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今日のアフリカ

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ニジェールのロシア、イランへの接近

2024/05/12/Sun

 昨年7月のクーデタ以来、ニジェールが急速に反西側へと外交スタンスを転換している。昨年10月にフランス、今年3月には米国の駐留軍を撤退させる意向を表明したが、その後、ロシアから少なくとも2回にわたって軍事要員や軍事物資を受け入れた(4月10日、24日付ルモンド)。この際、ワグネルの後継組織である「アフリカ部隊」の軍人数百人がニジェール入りし、ロシアから地対空防衛システムを導入したとみられる。
 同じ時期、ニジェール軍事政権は、イランとの関係深化にも動いている。2023年10月、外相がテヘランでイラン外相に面会。1月にはラミヌ・ゼイン首相がライシ大統領と面会した。ゼイン首相は、4月に米軍撤退について確認するためワシントンを訪問する直前、テヘランとモスクワに立ち寄っている。
 欧米は、ウランの主要産出国ニジェールがイランに接近することを恐れている。ニジェールのウラン開発は、仏企業のオラノ社(旧アレヴァ社)やカナダ企業GoviEx社が行っており、オラノ社は国際規制を厳密に遵守していると述べている。一方で、ニジェール政府が「イエローケーキ」と呼ばれるウラン加工品300トンをイランと取引する秘密交渉を行っているとの噂も上がっている。
 3月に、アフリカ担当国務次官補モリー・フィーを団長とする米国交渉団がニジェールを訪問した際、議論となったのは、ロシアへの接近に加えて、イランとのウラン取引であった。米国側は、これらを行わないよう求めたが、ニジェール側と合意に至らなかった。
 イランとニジェールの関係深化にはロシアが関与している。イランがロシアに武器を提供し、その代わりにロシアがイランにニジェールへのアクセスを仲介したと報じられている。
 ニジェール側は、イランとのイエローケーキ取引を否定しているが、実態は不明である。これまでもニジェールは、外交上のカードとして、ウランを利用してきた。1974年クーデタ直後のクンチェ政権、2000年代資源高騰期のタンジャ政権などが、ウランを材料にフランス政府に圧力をかけ、取引の条件を改善させたという(5月10日付ルモンド)。
 これまでニジェールの歴代政権は、もっぱら、フランスとの関係でウランカードを使ってきた。しかし、現在、グローバルな国際秩序が揺らぎ、ウクライナ、ガザという二つの戦争が進行するなかで、軍事政権がこのウランカードを交渉の材料として使っている。その含意や影響は、はるかに大きくなるだろう。
(武内進一)