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今日のアフリカ

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ケニアと西サハラ

2022/09/24/Sat

 9月14日、ルト新大統領は「ケニアは『サハラウィ・アラブ民主共和国』(RASD)の承認を取り消す」とツイートした。しかし、そのツイートは削除され、2日後にケニア外務省は事務局長名で同省内および全在外公館に対して、RASDをアフリカ統一機構(OAU)のメンバーとしての承認した1982年の決定を遵守するとの通達を発出した。19日になってメディアにリークされたこの通達は、ケニアはソーシャルメディアで政策を発表しない、とも述べて、暗にルトを批判している(20日付ルモンド)。
 13日にルト新大統領の就任式があったばかりで、RASDのブラヒム・ガリ大統領(ポリサリオ戦線議長)はこの就任式に出席していた。ルトのツイートは、モロッコの外相と会談した直後に投稿されたという(15日付ルモンド)。
 この一件から、少なくとも2つの含意を読み取ることができる。第一に、ケニアの大統領府と外務省との亀裂である。ルトは今年4月にも、モロッコの主権下での西サハラの自治計画に賛意を示したことがある。大統領選挙で「貧者の味方」というキャンペーンを打ったルトは、公約で農民のために肥料価格を半額にすると約束した。モロッコは肥料の輸出大国であり、ウクライナ戦争によって世界的な肥料不足が深刻になるなかで、モロッコとの関係を重視したい意向がある(20日付ルモンド)。
 第二に、西サハラ問題の国際化が顕著になっている。8月末のTICADにガリRASD議長が出席したことで、モロッコは参加を取りやめた。この一件をめぐってチュニジアとモロッコの間の外交関係は緊張を続けており、背景としてチュニジアに対するアルジェリアの影響力拡大を指摘する声がある(8月30日付ルモンド)。1982年のOAU決定を受けて脱退したモロッコは、2017年になってOAUの後継組織アフリカ連合(AU)に復帰したが、その後西サハラ問題をめぐって積極的に自国の立場を訴えてきた。2020年末にトランプ政権がモロッコの立場を認めて以降、その動きはさらに強まっている。こうしたモロッコの動きに対抗する形で、アルジェリアも積極外交に方針を転換しつつある(9月6日付ルモンド)。ここ数年、湾岸諸国やトルコが、相互のライバル関係を背景として、サブサハラアフリカへの関与を強めている。西サハラ問題をめぐるモロッコとアルジェリアの関係もそれに似た動きと言えそうだ。
(武内進一)