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今日のアフリカ

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M23と東アフリカ軍派遣構想

2022/06/19/Sun

 コンゴ民主共和国東部の反乱勢力M23の活動活発化と、コンゴ・ルワンダ関係の悪化が続いている。13日、ウガンダ国境の町ブナガナ(Bunagana)がM23によって制圧された。15日、ケニアのケニヤッタ大統領は、東アフリカ共同体(EAC)地域機構軍をコンゴ東部に派遣すべきだとの考えを表明した。19日には、この問題でEACの会合が開催される予定である。コンゴからM23への支援を非難されているルワンダは、それを一貫して否定する一方、地域機構軍への参加に前向きな姿勢を示している(18日付New Times)。
 17日付ルモンド紙は、この問題についてJason Stearnsのインタビューを掲載している。スターンズは、コンゴ東部紛争に関する第一人者であり、最近もThe War That Doesn't Say Its Name: The Unending Conflict in the Congo (Princeton University Press, 2021)を刊行している。インタビューの要点は次の通りである。
  • ルワンダがM23を支援している明白な証拠はないが、その可能性は極めて高い。1000人程度の兵士しかいないM23が長期にわたって活動を続け、13万人の兵力を擁するFARDCをブナガナから駆逐するという事態は、ロジスティック面の供給がなければ考えにくい。
  • ウガンダとルワンダの関係の緊張がM23の活動再開に関係しているとの見方は妥当だ。両国はいずれもコンゴ東部に重大な利害関係を有しており、30年近くコンゴ東部で競合してきた。2021年末、カンパラでADFの攻撃が相次いだことを受けて、ウガンダがキンシャサにコンゴ東部での活動を提案し、チセケディが受け入れた。ルワンダは、この決定を経済面のみならず安全保障面でも脅威だと感じたであろう。M23の活動は、同じ時期に活発化している。
  • M23は、ルワンダ、ウガンダの両国から支援を得ている。M23がブナガナを攻略したときには、ウガンダ領内を通っている。
  • 2022年初め以来、ルワンダ、ウガンダ間の関係改善が報じられた。ムセヴェニ大統領の息子カイネルガバ(Muhoozi Kainerugaba)がキガリを訪ね、彼の誕生日にはカガメ大統領らがカンパラを訪問した。こうした関係がいつまで続くかはわからない。ウガンダ軍内には、ルワンダへの根深い不信感がある。
  • 東部の治安状況がいっこうに改善しない中でムセヴェニの申し出を受け入れたチセケディの対応は、理解できなくはない。しかし、本来まずやるべきは軍の改革だ。仮にウガンダ軍がADFを壊滅させても、まだ100以上の武装集団がコンゴ東部に存在しており、治安改善にはほど遠い。
  • ケニヤッタ大統領が呼びかけている東アフリカ地域軍の実効性は疑問だ。東アフリカ各国の軍隊は、すでにDRCに派遣されている。ケニア、タンザニアは国連平和維持軍MONUSCOの構成部隊だし、ウガンダ、ブルンジは独自に軍を派遣している。ルワンダだけが公式には展開していない。こうした部隊が現場の状況を変えるとは思えない。コンゴ東部でウガンダ軍が行っているのは、自国とコンゴとの間に安全地帯を設けることで、ADFと直接戦っているわけではない。外国軍の派遣は問題の本質を変えない。
 コンゴ東部の問題は、近隣諸国(ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ)との関係、コンゴ軍組織、コンゴの中央・地方関係など、複数の要素が複雑に結びついており、事態を一挙に解決する「魔法の杖」は存在しない。ケニヤッタの呼びかけは期待できないというスターンズの見解は、その意味で説得的である。