9月3日の本欄で、TICAD8について「大きな紛糾もなく終了した感がある」と書いたところ、コメントを頂戴した。これまでと違い、今回のTICADでは市民社会の参加が認められず、参加者が大幅に減少したことは重大な問題だ、というご指摘である。
コメントをくださった稲場雅紀さんは、昨日発行されたメールマガジン『グローバル・エイズ・アップデート』の編集後記のなかで、具体的にに問題点を指摘している。要点は、1)「コロナ」を理由に市民社会の参加が認められなかった、2)日本政府がチュニジア政府とともにトップダウンで両国の「市民社会代表」をノミネートし、スピーチさせた、3)西サハラ問題のミスマネジメントがあった、ということである。
市民社会の参加が認められなかったとすれば、これまで積み上げられてきたTICADの成果に照らして重大な問題である。外務省側は「市民社会の代表」が参加したと述べているが、仮にこの「代表」がトップダウンで選ばれたのであれば、問題は大きい。強権的なサイード政権と同じように「市民社会代表」を選んだのかと思うと、深く失望する。
本欄を書くにあたって、私はファイナンシャルタイムズやルモンドといった海外報道をベースにした。購読している日本の新聞は、朝日新聞と日本経済新聞である。これらマスメディアにおいて、上記の問題が取り上げられることはなかった。西サハラ問題についても、日本のミスマネジメントという文脈では報じられていない。
同じメールマガジンの記事のなかで、稲場さんは、TICADで日本政府が発表したグローバルファンドへの拠出額が大きなインパクトを持ったと報告している。TICADにはもちろん成果もあった。一方、外務省の公開資料とマスメディアの報道に依拠する限り、何が起こったのか、よくわからないというのが率直な印象である。今後、さらなる情報が出てくることを望む。
(武内進一)