカの11の公用語のうちの2つである。これまで南アの公教育では、4年生以降はほとんど英語だけで行われてきた。しかし、英語を家庭でも話す人口は9%にとどまり、そのほとんどが白人層である。家庭での言語を使う方が教育上有利であるため、アパルトヘイト下で優遇された層が、現在も優遇されているという点が批判されてきた(The Conversation 8月2日)。今回の動きは、このような不平等の是正を目指したものといえる。  南アの言語政策は、植民地主義やアパルトヘイトの歴史とも深く関連してきた。今年6月にアイルランドの航空会社ライアンエアが、英国入国の際の南アパスポート不正を防止するために乗客にアフリカーンス語のテストを設けるとしたことが大きな批判を呼んだが、それはアフリカーンス語が、ヨーロッパ系白人の入植者が、アフリカでのアイデンティティを固めるために使った言語であり、アパルトヘイトにおける権威的な言語だったからだ(BBC 6月14日)。人口の約13%しか使用していないマイノリティの白人層の言語にも関わらず、アフリカーンス語がいまだに権威的な立場にあることは、脱植民地主義を目指す近年の学生運動によっても抗議されてきた。その流れの中で、2015年南アのエリート大学であるステレンボッシュ大学は、アフリカーンス語を教育言語として使用することを放棄し、英語で教える方向を決めている(BBC 2015年11月13日)。  歴史を背負いながら言語の平等性を担保しようとする南アの動きは、複数の公用語を持つことも多いアフリカ各国の言語政策に対して、一つのモデルを示す可能性がある。公教育の多言語化を促す今回の動きが、どのような結果につながるかを見ていく必要があるだろう。  

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化学肥料価格の高騰と農業への影響

2022/08/23/Tue

 化学肥料価格の高騰が、アフリカの食料問題に暗い影を落としている。化学肥料価格の高騰には、天然ガスの供給不足が大きく影響している。化学肥料の主要原料で、天然ガスからつくられる窒素の価格が、ロシアによるウクライナ侵攻によって急騰した。穀物価格が総じて上昇したことで、生産者の作付け意欲が高まったことも肥料高騰の背景にある。  アフリカは他地域に比べて化学肥料の投入量が少ないが、価格高騰の影響は大きい。22日付のファイナンシャルタイムズによれば、コートジボワールやカメルーンでは、2月のウクライナ侵攻以来化学肥料価格が50%以上上昇した。その他の国々でも化学肥料価格は急激に上昇しており、多くの農家にとって、適切な施肥が困難になっている。ガーナでの調査によれば、今年は半数以上の農家が全く肥料を投入できていない。世界的に見て、2022-23年は、トウモロコシ、小麦、コメ、大豆生産が1.8%減少する見込みだが、ケニアでは食料生産量が6%減少すると予想されている。  化学肥料の主要な輸出国(2020年)は、ロシア、中国、カナダ、米国、モロッコ、ベラルーシ、オランダの順になっており、ロシア産化学肥料への依存度は、ガーナで35%強、カメルーンで5割近い(2021年)。ロシア産製品が制裁の影響を受けていることは、言うまでもない。リン鉱石を産出するモロッコは肥料の輸出大国であり、同国のOCP社はサブサハラ・アフリカ向けに18万トンの肥料を贈与し、37万トンを割引価格で販売したという(22日付FT)。  化学肥料不足の影響がどの程度深刻か、判明するのはこれからの収穫期であろう。とはいえ、北アフリカでは異常高温、東アフリカでは干ばつなど、異常気象の影響も報道されており、アフリカ農業にとってはかなり厳しい年になりそうだ。

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米国務長官のアフリカ歴訪

2022/08/13/Sat

 ブリンケン米国務長官は、7日から12日にかけて南アフリカ、コンゴ民主共和国、ルワンダを歴訪した。同氏は昨年11月にはケニア、ナイジェリア、セネガルを、今年3月にはモロッコ、アルジェリアを訪問している。  今回訪問した3カ国は、それぞれ米国にとって重要な意味を持つ。南アでブリンケン氏は、ソウェト蜂起(1976年)の記念碑に献花し、対等な関係に基づく新たなアフリカ政策を約束した。南アフリカは3月2日の国連における対ロシア非難決議で棄権するなど、ウクライナ侵攻に際して欧米から距離を取るアフリカの立場を代表している。今回の南ア訪問の背景には、自国の行動がアフリカ諸国から十分な理解を得られていないとの米国の認識(危機感)がある。  折しも、7月末にはロシアのラブロフ外相がエジプト、コンゴ共和国、ウガンダ、エチオピアを歴訪し、エチオピアでは、アメリカが支配する世界秩序を支持しないよう記者会見で訴えている(7月28日付ルモンド)。米国が南アに接近する動機はよくわかる。  コンゴとルワンダへの訪問は、M23反乱による両国の緊張を受けてのものである。ルワンダのM23への支援を指摘する国連専門家委員会報告書がリークされた直後だけに、ブリンケン氏の発言が注目されたが、この点に関する明確な非難はなかった。コンゴ国内には、対応が不十分だとの意見もある。  一方で、今回の訪問から米国のコンゴ重視の姿勢、そしてルワンダへの圧力を読み取る向きもある(12日付ルモンド)。米国要人のコンゴ訪問は2014年以来である。コンゴは近年中国との関係を深めてきたが、コバルトなど希少鉱物資源産出国としてのコンゴの重要性は、米国にとって高まっている。  逆にルワンダに対しては、人権面の懸念が米国内で表面化している。具体的には、2020年に逮捕され、翌年に懲役25年の実刑判決を受けたポール・ルセサバギナ氏(『ホテル・ルワンダ』主人公のモデル)に関する懸念であり、今回のブリンケン氏の訪問時にも議題に上った。記者会見で同氏は、人権尊重に関して「深刻な懸念」を表明した。米国内には、対ルワンダ援助の全面的見直しを求める声も出ている。  アフリカに対して無関心だったトランプ政権期と比べ、バイデン政権ではアフリカへのアプローチが目立つ。政権の性格だけでなく、中国の存在感の高まりやロシアによるウクライナ侵攻など、国際情勢がそうした対応に向かわせているのであろう。

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ケニア大統領選挙と債務問題

2022/08/08/Mon

 9日の大統領選挙を前に、ケニアでは選挙戦の最終日となった。5回目の挑戦となるオディンガ(77歳)と現職副大統領ルト(55歳)の事実上の一騎打ちである。現職大統領のケニヤッタがオディンガ支持に回ったことで、オディンガ有利との前評判が高い。先週実施された世論調査の結果は、オディンガが47%、ルトが41%であった(8日付ファイナンシャルタイムズ)。ルトは農民の息子であることを強調し、貧困対策の充実を主張している。これは、いずれも政治家二世であるケニヤッタとオディンガへの批判でもある。  いずれが大統領に就任するにせよ直面せざるを得ない深刻な課題として、対外債務がある。ケニヤッタは在任中にメガ・インフラ・プロジェクトを建設した。ナイロビ・モンバサ間を結ぶ「標準ゲージ鉄道」(Standard-Gauge Railway: SGR)はその代表である。。建設費470億ドルのうち70%を中国輸出入銀行が出資し、ケニヤにとっては独立後最大のインフラプロジェクトとなった。しかしながら、今日利用者は少なく、この3年間で2億ドルの営業損益を出している。  今年5月に完成したExpresswayもそのひとつである。国際空港と首都を結び、渋滞を避けて20分でナイロビ市内に到着することができる。しかし、1回の利用料金が300シリング(約2.5USドル)かかることもあり、利用は進んでいない。このプロジェクトは、ケニア政府とChina Road and Bridge Corporation (CRBC)とのPPPで建設された(8日付ルモンド)。  ケニアの債務は10年間で4倍に膨らみ、GDPの70%に達した。対外債務の3分の2は中国向けである(8日付けルモンド)。IMFは同国を重債務リスク国に指定した。アフロバロメーターの調査によれば、中国から借金して大規模インフラに投資をし過ぎたという意見が、ケニアでは特に強い(3日付FT)。今年に入って、中国がアフリカへの融資により慎重な姿勢を取るようになっているとの報道が目立つが(1月11日付けFT、同日付ルモンドなど)、ケニアやザンビアでの経験がその背景をなしている。ケニア新政権は、こうした状況のなかで債務交渉に臨むことになる。

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セネガル下院選挙で政権与党敗北

2022/08/07/Sun

 7月31日、セネガルで下院選挙が実施され、政権与党が大幅に議席を減らした。マッキー・サル大統領の政権与党連合BBY(Benno Bokk Yaakaar:ウォロフ語で「希望のための統一」)は、前回2017年選挙から43議席減の82議席にとどまり、総議席(165)の過半数を割り込んだ。一方、南部ジガンショール市長のソンコ(Ousmane Sonko)が指導する政党連合YYW(Yewwi Askan Wi:ウォロフ語で「人々の解放」)が56議席を獲得。YYWと同盟関係を組むWallu Sénégal(ウォロフ語で「セネガルを救え」。ワッド前大統領が指導)が24議席を獲得したため、合わせて80議席を確保した。残る3議席の行方によって、議会運営の多数派が決まる緊迫した状況になっている。  選挙は大きな暴力もなく遂行され、ECOWAS監視団は選挙が「平穏かつ透明」であったと評価して、各党に選挙結果に異議申し立てをしないよう勧告した。しかし、野党側は、サル大統領の地元である北部地域で選挙不正があったと主張している(4日付ルモンド)。  今後、多数派工作が活発化することになろうが、政権与党が中間選挙でここまで大敗したのはセネガル政治史上初めてのことである。今回は、2024年2月に予定されている次期大統領選挙前に実施される最後の下院選挙で、政権与党は様々な形でYYWの運動を妨害してきた。サル大統領は現在二期目だが、三期目を狙う意欲もあったとされる。今回選挙での政権与党の大敗は、サル政権にとって大きなダメージとなろう。

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コンゴ東部紛争へのルワンダの関与

2022/08/06/Sat

 コンゴ東部でルワンダ系住民を主体としたM23の反乱が続くなか、ルワンダ軍の関与を裏付ける国連専門家委員会報告書がリークされ、4日ルモンド紙など各社が一斉に報じた。  同報告書は、ルワンダ軍がコンゴ領内で、FDLRの拠点を攻撃するとともに、M23を支援していると主張している。FDLRは、もともとは1994年のルワンダ・ジェノサイドに加担した人々(いわゆるフトゥ系)を中核とする武装勢力で、20年以上コンゴ東部で活動を続けている。M23の中核は、いわゆるトゥチ系である。(コンゴ東部における武装勢力の構成は非常に複雑で、トゥチ、フトゥといったエスニシティだけで説明できないことに注意する必要がある。)ルワンダは常にFDLRが安全保障上の脅威だと主張してきた。ただし、FDLRによるルワンダ本国への攻撃は、ここ20年ほど行われていない。  今回の報告書では、M23陣営にいるルワンダ兵の写真、コンゴ領内を行軍する数百人の兵士の映像、ルワンダ軍が提供し制服や装備品を利用するM23兵士の写真などが含まれているという。  これに対してルワンダは、強く反発している。4日、政府スポークスパーソンのマコロ(Yolande Makolo)は、これは最近高まっている国連平和維持部隊Monuscoへの批判をかわすための言いがかりだと主張する一方、「ルワンダは国民と領土を守る正当な権利と主権を持っており、継続するカタストロフを傍観することはあり得ない」とも述べた(5日付ルモンド)。  ルワンダは2012年にもM23への支援を国連から指摘され、この時は西側主要国が援助を止めるなどの対応をとった。来週、ブリンケン米国務長官ががキンシャサ、キガリを訪問する予定と報じられているが、西側各国の対応が注目される。

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