• アクセス
  • English
  • 東京外国語大学

今日のアフリカ

今日のアフリカ

『ホテル・ルワンダ』主人公の逮捕

2020/09/08/Tue

 映画『ホテル・ルワンダ』の主人公のモデルとして知られるポール・ルセサバギナ氏の逮捕は、日本でも大きく報じられた。彼は8月27日(木)にドバイから家族に連絡をし、その後31日(月)にルワンダで逮捕が発表された。娘のカニンバ氏は、ルセサバギナが自らルワンダに出向くわけがないとして、ドバイで誘拐されたと主張している。
 ルセサバギナは、ルワンダ現政権の批判者としても知られる。そのため、ルワンダ国内では、以前からルセサバギナは批判の対象となっており、折に触れて、映画は美談仕立ての偽りで、彼はトゥチの避難民からカネを巻き上げていた、といった「真相」がまことしやかに語られてきた。
 多くの国際メディアが、ルワンダが反体制派の口封じを行ったのではないかと疑惑の目を向けたのに対して、ルワンダ政府はルセサバギナ逮捕の正当性を強く主張している。6日、カガメ大統領は、ルセサバギナは自分の意思でルワンダに来たと述べ、誘拐説を真っ向から否定した。同日、政府系のNew Times紙も紙面を大きく割いて、ルセサバギナの罪状を列挙した。主張の中心は、ルセサバギナが反政府武装勢力に協力したという点だ。2018年12月、SNSを通じて、武力を使ってでもカガメ政権を打倒するよう扇動したという。ルワンダ側は、同年に南部のニャルグル県、ニャマガベ県を攻撃した武装勢力NLF(National Liberation Front)は、ルセサバギナから資金援助を受けていたと説明している。
 New Times紙は、ワシントンポスト紙で今回の逮捕を批判したJeffrey Smith氏にも批判の矛を向けた。「哀れなアフリカ人を、アフリカの独裁者から救え」と言わんばかりの、アフリカ人への軽蔑に満ちた記事だ、カガメ政権を批判するならニャルグルやニャマガベで武装勢力に殺された住民に何と言うのか、と激しく批判している。カガメ大統領の「誘拐説」否定も、ワシントンポストの記事を念頭に置いてのものと思われる。
 今後ルワンダ国内で行われる裁判では、ルセサバギナとNLFの関係が問われることになる。ルワンダ政府は国選弁護人をルセサバギナに付け、法に則って裁判を行う姿勢を示しているが、カニンバ氏は国選弁護人など信じられないと述べている。
 どのような経緯でルセサバギナがドバイからルワンダへ向かったのかなど、この事件にはまだ謎が多い。事態が明らかになるまで、しばらく時間がかかるだろう。