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数多くの島々から成り立ち、国民の9割以上がイスラム教徒を占める大国インドネシアにあって、住民の約9割が独自のヒンドゥー教を信仰する異色の島・バリ島。今回の「地球ディッシュカバリー」は、世界的なリゾート地というイメージの奥に広がる、人々の暮らしと「祈り」や「芸能」が深く結びついた真の姿に迫ります。
今回は、バリ島の芸能文化や人々の暮らしを研究する東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の吉田ゆか子准教授を迎え、お笑いコンビ・ママタルトのお二人と共に、港区外苑前にあるバリ・インドネシア料理店「ブリ・マデ」を学びの教室に、知のフルコースをいただきます。
イチゴシロップと練乳を炭酸で割る名物ドリンク「ソーダグンビラ」や伝統の発酵大豆「テンペ」といった絶品料理をはじめ、悪霊や神様を楽しませる伝統仮面劇「トペン」の精神、生まれた順番で決まるユニークな命名の習慣、そして時代や人々に寄り添いながら変化し続ける伝統芸能の柔軟なパワーまで、聴けば世界の見え方が変わる、味わい深いエピソードをたっぷりお届けします。


ゲスト: 吉田 ゆか子 准教授

学部時代は数学を専攻し、卒業後、人文系に転科。筑波大学大学院で修士号・博士号を取得。現在は東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 准教授を務める。専門は文化人類学で、主にインドネシア・バリ島の芸能文化や人々の暮らし・社会との関わりを研究している。特に、村のお祭りや人生の節目で演じられる伝統仮面劇「トペン」などを通して、人々の「祈り」や悪霊とのつきあい、コミュニティにおける芸能の役割を追究している。 研究者情報

パーソナリティ: ママタルト 檜原洋平さん、大鶴肥満さん

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\ぜひ耳で味わってみてください!/ 

「ママタルトの地球ディッシュカバリー〜東京外大の先生と一緒〜」

ポッドキャストでは、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の吉田ゆか子准教授が、中学3年生での思いがけない初訪問の衝撃や、10代からの友人の家に居候しながら現地の人々と生活を共にする体当たりのフィールドワークから見えた、神々や悪霊と共に生きるバリ島の圧倒的な魅力を語ります。
イチゴシロップと練乳を炭酸で割るハッピーなドリンク「ソーダグンビラ」や伝統の発酵大豆「テンペ」、茹で野菜にピーナッツソースを絡める「ガドガド」、お祭りの特別な豚肉料理「ラワール」といった絶品料理の知恵から、210日周期のバリ暦での誕生日や曜日を重んじる不思議な時間感覚、生まれた順番で決まる「ワヤン」「マデ」などのユニークな命名習慣まで、驚きのエピソードが満載! さらに、神様だけでなく悪霊をも楽しませる伝統仮面劇「トペン」の精神や、時代や観光客、他地域のイスラム教徒ともしなやかに響き合いながら発展してきた伝統舞踊のダイナミックな物語まで。「伝統芸能を『変わらない古くからのもの』として固定せず、変化し続ける柔軟なパワーを感じてほしい」という先生の温かくも深みのあるメッセージと共に、聴けばあなたの世界が少し広がる、楽しくてためになるひととき。ぜひポッドキャストでお楽しみください!

ガムランの響く名店で味わう甘〜いハッピーソーダ「ソーダグンビラ」

──本日の学びの食卓は、港区外苑前にあるバリ・インドネシア料理のお店ブリマデさんです。先生はこちらのお店によくいらっしゃるんですか。

はい、こちらのお店には何回か来たことがあります。私自身、東京でインドネシアやバリの音楽グループに入っていて「ガムラン音楽」をやっているのですが、その仲間たちの間でこちらのブリマデさんがすごく好評で、打ち上げなどで使わせてもらっているんです。ガムランというのは、インドネシアのバリやジャワなどにある打楽器のオーケストラのことです。鉄琴のような鍵盤楽器をはじめ、鉄製や銅製の打楽器がたくさんあります。お鍋をひっくり返したような形のものをバチで叩いて演奏するものなど様々な形態の楽器があり、鍵盤の数が5つのパターンもあります。さっきも店内でその音楽がかかっていましたね。ちなみに、こちらのお店のご主人はバリ島出身の方で、息子さんは東京外国語大学の卒業生なんです。今日はその息子さんもお店にいらしてくださっています。

吉田准教授

──お飲み物が届いていますので、さっそく乾杯をしましょうか。こちらはグラスの下の方にミルクと赤いシロップが入っていて、それとは別に炭酸がありますが、こちらはどういった飲み物でしょうか。

これは「ソーダグンビラ」という飲み物です。「ソーダ」は炭酸、「グンビラ」は「喜び」といった意味で、英語では「ハッピーソーダ」とも呼ばれる非常に甘い飲み物です。グラスの底に入っているのはイチゴシロップと練乳で、別添えの炭酸を入れてよく混ぜて飲みます。ちなみに、バリにも牛乳自体はあるのですが、一般家庭ではあまり飲まれませんし、ホテルでもあまり出てきません。現地ではそもそも冷蔵庫があまり活用されておらず、食材は朝買ってもその日のうちに料理してしまうことが多いですね。

ソーダグンビラ。グラスの底にはイチゴシロップと練乳が入っていて、炭酸水を注いで混ぜて飲む。

──乾杯はバリの言葉ではなんていうのでしょうか。

実は、乾杯に当たる言葉は特にないんです。私自身がお酒を飲まないから知らないというのもあるかもしれませんが…。グラスを合わせるような動き自体もなく、言うとすれば英語で「Cheers」と言ったりするくらいで、そもそも乾杯自体をあまりしないのかもしれません。

──では、「乾杯!」「Cheers!」・・・(飲んで)・・・めちゃくちゃ美味い! 練乳もイチゴシロップもすごく入っていて甘いですが、炭酸を入れることで爽快感が増していますね。これは「グンビラ(喜び)」ですね。イチゴのかき氷に練乳をかけて、そのまま炭酸にして飲んでいるような感じがします。

中学で出会ったバリ島での衝撃、現地の家族に囲まれたの居候ライフ

──まずはインドネシア、そしてバリ島の基本情報から教えていただけますか。

東南アジアに位置するインドネシアは、非常に多くの島々からなる国で、国土は日本の約5倍あります。人口は2億7900万人と日本よりずっと多く、全体的に若い人が多いのが特徴です。首都は現在ジャワ島にあるジャカルタですが、過密化やインフラの問題、よく洪水が起きることから、カリマンタン島のヌサンタラへの首都移転が進められています。なお、現在一番人口が集中しているジャワ島には全人口の55%が集中しており、次いでスマトラ島には22%が暮らしています。バリ島はそのジャワ島の隣にある島で、現在の人口は448万人ほどです。インドネシア全体では国民の9割以上がイスラム教徒なのですが、バリ島の一番の特徴は、住民の9割がヒンドゥー教徒である点です。もともとは隣のジャワ島に大きなヒンドゥー国家が存在していたのですが、後からイスラム教が入ってきた際、改宗したくない人々がバリ島へ逃れて集まったと言われています。インドから伝わったヒンドゥー教が、こうして今もバリ島に残っているんです。

──先生はなぜバリ島に興味を持たれたのですか。

もともとは観光がきっかけなんです。中学3年生の時、当時住んでいた寮の寮母さんがバリ島旅行に行くと言っていたのですが、一緒に行く予定だった方が急遽キャンセルになってしまって。「あなた、バリいいな、って言ってたよね」と声をかけられ、両親にお金を出してもらって急遽2週間(12日間)ほどバリ島へ行くことになりました。内陸のウブドという場所で毎晩いろいろな踊りや音楽を観たのですが、その滞在で人が変わってしまうほどのショックを受け、人生観が一変しました。それまで痛いだけだと思っていた辛い料理が美味しいことに気づいたり、最初は聞き慣れなくて少し怖いと思っていた音楽の良さに目覚めたりしました。ただ、その後すぐにバリ島へ通い詰めたわけではありません。高校時代を経て、もともと好きだった数学を学ぶため大学に進学したのですが、早々に挫折してしまいまして……。その頃にふらっと受講したのが文化人類学の授業でした。その授業でバリ島に関する研究がたくさん扱われているのを知り、「そうか、バリのことに興味があったけれど、文化人類学を勉強すればいいんだ!」と気づいたんです。それをきっかけに人類学の道へ進み、バリ島へ頻繁に通うようになりました。

──バリ島にはどれくらい滞在経験があるのでしょうか。

一番長く滞在していた時は13ヶ月(1年1ヶ月)で、その時に集中していろいろな調査をして博士論文を書きました。その後も、昨年はちょっと行けなかったのですが、基本的には夏休みと春休みにそれぞれ1ヶ月ずつくらいバリ島に行っています。現地の人から「家を買えばいいじゃん」と言われることもありますが、維持などがストレスになりそうなので自分で家を持つこと自体があまり魅力的に感じません。それよりも、人の家に居候する方が面白いんですよね。居候先は10代の頃から知っている友達の家など、決まった家が何軒かあって、ちゃんとお金を払いながら、ホームステイのような形で泊まらせてもらっています。

友人宅でブタを見かける(2015年、吉田ゆか子提供)

──各地域の先生の話を聞いてきましたけど、全部の会に共通して言えるのは、教授たちのコミュニケーションの高さですね。受け入れてくれるバリの方々はどのような雰囲気なのでしょうか。

受け入れてくれる家庭の雰囲気としては、核家族で住んでいるわけではなく、割と親戚が周りに一緒にいて出入りがあるような感じですね。ただ、どのお家にも空き部屋があるわけではないので、誰のところにでも行けるというわけではありません。また、バリの人たちは「一人で寝るのが怖い」と思っているところがあって、私が「一人で大丈夫だけど」と言っても、「よく寝るね」なんて言われるくらいです。暗闇で静寂としているところが怖いのかなと思いますが、夜の明るさも日本や東京に比べると暗いですね。

ピーナッツソース香る「ガドガド」と、納豆風味の絶品揚げ大豆「テンペゴレン」

──最初のお料理が届きました。こちらはどういったお料理なのでしょうか。お店の岡野さん(東京外国語大学の卒業生で店主の息子さん)に伺ってみましょう。

岡野さん まず、こちらは「ガドガド」というお料理です。インドネシアで一番よく食べられている料理で、茹で野菜にピーナッツソースをかけていただきます。「ガドガド」には「いろいろなものを混ぜ合わせて食べる」という意味があり、茹でたキャベツや小松菜、厚揚げ、トマト、卵(ゆで卵や目玉焼き)、エビせんべいなどを、ピーナッツソースと一緒に混ぜながら召し上がっていただく料理です。食べ方は、具材をそれぞれ取ってピーナッツソースと絡めていただきます。

ガドガド。インドネシアでよく食べられている料理。
お料理の説明をする岡野さん
ガドガドを食すママタルト、大鶴さん(左)・檜原さん(右)

──それでは、いただきます!・・・(食べて)・・・うん、美味しいですね! バンバンジーのタレみたいな感じで美味しいです。担々麺の野菜や小松菜と合わさった、担々麺みたいな味ですよね。パリッとした海老せんべいもすごく美味しいです。続いて、こちらのお料理はなんでしょうか。

岡野さん こちらは「テンペゴレン」です。テンペは大豆を発酵させた伝統料理で、日本でいう納豆のように、インドネシアではとても有名な食材なんです。大豆がつなぎ合わさって固まった状態のものを、そのまま揚げた料理になります。付け合わせのソースと一緒に召し上がってください。

吉田 テンペは最近、日本のスーパーや業務スーパーなどでも健康食品として売られていますよね。発酵食品ですし、揚げずにヘルシーに調理することもできて、色々な料理に合います。ちなみに、付け合わせのソースは「ケチャップマニス」という甘醤油のようなソースで、唐辛子をベースにしたスパイスが混ざっています。醤油のような味なのに、なぜか「ケチャップ」という名前がついているんですよね。インドネシアではお豆をかなり食べます。お店やレストランなどにはあまり出てきませんが、バリにはもっと納豆に近い、ポロポロとして粘り気のないようなものもあります。また、野菜もたくさん食べますね。特に色々なところで育つ空心菜などは、畑の横などに植えておいてよく食べられていますよ。

テンペゴレン。テンペは大豆を発酵させた伝統料理。

──いただきます!・・・(食べて)・・・テンペゴレン、本当に美味しいですね。納豆を固めて揚げてあって、そこからすごい甘みがめっちゃ出てきます。食感はジャガイモっぽく感じるところもあったり、納豆みたいな瞬間もあったりしますね。食感とかは白身魚の練り物みたいな感じがしますね。本当に不思議と納豆を食べている感覚です。

ヒンドゥーの島ならではの豚肉文化と、家族で集まらない自由な食卓

──バリ島の料理とインドネシアの他の地域の料理とでは違いがあったりするんですか。

そうですね。そもそもインドネシア料理とは何なのかというのもよく分からないところがあるのですが、バリ料理はヒンドゥー教なので豚肉を使った料理があるというのが大きな特徴と言えます。イスラム教の人たちは豚を食べませんので、そういった意味でバリの豚料理は特徴的ですね。バリ島にはお酒や豚肉もあります。ただ、豚肉は高いので、普段からしょっちゅう食べているわけではなく、ここぞというお祭りの時などによく食べるものです。最近は豊かになってきたので、以前より日常的に食べる人も増えています。豚は家で飼育していることも多いですね。お供え物として小さな豚を丸焼きにして捧げるといった儀礼でやらなければいけないことがあるので、その時のために家で飼っていたりします。

庭で豚の丸焼きを調理する(2006年12月、吉田ゆか子提供)

──食事習慣で日本の一般家庭と異なる習慣などはありますか。

そうですね、家族みんなで集まってご飯を食べるという習慣があまりないですね。家では「この時間になったらみんなで集まって熱いうちに食べましょう」といった決まりは特になくて、お腹がすいた人が好きな時間に台所へ行って食べるスタイルです。朝にお母さんが料理を作って置いておき、それをビュッフェ形式のように好きなだけ自分で取って食べます。作り置きされるのは、ドカンと置かれたご飯のほか、味の濃い肉料理や野菜、焼きそばなどです。辛いので傷みにくいのかもしれません。ちなみに、家事や子育ての最終的な責任は女性が持つことが多いですが、男性も意外と料理ができたりします。また、お父さんは「ラワール」などのお祭りや特別な時の儀礼で振る舞う料理を担当することがあります。食事の際も誰かに用意してもらうのではなく、一人ひとりが食べるので、スプーンなども自分で用意して料理を取って食べる形になります。温かく平均湿度も高めの気候ですが、朝作り置きした料理をそのままにしておいても大丈夫なんです。夜に一度火を入れ直している家庭もありましたし、私が昔居候していたところでは、作り置きのご飯を冷蔵庫に入れたりはしていませんでしたね。

ラワール作り(2006年、吉田ゆか子提供)

目的は「悪霊の気を引くこと」!? 街の人々が演じる台本なき伝統芸能

──先生の研究分野についてお伺いしたいと思います。「バリの芸能」というのはどういうものでしょうか。

バリの芸能には実にさまざまなものがあるのですが、その中で私が興味を持ったのは「仮面を使う芸能」です。仮面劇にも色々な種類があり、例えば『バロン』という、獅子舞のように動物の頭部を持って踊るものがあります。バロンは村のお寺に守り神のように鎮座していて神様が宿っているとされるのですが、私が調査していた村のおばあちゃんから「うちの神様はちょっと凶暴だからね」と言われたことがありました。仮面がある種の人格を持っていて、それをみんなが村の一員のように祀り、頼りにしている世界観がすごく面白いなと思ったんです。ただ、私が実際に研究対象としたのはバロンではなく、もう少し小さな人間の顔のサイズの仮面を使う『トペン』という仮面劇(トペン・ワリとも呼ばれます)です。トペンはお家で所有されているもので、お寺のお祭りや、お葬式、結婚式、成人式などの各種儀礼の際に演者が呼ばれて上演されます。非常に上演機会が多く、人々にとってとても身近な芸能です。内容は、昔バリにあった王国の王様や家来たちの話を元にした『時代劇』で、演者は1人で10個ほどの仮面を使い分けたり、1〜3人ほどで分担しながら演じます。

初めて居候先の集落で仮面劇トペンに参加した時(2007年、吉田ゆか子提供)

──どのような踊りや劇なのでしょうか。

内容は時代劇で、昔バリにあったいくつかの王国が敵対したり同盟を組んだりしていた頃の、王様やその家来の話を元に演じられる劇です。みんなが知っている昔話のようなものです。演者は1人で10個ほどの仮面を使い分けたり、1〜3人ほどで分担しながら演じます。職人さんが作った仮面の中で、自分で「すごい」と思ったものを買って上演に使うこともあります。上演されるストーリーは、例えば結婚式であれば王様の親戚が結婚する話など、その時のイベントに合わせた話を持ってきます。演じている人たちはある程度技を持った専門家ですが、それが生業というわけではなく、普段は公務員やお店をやっている人、田んぼをやっている人などがその時だけ集まって演じています。

──劇にはどんな特徴があるのですか。

劇の特徴としては、時代劇の話をしつつ現代の話もちょろっと入れたりして、過去と現代の時代を行ったり来たりしながら演じられるところです。また、決まった台本はなく大体の物語があるだけで、あとはすべて即興で演じます。ジャズやお笑いとも似ていて、毎回内容を細かく見ると全然違います。ちなみに、上演される理由も面白く、何か儀礼がある時にその端っこの方で誰も見ていないような時があっても、必ず上演しなければいけません。神様がやってくるような大事な儀礼の場には悪霊も寄ってくるため、端の方で劇を見せて悪霊を楽しませ、気を引いている間に奥で大事なことを執り行うんです。悪霊を楽しませるだけでなく、神様もそうした劇を見るのが好きで楽しんでいて、集まった人間も待ち時間に退屈しないように鑑賞するという、悪霊・神様・人間のそれぞれに向けた上演になっています。

──どうしてそれを研究しようと思ったのでしょうか。

実は、初めは消去法のような感じだったんです。何か芸能について研究したいと思っていろいろ検討していたのですが、劇や即興劇ってとりとめがなくて、少しつかみどころがない感じがしますよね。でも仮面劇なら「一応、仮面というモノがあるから研究しやすいかな」と思って選びました。ただ、選んでからすごく面白い芸能だということに気づいたんです。

また、大学時代にバリの授業で「バリの芸能は実はそれほど古いものばかりではなく、1930年代に外国人とバリの人たちが共同しながら、面白がって新しいものをどんどん生み出してきた」という話を聞いて、そうしたバリの人々のパワーに面白さを感じていたという背景もあります。ただ、トペンはむしろ、観光客が見るようなものではなく、地元の人たちの儀礼で演じられる即興劇です。喋り(話芸)がすごく面白いのですが、観光客には言葉が理解できないので。トペンの伝統芸能でありながら、演じる人たちが自分らしさや面白さ、かっこよさを追求する中で少しずつ変化していくところもすごく魅力的ですね。

──こうした仮面舞踊劇や仮面舞踊は、インドネシアの中でも、バリ島だけのものなのでしょうか。

トペン(仮面劇)に関して言えば、バリ島以外であっても、バリ人やバリ系の人々のコミュニティがある程度大きな地域では演じられています。また、「バリ芸能」という広い枠組みで見ると、もはやバリの人たちだけのものではなくなってきています。例えば、私が最近調査を行っているジャカルタでは女性のバリ舞踊がすごく人気なんです。そこではバリ人はマイノリティーですが、周りにいる多数のイスラム教徒の人たちが「自分たちもやってみたい」と言って、習い、上演に参加するような現象が起きています。その際には、露出のある衣装にヒジャブをどう合わせるかや、踊りの中のお祈りのポーズをどう扱うかなど、お互いの間で様々な交渉や試行錯誤が行われています。他の島の人々への広まり方で言うと、トペンのような話芸(言葉)がメインの劇は言語の壁があって理解するのが少し難しい部分もありますが、踊りや音楽には言語の壁がありません。バリの芸能は観光客に見せるためにとても洗練されていったので見栄えが良いため、他の島でも好きな人が結構います。ただ、そのように万人受けして楽しまれる良さがある一方で、「うちの村だからこそ伝わる細かな面白さ」や「神様が見て楽しんでくれる」といった、自分たちならではの喜びや自由な試みの場としての上演もあり、そういう芸能の在り方も魅力的だとおもっています。現代ではYouTubeやK-POPなど娯楽が多様化しているため、昔ほどバリ芸能の観客が多くないという話を聞くこともありますが、劇の合間に流行りの歌を少し取り入れてみるなど、時代に合わせた工夫も見られます。

左から、大鶴さん、吉田准教授、岡野さん、檜原さん

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学びを広げるリンク集

訪れたお店の紹介

バリ・インドネシア料理レストラン

「Bli Made(ブリ・マデ)」(東京・外苑前)

https://blimade.net/

『バリ島仮面舞踊劇の人類学 人とモノの織りなす芸能』

二元論的な「演者/観客」像から離れ、人とモノの織りなす「束」として描き直す。原初の芸能をも想起させる、ユニークな民族誌。

『バリ島仮面舞踊劇の人類学 人とモノの織りなす芸能』吉田ゆか子【著】

【版・頁】 A5・380頁
【ISBN】 9784894892217
【出版年月日】 2016年2月20日
【出版社】風響社
【本体価格】5,000円+税

『東南アジアで学ぶ文化人類学』

ユニークな文化が多様かつ複雑に交差する東南アジア。その地でフィールドワークを積み重ねる研究者たちが誘う、文化人類学の入門書。

『東南アジアで学ぶ文化人類学』箕曲在弘、二文字屋脩、吉田ゆか子【編】

【版・頁】 A5・320頁
【ISBN】 9784812223062
【出版年月日】 2024年3月25日
【出版社】昭和社
【本体価格】2,600円+税

『世界の仮面文化事典』

世界各地には多様な仮面が存在しています。大航海時代のヨーロッパ人も出会ったオセアニアの仮面、メキシコのプロレスラーのマスク、アフリカの秘密結社の仮面、バリ島やネパールの劇に使用する仮面、ヴェネチアのカーニバルのマスク、日本の能面、獅子面など。 本事典では、大英博物館につぐ世界第2位の仮面収容数を誇る国立民族学博物館の特別協力を経て各地の仮面ならびに仮面が作り出す世界(儀式、芝居、祭りなど)を貴重な写真400点以上とともに紹介しています。どの項目も読み切りで、気になった項目から読むことが可能です。 実際に現地で調査を重ねる第一線のフィールドワーカーが執筆者となり、現地の人たちの考え方もお伝えしています。また第I部には総論として仮面とは何か、太古の壁画から現在の仮面ヒーローまで脈々とつながる仮面の歴史も振り返ります。巻頭のカラー口絵32ページを含め、仮面に興味のある方におすすめの1冊です。

『世界の仮面文化事典』吉田憲司【編者代表】、国立民族学博物館【特別協力】

【版・頁】 A5、440頁
【ISBN】 9784621306840
【出版年月日】 2022年5月31日
【出版社】丸善出版
【本体価格】19,800円(税込)

『コロナ下での芸能実践 場とつながりのレジリエンス』

ウイルスの存在を前提とする状況は、音楽、舞踊、演劇などのパフォーミング・アーツにどんな影響を与えたのか? 世界各地の芸能実践者たちは、どのように応答したのか? そのような芸能の姿を通じて我々は、芸能や芸能する身体についての理解をどのように更新してゆけるか? 日本を含む東アジアと東南アジアの現場の記録と問いかけ

『コロナ下での芸能実践 場とつながりのレジリエンス』吉田ゆか子、増野亜子(編)

【版・頁】 A5判並製、362頁
【ISBN】 978-4-8010-0938-7 C0010
【出版年月日】 2025年3月28日
【出版社】春風社
【本体価格】3500円+税

『人はなぜフィールドに行くのか フィールドワークへの誘い』

人類学、地域研究、言語学、歴史学、霊長類学、民俗学など、異なる分野でフィールドサイエンスに関わる第一線の研究者たちが、第1部「同時代に生きる」、第2部「フィールドにおける共感・感覚・情動」、第3部「つきあい続けること」の3部構成で、 フィールドワークの根源的な問いについて語る、珠玉の論集。フィールドワークを通じて、人は「世界」との関係を再構築する。それは、自分自身を変えることと、表裏の関係にある――。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所創立50周年記念出版。

『人はなぜフィールドに行くのか フィールドワークへの誘い』床呂郁哉〔編〕

【版・頁】 A5判・並製・304頁
【ISBN】 978-4-904575-44-4 C0036
【出版年月】 2015年3月31日発売
【本体価格】 2300円(税抜)

『世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―』

食を通じて文化を知る――そんな体験をもっと広げたい方には、東京外国語大学出版会の『世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―』がぴったりです。料理から見える世界の多様性を、ぜひ味わってみてください。

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理― 沼野恭子【編】

ジャンル:食文化・料理・地域研究
版・貢:A5判・並製・224頁 
ISBN:978-4-904575-49-9 C0095
出版社:東京外国語大学出版会
出版年月:2015年10月30日発売
本体価格:1800円(税抜)

https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book39/

本記事に関するお問い合わせ先

東京外国語大学 広報・社会連携課

koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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