ナミビアの複数の首長らで形成される首長会議(OCA)は、25日、ジェノサイドに関する政府主催の集会への招待を辞退したと公表した。OCAはこの招待について、ナミビアとドイツの両政府が、植民地期のナミビアにおける残虐行為の全容を認めていない証左だと考えている。
OCAは、ナミビア政府がジェノサイド犠牲者の子孫の意見を取り入れずにドイツ政府との共同宣言を発表したことを批判しており、この共同宣言にもとづく政府間交渉は受け入れられないと主張している。
ドイツ政府は、2021年5月に植民地期のナミビアにおいてヘレロとナマの人びとに対しておこなった行為を、「今日の観点から見れば『ジェノサイド』であった」と認め、公式に謝罪した(今日のアフリカ、2021年5月29日)。そして開発、再建プログラムを提示し、ナミビア政府との共同宣言が出された。共同宣言には、「ドイツは祖先の罪に対する許しを求め」、「ナミビア政府と国民はドイツの謝罪を受け入れる」と書かれている。その後、ナミビア国内においては、ジェノサイド犠牲者の子孫を無視した政府間交渉に対する批判が、野党や当該コミュニティの代表者らから続出していた(今日のアフリカ、2021年6月10日)。
共同宣言では、30年にわたる総額11億ユーロの開発、再建プログラムがドイツ政府から提示されていた。しかし、それが法的な意味での賠償ではないこと、今回の謝罪が法的な補償金支払い要求に道を開くものではないことも明言されていた。OCAは、ナミビア政府に対し、ジェノサイドに関するドイツの立場について国際司法裁判所(ICJ)の意見を求めるよう要求しており、真の修復的正義には法的責任が不可欠であることを述べている。
OCAは、2024年4月にナンゴロ・ムブンバ大統領、そして6月にナンディ・ンダイトワ副大統領に書簡を送っているが、満足のいく回答を受け取っていない。現状を踏まえ、政府集会への招待を辞退し、むしろジェノサイドに関する全国的な協議会の開催を要求することを決定した。そして、より包括的なナミビア社会を築くために、さらなる対話に前向きであると語っている。
また、このOCAはナミビア議会にジェノサイド追悼の日について動議を提出しており、先月5月に首都で追悼行事を主催していた(今日のアフリカ、2024年5月29日)。彼らは追悼の日の議会承認を歓迎する一方で、関連する教育および記念事業の展開にはジェノサイド犠牲者の子孫からの意見を取り入れる必要があると強調している。ジェノサイド追悼の日をめぐっては、OCA以外の首長らから批判が出ており、ジェノサイド犠牲者の子孫も一枚岩的ではない。
「ジェノサイド」概念が登場する前の20世紀初頭のドイツによる残虐行為に対して法的責任を問うことができるのか。問うことができたとしても、ナミビア国内(外)で実際に暮らす被害者と加害者の子孫の和解はもたらされるのか。そして犠牲者の子孫の首長らが対立するなかで対話をいかにおこなうのか。ドイツ軍が撤退してから109年経過しても、和解から程遠い現状をナミビアは抱えている。(宮本佳和)