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今日のアフリカ

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アフリカ美術品の返還

2021/04/13/Tue

 最近、かつて植民地征服の際にアフリカからヨーロッパに持ち去られた美術品を返還する動きが目立つようになった。2018年11月、マクロン仏大統領はアフリカ諸国への美術品返還について演説で言及し、その後セネガルなどに少しずつ返還が始まった。ドイツも、ベルリン民族学博物館の所有品も含めて、ベナン王国(現ナイジェリア)のブロンズ像の返還を決めた(3月27日付ファイナンシャルタイムズ)。スコットランドのアバディーン大学もまた、ベニン王国のオバのブロンズ像を返還すると決定した。これらは1897年にヨーロッパに持ち込まれ、同大学が1957年に市場購入したものだが、大学側は「非常に非道徳的なやり方で購入した」と認めている(3月29日付ルモンド)。
 アフリカ諸国による美術品返還要求は以前からなされてきた。1973年、ザイールのモブツ大統領は国連総会で植民地期にベルギーによって持ち去られた美術品の返還を要請し、結果として、美術品の返還を求める国連総会決議3187(1973年12月18日)が採択された。これに伴って、200程度の美術品が返還されたものの、返還された美術品が中古市場に出回る事態となって、返還は中断された。その後、アフリカ諸国による美術品返還の要求は繰り返されたものの、アフリカには保管条件を満たした美術館がないといった理由でその要求が真剣に検討されることはなかった。
 最近の返還の動きの背景として重要なのは、ブラック・ライブズ・マター運動の世界的広がりである。これによって、植民地主義が改めて問い直され、ヨーロッパ側に美術品返還を検討させる動力となった。
 また、近年、アフリカ諸国で美術館、博物館が充実してきたことも大きい。ベナンのコトヌ、セネガルのダカール、コンゴ民主共和国のキンシャサ、ナイジェリアのエドなどで、先端的な展示機能を持つ博物館が開設され、また開設が予定されている。このうち、ダカールの黒人文明博物館は中国、キンシャサの国立博物館は韓国の支援で建設されたことから、ルモンド紙では、東アジアの国々が地政学的な理由でアフリカの美術品管理を支援する措置に出たと論じている(4月8日付ルモンド)。
 原則から言えば、美術品は、正式な手続きを経たうえで、アフリカ側に戻されるべきだろう。ファイナンシャルタイムズ紙は、美術品にもともと神聖な意味が込められていたことに加えて、ナイジェリアの若者たちに本物を見せることの意味が大きいというナイジェリア人美術家の言葉を引いている(3月27日付)。