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今日のアフリカ

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サヘル情勢の展開

2019/11/12/Tue

10月末以降、イスラーム急進主義勢力との関係で、サヘル関係の報道が相次いだ。10月28日(月)、トランプ米大統領はイスラム国(IS)の指導者バグダディの死を発表し、その3日後にはISがそれを認めて後継者を発表した。フランスのパルリー軍事相も、5日、西アフリカで活動するイスラーム急進主義勢力の一つ「イスラームとムスリムを支持するグループ」(GSIM)のNo.2であるモロッコ人アリ・マイシュ(Ali Maychou, alias Abou Abderrahmane Al-Maghrebi)を10月初めに殺害したと発表している。
 米仏がイスラーム急進主義勢力指導者殺害の戦果を誇るのと時を同じくして、マリとブルキナファソでは急進主義勢力による攻撃が続いた。1日(金)にはマリ北東部の軍キャンプが襲撃され、マリ軍兵士約50名が殺害された。また翌日には、装甲車に対する爆破装置の作動で、フランス軍の兵士1名が殺害された。これらの事件に対して、ISの西アフリカ支部が犯行声明を出している(11月3日付ルモンド)。
 ブルキナファソでは、4日に北部で憲兵隊の支所が攻撃され、憲兵5人、市民5人が殺害された。6日には、モントリオールに本社を置く金鉱山企業Samafo社の従業員が乗った車両に攻撃があり、40人近くが死亡、60人以上が負傷した。この金鉱山にはこれまでもイスラーム急進主義勢力による攻撃が繰り返されており、今回もその関与が確実視されている。
 マリ中部とブルキナファソとの国境付近では、フラニ(プール)人を中核とするイスラーム急進主義勢力の活動が活発化しており、これに対する掃討活動、自衛活動としてフラニ人コミュニティが攻撃されるなど、コミュニティ間の衝突、対立が顕著になっている。特に、ドゴン人の秘密結社組織が民兵化し、フラニ人と衝突している。
 一方、4日付ルモンド紙は、ブルキナファソで反仏感情が強まっていると指摘している。同国では9月以来、仏軍がブルキナファソ軍を支援して急進主義勢力掃討にあたっているが、国民の中に根強い反仏、反Minusma(国連PKO)意識がある。フランスは自分たちに国に軍を駐留させ、資源を奪っているという意識である。 
 急進勢力は集権的な組織ではなく、指導者の殺害によって活動が顕著に弱まるとは考えられない。今日、急進勢力の活動はコミュニティ間の衝突に転化し、多大な犠牲を生んでいる。ISやアルカイダの名を用いたグローバル・ジハディズムは、西アフリカやもっとローカルな文脈での紛争、対立と結びつきながら展開する。軍事的活動の限界が指摘されて久しく、国連やG5サヘルなど様々な枠組みで安定化に向けた努力がなされているが、事態の改善に結び付いていないのが現状である。