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Africa Today今日のアフリカ

今日のアフリカ

2019年07月

チュニジアで大統領の葬儀

2019/07/28/Sun

7月25日に92歳で死去したベジ・カイド・エセブシ(Beji Caid Essebsi)大統領の葬儀が、27日に行われた。大統領は2014年に選出され、今年11月に任期を迎えるところだった。死去に伴い、大統領選は9月に前倒しで実施される。カイド・エセブシは、1926年生まれ。祖先にサルジニア島のマムルークを持つブルジョワ家庭の出身であった。法学を学ぶためパリに留学したが、そこでナショナリズム運動の影響を受け、ハビブ・ブルギバが率いるネオ・デストゥール党に参加した。弁護士となって帰国した後、党において治安関係の役職を担った。独立後、ブルギバ政権では内相(1965-69年)、国防相(69-70年)を務める。パリ大使(70-71年)の後、ブルギバ政権末期に外相(81-86年)を務めた。87年のベン・アリによるクーデタ以降、国会議長の職にもあったが(89-91年)、政権とは距離を置いた。  2011年1月14日にベン・アリ政権が倒れた後、2月から12月まで暫定政権の首相として選挙を実施した。2012年、Nidaa Tounès(「チュニジアへの呼びかけ」)を設立。当初は与党のナフダと対立する立場を取った。しかし、2013年8月、急進派イスラミストによる政治家暗殺後不安定化するなかで、ナフダの指導者ガンヌーシ(Ghannouchi)氏とパリのブリストル・ホテルで会談し、ブリストル協約(pacte du Bristol)とも呼ばれる協力関係を構築した。このブリストル協約の内容は明らかにされていないが、ナフダがカイド・エセブシの大統領就任を認める代わりに、カイド・エセブシが自党内のアラブ首長国連邦と結びついた急進派によるナフダへの攻撃を抑えるというものだったと見られている(7月25日付ルモンド)。それに沿う形で、カイド・エセブシは2014年に大統領に選出され、チュニジア政治はそれ以前よりも落ち着いた。  27日には、大統領の死を悼むチュニジア市民の声が放送された(同日付ラジオ・フランス・インターナショナル)。「アラブの春」以降、民主化した体制を曲がりなりにも維持しているチュニジアで、カイド・エセブシはその仕組みを作った立役者だったのだろう。一言で言えば、現実主義的な政治家であったということになろうが、近年の中東における政治的混乱を見るにつけ、こうした現実主義は貴重なものであったと思う。

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中国系企業の労働条件

2019/07/22/Mon

アフリカにおける中国系企業に関する研究成果が発表され、話題となっている。ロンドン大学SOAS校のCarlos Oya氏をリーダーとする研究グループは、アンゴラとエチオピアの製造業と建設業部門において、合計76社の中国系企業と非中国系企業の比較調査を実施した。76社のうち31社が中国企業であった。加えて、アンゴラ人、エチオピア人労働者1500人にもインタビューした。調査によれば、中国系、非中国系企業の間で、現地労働者の雇用割合やトレーニングシステムに差はない。アンゴラでは内戦の影響により労働力不足が深刻で、中国系も非中国系も現地化比率が低いが、それでも中国系企業は現地労働者比率を10年前の50%から74%に上げている。給与水準にも大きな差はない。アンゴラで中国企業の給与は2割低いが、住居と食事つきであるため、実質は変わらない。  この調査を紹介した7月3日付ファイナンシャルタイムズのコラムニストは、アフリカでの中国企業の労働政策を悪魔化するのは誤りだと結論付けている。中国企業については、中国から労働者を連れてきて現地雇用に貢献しないといった評判がある。しかし、この研究はそうした主張には根拠がなく、労働者の扱いにも中国系、非中国系企業の間に実質的な差がないことを示している。コラムニストは、アフリカ政府が労働者の条件を上げたいなら、入札条件に書き込むべきだとも主張している。  中国系企業をめぐっては様々な噂が飛び交う一方、実態はなかなか知られていない。貴重な研究報告である。

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エチオピア・南部諸民族州での抗議デモ

2019/07/21/Sun

エチオピア・南部諸民族州に居住するシダマ人らが新たな自治州の設置を求めてデモを実施したところ、連邦政府の治安部隊と衝突し17人以上の死者が出る事態となった模様。 シダマ人は同州の最多数の人口を占める民族集団であり、現在の行政区分である「シダマ地方(Zone)」を自治州(Region)へと格上げするための住民投票実施を連邦政府に訴え続けてきた。そして、今月18日までに住民投票の実施が認められなければ自治州の設立を一方的に宣言すると代表者らは主張していた。この期限直後から州都のアワサ周辺でシダマ人らによる大規模なデモが行われていた。 エリトリアとの関係改善、反政府勢力のエチオピア帰還、政治犯への恩赦など急進的な改革を進めるアビィ首相に対する、シダマ人の期待はこれまで以上に大きかったに違いない。 これで今年に入ってから、オロミア州西部、アムハラ州に続いて、南部諸民族州でも政府との間で死者を出す騒擾が生じたことになる。来たる選挙に向けた各地の治安回復が政府の目下の課題であろう。 参考資料 https://www.aljazeera.com/news/2019/07/ethiopia-17-killed-violence-sidama-autonomy-190720170914800.html

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西アフリカの単一通貨ECO導入への評価

2019/07/19/Fri

西アフリカの15か国が加盟する「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」は、6月29日、域内に新たに導入する共通通貨の名称を「ECO」とすると決定し、2020年までにECOの導入を目指すと声明を発表した。 ECOWASは1975年に設立され、ベナン、ブルキナファソ、カボベルデ、コートジボワール、ガンビア、ガーナ、ギニア、ギニアビサウ、リベリア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、シエラレオネ、トーゴの15か国が加盟している。域内の総人口は約3億8500万人である。現在、加盟国のうち、セネガル、コートジボワール、マリ、ニジェール、ベナン、ブルキナファソ、ギニアビサウ、トーゴの8か国はユーロと連動するCFAフランを用いており、ほか7か国が独自通貨を使用している。通貨統合の可能性は、加盟国内の越境貿易や経済発展の促進策として約30年前から検討されていた。ECOは変動相場制を採用し、金融政策の枠組みとしてインフレ目標を重視するとされている。 ECO導入の支持者たちは、単一通貨導入により取引費用が削減され、域内の取引が促進されることを期待している。一方、エコノミストや批評家はこの決定に対し、長年の通貨統合構想に理解を示しつつも、現実離れした計画であると指摘している。とくに域内総生産の3分の2をナイジェリア一国が占めている不均衡な状況を鑑み、ナイジェリアが金融政策を支配し、期待されているような利益が得られないことを懸念している。 経済アナリストのTokunbo Afikuyomi氏は、ギニア経済を例にECOWAS内の経済格差にも触れている。ギニア経済は約70億ドルのGDPをもつが、これはナイジェリアで13番目の大きさの州(アビア州)よりも少ない経済規模となる。Afikuyomi氏は、このような経済格差が単一通貨導入を非常に困難にしていることを指摘している。 エコノミストや批評家が指摘するように、単一通貨の導入にはいくつもの課題が残されているといえるだろう。来年の導入を目指すのであれば、これらの課題を克服するために残された時間はあまりにも短い。西アフリカ諸国における経済の混乱が懸念される。

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IMF、コンゴ共和国への債務救済策決定

2019/07/14/Sun

7月11日、IMFは理事会で、債務危機に陥ったコンゴ共和国(ブラザヴィル)に対して3年間で4億4860万ドルの経済再建支援を決定し、即時に4490万ドルを供与した。今回IMFの姿勢が注目されていたのは、コンゴの債務問題が複雑な背景を持っていたからである。2017年7月、コンゴ政府が債務の一部を隠ぺいしており、債務が実際には公表されていた数値よりもずっと大きいことが判明した。債務額は約90億ドルと、コンゴのGDPの120%に達する規模であった。債務の内容も不透明で、中国と多額の債務契約を負う一方、原油生産の「前貸し」(将来の原油販売を担保に資金調達する)をGlencore社やTrafigura社などの企業と結んでいた。ルモンド紙は、中国からの債務は現在約20億ドル~30億ドルに達すると報じている(7月11日、12日付)。  問題をさらに複雑にしているのが、ナイジェリア生まれのレバノン人実業家(英国籍)ホジェイジ(Mohsen Hojeij)氏がトップを務めるCommissions Import-Export S.A. (Commisimpex)社との係争である。ホジェイジ氏は、かつて大統領サスー・ンゲソに深く食い込んで、建設業の仕事を請け負っていた。しかし、1980年代に行った事業の支払いを巡ってコンゴ政府と対立し、長年にわたる係争が続いている。Commisimpex社側のコンゴ政府に対する支払い要求額は140億ドル以上という膨大な額に達しており、またフランスの裁判所や国際商工会議所での勝訴判決を受けて、コンゴ政府に執行を迫る立場にある(10日付ファイナンシャルタイムズ)。コンゴの債務救済を議論するIMFに対してCommisimpex社は書簡を送り、IMFが同社に対する負債についての議論を無視してきたと抗議するとともに、同社に対する負債をコンゴ政府が公的債務に計上すべきだと主張した。  債務の透明性に対するこうした問題に加えて、米国が中国への重債務国をIMFが支援することに反対するため、IMFの決定が注目されていた。結果的にはコンゴへの支援が承認されたことで、コンゴ側は一息つくことになった。しかし、債務問題の透明性やアカウンタビリティについての監視は今後いっそう厳しくなるだろう。また、コンゴは緊縮財政を強いられ、保健・衛生や教育といった社会部門への支出削減が懸念される。

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スーダン軍事政権と米国ロビー

2019/07/02/Tue

7月1日付ファイナンシャルタイムズ紙によれば、スーダン暫定軍事委員会の実力者モハメド・ハムダン・ダガロ中将(通称Hemetti)が、カナダのロビー会社Dickens & Madson (D&M)とコンサルタント契約を結んだことが明らかになった。米国司法省の外国代理人登録法(Foreign Agents Registration Act)によるものである。ロビー会社は米国企業と外国政府の間を取り持ち、米国高官とのアクセスのみならず、第三国政府との仲介や取引も進めてきた。トランプ政権はそれ以前の政権に比べて外部からの影響力に反応しやすいと見られており、ロビー活動が活発に行われている。チャタムハウスによれば、アフリカ政府は従来からロビー会社を利用してきたが、トランプ政権に対してはそれがより効果的だと見ている。ワシントンのNPOであるOpenSecrets.orgによれば、2017年に外国の政府、個人、企業は米国ロビー会社に10億ドル支払ったとのことである。  D&Mとの契約は5月7日に結ばれた。D&Mは、スーダン暫定軍事委員会のために米国の政策に影響を与え、スーダン軍のために資金、施設を確保するよう努めるという。また、ロシア、サウジアラビア、UN、AUに対してもロビー活動を行うとのことである。ロシアでは、政府高官や政治家との会合のアレンジや小麦、ディーゼル、食肉といった輸入品確保に向けた交渉が見込まれている。リビアでは、ハフタル将軍の支援がミッションになる。ハフタル将軍もまた、D&Mの顧客である。D&Mの社長Ari Ben-Menasheは、もとイスラエル諜報機関に所属していた人物とのことである。コンゴの前大統領ジョゼフ・カビラもテルアビブに本拠を置くMER Security and Communication Systems Ltd.と契約を結び、2016年12月から2019年1月までに950万ドルを支払い、うち400万ドルは米国企業に流れたとファイナンシャルタイムズ紙は報じている。  ここで報じられている内容は、外部にはきわめて見えにくいものだ。ここから言えるのは、アフリカ各国の内政が米国をはじめとする国際政治と見えにくい形で、深く、複雑に繋がっており、相互に影響を与えていることである。そうした前提で、アフリカ政治を観察する必要がある。

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