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今回の「地球ディッシュカバリー」の舞台は、7000年の歴史を誇り、アフリカ大陸の北東でナイル川の恵みとともに歩んできた「エジプト・アラブ共和国」。ピラミッドや考古学といった古代のイメージの裏側には、急速に進むデジタル化やデリバリー文化、そしてサッカーに熱狂する1億人超の活気ある現代の姿が広がっています。フランス法をモデルにしながらも、結婚や相続にはイスラームの教えを色濃く残し、相続税や固定資産税がほとんどない?!という独自の法体系が、エジプトの人々のおおらかで情熱的な暮らしを形作っています。

文化人類学、中東の社会文化を専門とする東京外国語大学の竹村和朗准教授をゲストに迎え、お笑いコンビ・ママタルトのお二人と共に、西麻布のエジプト・アラビア料理レストラン「ネフェルティティ東京」を舞台に、知のフルコースをいただきます。


ゲスト: 竹村 和朗 准教授

東京外国語大学 大学院総合国際学研究院 准教授。1980年生まれ。専門はエジプトを中心とした中東の社会文化研究、文化人類学。2002年からエジプトへ渡り、カイロ・アメリカ大学の修士課程で3年間学んだ後、2009年からは研究調査のため現地に滞在し、2011年の「アラブの春」を現地で経験した。2025年に現職に着任。現代エジプトのデジタル化や経済の変化、そしてイスラーム法をベースとした結婚・離婚・相続などの「家族法」といった多角的な視点から、法制度と人々の暮らしの関わりについて調査・研究を行っている。研究者情報

パーソナリティ: ママタルト 檜原洋平さん、大鶴肥満さん

\ぜひ耳で味わってみてください!/ 

「ママタルトの地球ディッシュカバリー〜東京外大の先生と一緒〜」

ポッドキャストでは、竹村和朗准教授が、2002年からの留学や2011年の「アラブの春」を現地で経験した実体験、そして中東の社会文化や家族法の研究を通じて培ってきた、興味深いお話が聴けます。ママタルトさんの軽快なトークと笑いに包まれながら、7000年の歴史を持つエジプトの深い文化や、急速に進むデジタル化、そして「ハトの詰め物(ハマーム・マハシー)」などの知られざる美食の世界が、ぐっと身近に感じられるはずです。相続税や固定資産税がほとんどないといった驚きの法律事情から、人口1億人が熱狂するサッカー大国としての日常まで、聴けば世界がちょっと広がる、楽しくてためになるひととき。ぜひポッドキャストでお楽しみください!

結婚式の定番「ハトの詰め物」と母の味

── 次のお料理が運ばれてきました。これはどのような料理でしょうか?

イマード店長 これは「ドルマ・コンビネーション」です。エジプトの母親が作る料理の中で、子供たちが一番大好きなものですよ。中身は、ズッキーニやピーマン、トマトの中に味付けしたご飯が詰まっています。

ドルマ・コンビネーション

竹村 お店では「ドルマ」と呼んでいますが、これはトルコ料理の名前として有名だからでしょうね。エジプトでは本来、これらの詰め物料理を「マハシー」と呼びます。キャベツやブドウの葉でお米を巻いたものもあり、どれも非常に柔らかく調理されています。

── そして、ひときわ存在感を放っているこれは・・・。

竹村 はい。これは「ハマーム・マハシー」といって、ハマームが「ハト」、マハシーが「詰め物」を意味します。エジプトではハトを食べる文化があります。ハトの中にお米や内臓を詰めて焼き上げた料理です。

ハマム・マッシー

イマード店長 エジプトでは非常にポピュラーな食材ですが、フランス料理などでは2万円ほどする高級食材として扱われることもあります。食用として育てられた生後2〜3週間の若いハトを使っているので、身がしっかりしていてジューシーですよ。

竹村 エジプトでは、結婚式が終わった後に新郎新婦が必ず食べるスタミナ料理でもあります。日本でいう「うなぎ」や「すっぽん」のような、元気が出る食べ物として親しまれているんです。

── 実際に食べてみると、骨が驚くほど柔らかいですね。

竹村 骨まで食べられるほど柔らかく、特に皮の近くが一番おいしいんです。手で持って、中のお米と一緒にバリバリと豪快に食べるのがエジプト流です。内臓のコクが混ざったお米は、まるでもち米のようにしっとりとしていて、スパイスの香りが食欲をそそります。

── もう一つの、ナスを使ったお料理についても教えてください。

竹村 これは「ムサッアー」という料理です。ナスを焼いてトマトソースで煮込んだ料理の総称で、ここではラザニアを入れて工夫して出されていますね。

イマード店長 エジプト人が大好きなメニューの一つです。フォークがスッと入るくらい、ポテトもナスもとにかく柔らかく煮込んでいます。

── 本当に、口の中でとろけるような柔らかさです。

竹村 エジプトの人は、パスタでも何でもとにかく「柔らかいもの」をたっぷり食べるのが好きなんです。オリーブオイルと濃厚なトマトソースの組み合わせは地元でも大人気で、地中海に近い文化を感じさせますね。

── 野菜だけとは思えない満足感がありますね。

竹村 そうなんです。実は東京外国語大学の学園祭「外語祭」でも、学生たちがこの「ムサッアー」を屋台で出したことがあるんですよ。アラ科(アラビア語専攻)の他の先生からは珍しがられましたが、実際にはとても評判が良かったようです。ナスとトマトの相性が抜群で、一度食べると病みつきになる美味しさです。

西洋法とイスラーム法が共存する、エジプト独自の法社会

── 竹村先生はエジプトの法律についても研究されていますが、現地の法制度にはどのような特徴があるのでしょうか。

エジプトの法制度は非常に興味深い二段構えになっています。まず、民法や刑法などの一般的な法律は、フランス法をモデルにした西洋的な仕組みで作られており、裁判所も普通に機能しています。一方で、結婚、離婚、子ども、相続といった「家族法」に関しては、イスラームのルールがそのままベースになっています。宗教的な伝統を現代的な法律の条文に取り入れて運用している点が、研究者としても非常に面白い部分です。

── 結婚や離婚にはどのようなルールがあるのでしょうか。

イスラームにおいて、結婚はキリスト教のような「聖なる結びつき」ではなく、「男女間の契約」であると考えられています。また、宗教の組み合わせにもルールがあり、基本的には男性がイスラーム教徒であれば、女性はキリスト教徒など他の宗教でも結婚できますが、その逆は認められないといった枠組みがあります。

── 離婚についてはどのような状況なのでしょうか。

制度上は男性側からの方が離婚しやすいのですが、エジプトでは親族や友人が積極的に介入して仲裁に入る文化があります。何かあれば第三者が話し合いに来て、「子供のために思いとどまれ」と説得するため、簡単には離婚させない抑止力が働いています。それでも最近は、特に若い世代で「我慢しない」という反動から離婚率が上がっています。そのため現在、新婚3年以内の離婚については裁判官の前で理由を説明させ、やり直せないか検討させるという新しい条文の導入も議論されています。また、子供がいる場合の離婚では、住居や家財が女性と子供のものになるという強力な法的保護があり、これが男性側が離婚を躊躇する理由の一つにもなっています。

── 相続についても独自のルールがあるのでしょうか。

相続の割合もイスラームの教えに基づいて厳密に決まっています。例えば「息子がいれば何分の一、娘だけなら何分の一」といったルールを国民が熟知しており、それがそのまま法律として適用されています。特筆すべきは、エジプトには「相続税」という概念がないことです。日本のように「相続すると税金がかかるから計算が大変だ」という悩みは存在しません。

── 相続税がないというのは驚きですね。他の税金はどうなっているのですか。

実は「固定資産税」もありません。以前、中東の法律家が来日した際、土地を持っているだけで税金を取られる日本の仕組みを聞いて「おかしい、なぜ自分のものにずっと税金を払うんだ」と驚いていたほどです。エジプトでは公務員などは源泉徴収されていますが、自営業やお店を営む人たちはほとんど税金を払っていないのが実情です。国民の間には「神様のルール(宗教法)には従うが、人間が作ったルール(法律)はそれほど重要視しない」という独特の感覚があり、税金や法律に対するギャップが非常に面白いところですね。

シロップが滴る伝統菓子と、母の味「オム・アリ」

── 食後のデザートも、非常に彩り豊かで可愛らしいですね。

イマード店長 こちらは「コナファ」と「バスバーサ」です。

左がバスバーサで、右がコナファ

竹村 エジプト現地では非常に大きなサイズでドサッと出されることが多いのですが、ここでは一口サイズのプチケーキのように綺麗に整えられていますね。

── 美味しい! 甘い! 親指ほどの小さなサイズですが、その中にシロップが凝縮されているような、しびれるような甘さで本当に美味しいです。そして、こちらのグラタンのような見た目のお料理は何でしょうか。

イマード店長 これは「オム・アリ(アリの母)」という名前のデザートです。お腹を空かせて学校から帰ってきた子供たちのために、お母さんが家にあるもので作る家庭の味なんですよ。パイ生地の中に、くるみやアーモンド、レーズンなどのナッツを入れ、クリームやミルクを注いでオーブンで焼き上げます。

オム・アリ

── これだけ甘いデザートには、やはりハーブティーが合いますね。

竹村 はい。エジプトのデザートはどれも非常に甘いので、ミントティーが欠かせません。エジプト流は、ティーバッグを使わずに茶葉やミントの葉をそのままコップにたっぷり入れて飲むスタイルです。ご飯の「コシャリ」と同じように、葉っぱをそのまま入れて飲むのが現地では定番とされていますね。

ミントティー

── エジプトの方は、こうした甘いものを日常的に楽しまれているのですか。

竹村 ええ、エジプトではこれが普通です。エジプトの人はがっしりとした大きな体格の方が多いのですが、現地ではそれが「普通」の姿として受け入れられています。

── 世界標準の「パワフルな体格」を支えているのが、このエネルギーたっぷりの甘いスイーツなのかもしれませんね。

伝統的な観光地と、日本が支援した「大エジプト博物館」

── 観光で訪れる際のおすすめはどこでしょうか。

やはりピラミッドは外せませんが、実は、ピラミッドの中は非常に暑くて空気が薄く、通路も狭いので腰をかがめて進まなければなりません。外の石を登ることは現在は禁止されていますが、中に入るだけでもかなりの体力が必要です。ピラミッドのすぐ近くには、日本が多大な援助を行って建設された「大エジプト博物館」があり、試験的なオープンを経てようやく開館しました。ほかに、イスラーム地区にある「ハーン・ハリーリ市場」という一大観光地が面白いですよ。有名なモスクの周りにお土産物店や古い石造りの建物が並ぶ様子は、日本でいうと浅草寺の周りに街が広がる「浅草」によく似た趣があります。

大エジプト博物館(左:外観、右:内観)
ハーン・ハリーリ市場にて
ピラミッド。下から眺める

── リラックスできる観光ルートはありますか。

ルクソールから船に乗ってアスワンへ向かうナイル川クルーズがおすすめです。上流は水がとても綺麗ですし、紅海も透明度が非常に高くて素晴らしい景色が広がっています。エジプトに行くシーズンとして一番いいのは、日本の冬にあたる12月から2月ごろです。3月から4月は「ハムシーン」と呼ばれる激しい砂嵐の時期で、窓を閉めていても家の中に砂が入ってくるほどなので注意が必要です。エジプトはアラブ圏の中でも非常に行きやすく、安全で、何よりエネルギーと活気にあふれた面白い国です。言葉(アラビア語)もエジプト特有の方言が強く、日本でいえば「標準語を習ってから大阪へ行く」ような独特の面白さがあります。一度行けば、そのパワーを肌で感じられるはずです。

── 本日はありがとうございました。最後はぜひ、アラビア語でご挨拶をお願いします。

ありがとうございましたは「シュクラン!」。さようならは「マアッサラーマ!」と言います。

── シュクラン、マアッサラーマ!

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学びを広げるリンク集

訪れたお店の紹介

エジプト・アラブ料理レストラン

「ネフェルティティ東京 西麻布店(Nefertiti Tokyo)」(東京・西麻布)

https://www.nefertititokyo.com/

現代エジプトの沙漠開発

私たちと同様、否応なく「国家ある社会」を生きなければならない現代エジプト社会の姿を描き出す。

『現代エジプトの沙漠開発 ──土地の所有と利用をめぐる民族誌』竹村 和朗 著

出版社:風響社
価格:本体5,000円+税
ISBN:9784894892576
判型・ページ数:A5・352ページ
出版年月日:2019/03/30

中東・北アフリカの人類学

オリエンタリズムの呪縛から逃れ、中東・北アフリカを人類学的探究の対象とし、社会や人々について書くとはどのようなことなのか。ダイナミックに変化するこの地域の権力の過程に焦点を当てながら、民族誌という方法論を触媒に現代人類学の視座を提示する。

『中東・北アフリカの人類学 ──エスノグラフィーで読み解く知と権力』シェリーン・ハーフェズ 編著、スーザン・スロモヴィクス 編著、竹村 和朗 訳

出版社:明石書店
価格:本体6,800円+税
ISBN:9784750360577
判型・ページ数:A5・528ページ
出版年月日:2026/01/25

「アラブの春」について

「アラブの春」から10年以上の時が経った。2011年初め、その磁場の一つとなったエジプトの首都カイロのタハリール(解放)広場は、若い男女を中心とする人々で埋め尽くされ、シュプレヒコールや演説のほか、即興の歌や詩の朗読、グラフィティー、そしてテント村がいたるところに渦巻いていた。だが今日、タハリール広場に立つということは、廃墟の前にたたずむかのようである。広場に充溢していた熱気や喧騒は跡形もなく、かつての情念はのちに置かれた記念碑へ無理やり封じ込められ、過去のものとして葬り去られたかのようだ。「アラブの春」や「エジプト1月25日革命」の諸成果も、つぎつぎと覆されてきた。 しかし、ちょっと待っていただきたい。我々はそもそもあのとき何が起こったのか、本当に知っているのだろうか。それどころか、その後の負の結果から逆算して、歪んだレンズから物事を視てはいないだろうか。「アラブの春」や諸革命によって生じたことと、その後に反革命の旧勢力や「外国」勢力によってもたらされた破綻が混同されすぎてはいないだろうか。日本にいた我々は、当時、何が起こっているかをよく把握していなかっただけでなく、ますます実態と乖離したイメージを記憶に刻印しつつあるのではなかろうか。そして、それ以上に重要なのは、この変動が今もなおアラブ世界をこえて地球大の連鎖反応に直結して多大な影響を与えつづけていることであろう。本書は、今改めて、「アラブの春」の実態や諸成果、そして人々の営為を、時間的・空間的に把握する試みである。

『「アラブの春」のアクチュアリティ ──エジプト1月25日革命を中心にみるグローバリゼーション下の日常的抵抗』大稔哲也=編著(竹村准教授も著者の一人)

出版社:山川出版社
価格:7,150円(税込)
ISBN:978-4-634-67262-8
仕様:A5・384ページ
刊行:2024年7月30日

ムスリムの家族

ムスリムの家族は近代以降に起きた社会や政治、法律の変動によって大きな影響を受けてきた。では個々の文脈のなかで、それはいかに経験され、議論され、改変され、つくりかえられてきたのか。身近に存在するが捉えがたい「家族」という課題に挑む画期的論集。

『うつりゆく家族』長沢 栄治 監修、竹村 和朗 編著

出版社:明石書店
価格:本体2,500円+税
ISBN:9784750355658
判型・ページ数:4-6・280ページ
出版年月日:2023/03/31

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―

食を通じて文化を知る――そんな体験をもっと広げたい方には、東京外国語大学出版会の『世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―』がぴったりです。料理から見える世界の多様性を、ぜひ味わってみてください。

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理― 沼野恭子【編】

ジャンル:食文化・料理・地域研究
版・貢:A5判・並製・224頁 
ISBN:978-4-904575-49-9 C0095
出版年月:2015年10月30日発売
本体価格:1800円(税抜)

https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book39/

東京外国語大学オープンアカデミー

「アラビア語を学びたい!」と思った方には、東京外国語大学オープンアカデミーのアラビア語講座がおすすめです。言葉を学びながら、中東地域の文化や人々の魅力に触れてみませんか? レベル別の講座を設けています。年に2回の募集期間を設けているため、自分のペースで学び始めることが可能です。
さらに、オンラインでの開講により、全国や全世界どこからでも気軽に参加できるのも大きな魅力です。新しい言語を学び、異文化交流の扉を開く絶好のチャンスです。バスク語を学びながら、未知の世界への一歩を踏み出してみませんか?

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本記事に関するお問い合わせ先

東京外国語大学 広報・社会連携課

koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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