セネガルでは最近になって同性愛者に対する抑圧が強まり、3月には厳罰化を趣旨とする反同性愛法が制定・発布された。これを正面から批判する人類学者Richard Powisの論説が、17日ルモンド紙に掲載された。彼は、この法律を正当化する二つの論理について、根拠がないと批判する。
第一に、同性愛はアフリカのものではなく、西側から輸入されたという主張である。こうした主張をするアフリカの指導者は少なくない。しかし、これまでの研究で、そうした主張に根拠がないことが示されている。植民地化以前のセネガルでは、同性愛者は社会に統合されていた。植民地期に持ち込まれたのが、同性愛を厳しく禁じる法律であった。今回のセネガルの法律についても、米国保守派(プロファミリー)の影響が指摘されている。
第二に、同性愛禁止は公衆衛生上の観点から必要だという主張である。しかし、性的マイノリティを罰することが、疾病の予防になるという主張には根拠がない。
セネガルはこれまで、安定した民主主義を実現してきた。サブサハラアフリカ諸国のなかではHIV/AIDSの感染率が低く、西アフリカでは妊産婦死亡率が最も低い国のひとつである。HIV感染率が低い理由として、WHOの勧告に迅速に対応してきたこと、イスラム宗教指導者・政府保健当局・議会が協力してきたことが指摘され、複合的要因によって感染症の流行が抑制されてきたと考えられている。妊産婦死亡率の低さも、過去数十年の政策的努力の結果と評価され、コミュニティ医療を重視するBajenu Goxという政府のプログラムが機能してきた。コミュニティの関与によって状況が改善してきたわけである。
罰則の強化は対象者に恥辱やスティグマを植え付け、コミュニティの関与を難しくする恐れがある。感染症予防など保健・衛生分野において、恥辱、スティグマ、孤立は状況を悪化させることが多くの研究で証明されている。
セネガルでは、2月以来、同性愛者と目された人びとが数多く逮捕されている。性的マイノリティを対象としたポピュリスト政策が、保健衛生に関する長年の蓄積に深刻なダメージを与えることが懸念される。(武内進一)
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