• アクセス
  • English
  • 東京外国語大学

今日のアフリカ

今日のアフリカ

マリがフランス軍地位協定を破棄

2022/05/05/Thu

 2日、マリ政府は、フランス軍、EU諸国軍のマリ領内での活動を規定する地位協定(Status of Force Agreement:SOFA)を一方的に破棄し、即時失効させると発表した。これに対しフランス軍参謀本部は、こうした一方的な破棄は正当化できず、最後のフランス兵がマリ領土から離れるまで地位協定は依然有効だ、との見解を示した。
 マリ、フランス関係の悪化は昨年来顕著であり、2月にはフランスがマリにおける「バルカンヌ作戦」の終了を宣言している。既に、キダル、テサリット、トンブクトゥ、ゴシ(Gossi)の基地を閉め、残るメナカとガオの基地も8月をめどに閉鎖する(5月3日付ルモンド)。マリは、地域協定の破棄によって、同国領土内のフランス軍は違法と見なされると主張しており、撤兵に支障が生じる恐れが出ている。
 今回のさらなる関係悪化のきっかけとなったのは、3月末に中部ムラ(Moura)で起こった虐殺疑惑と、フランス軍がドローンで撮影した映像公開であった。マリ政府は、3月27~31日にムラ近郊で大規模な対ジハディスト掃討作戦を実施し、200人以上のジハディストを殺害したと発表した。しかし、直後から、ロシアのワグネルが関与して多くの民間人が巻き添えとなって殺されたとの疑惑が広まり、Human Rights Watchなど人権団体やグテーレス事務総長が批判や懸念を表明する事態になっていた。ルモンドは4月6日付けの社説で、マリ軍とワグネルによる戦争犯罪の疑いがあるとして、徹底した調査を要求している。
 この文脈で、フランス軍は4月末、ゴシ基地近くで撮影されたとする映像を公開した。この映像は上空からドローンで撮影され、白人にみえる兵士が何かを埋めている様子がわかる。ワグネルによる虐殺への関与を示す証拠として、フランス軍はこれを公開したのである。今回のマリによる地域協定の一方的破棄は、これに対する反発である。
 ロシアとマリは国連の場でも攻勢に出ている。マリは、国連に対する4月末の書簡で、「外国機、特にフランス機による、スパイ、脅迫、転覆を目的とした度重なる、意図的な領空侵犯」について非難した。5月3日には、ロシアの提案により安保理でマリに関するインフォーマル会合が開催され、ロシアは、フランスが同国やマリに関する根拠のない批判を拡散していると非難した。
 地域協定の破棄により、マリに残るフランス軍は法的な保護を失う。ウクライナ情勢も反映し、マリをめぐる西側とロシアの綱引きは複雑さを増している。