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今日のアフリカ

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ケ・ブランリ美術館の所蔵品返還

2021/10/24/Sun

 パリのケ・ブランリ(Quai Branly)美術館が所蔵するアボメ王国の美術品が、11月9日にベナンに返還されることに伴い、10月20日~31日に展示されると発表された。彫像や王座の象徴など26体が返還される。これらは、1892年にアボメ王国の首都を征服した軍によって持ち去られ、パリのトロカデロ博物館に寄贈されたものである。国家収蔵品として、後にケ・ブランリ美術館に移された。
 返還に至るには、長い時間がかかっている。ベナンの経済首都コトヌにはジンスー(Zinsou)財団の近代的な美術館(2005年開館)があるが、そこで2006年にこれら彫像のレプリカを展示したところ、大きな反響を呼んだ。2016年には、ベナン大統領のタロンがフランスに返還を要請している。しかし、当時のアイロー仏外相は、国家所蔵品は譲渡不可能であるとの理由でこの要請を拒んだ。
 状況は、2017年11月にマクロン大統領がワガドゥグで行った演説によって、大きく動くことになる。この年に大統領に選出されたマクロンは、「アフリカの遺産はヨーロッパの個人や美術館だけに置かれてよいものではない。今後5年のうちにアフリカの遺産をアフリカに戻したい」と美術品返還に前向きの姿勢を示したからである。2018年には、フランス人歴史学者でナポレオンによる略奪を専門とするサヴォイ(Bénédicte Savoy)と、セネガル人経済学者サル(Felvine Sarr)が大統領府からアフリカに派遣され、返還の原則についての提言をまとめた。2020年には、国家の収蔵品は譲渡できないという原則があるなかで、返還を可能にするための法律が制定された。今回の返還は、こうした経緯を踏まえたものである。10月8日にモンペリエで開かれたフランス・アフリカサミットでは、コートジボワール、エブリエ人の「話す太鼓」を返還することも明らかにされた。これも、植民地統治下の1916年に持ち去られ、コートジボワールが2018年に返還を要請したものである。
 旧植民地宗主国の美術館にとって、その収蔵品がどこから、どのような状況でやってきたのかを再点検することは、必須になりつつある(23日付ルモンド社説)。ケ・ブランリ美術館館長のインタビューにおいてもこの点は強調されており、ミシェル・レリスの『幻のアフリカ』で有名な、マルセル・グリオールを隊長する「ダカール・ジブチ調査団」(1931~33年)の収集品も再検討の対象となることが明言されている(23日付ルモンド)。