東京外国語大学のURA・小林真也さんインタビュー:研究と社会をつなぐ「プロデューサー」の視点
研究室を訪ねてみよう!
西東京三大学(東京農工大学・電気通信大学・東京外国語大学)による「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS):世界へ展開する食とエネルギーのサステイナブルイノベーション」では、三大学の研究者による社会実装に資する研究が展開されています。東京外国語大学の窓口を務める学際研究共創センター(TReND)では、三大学や企業との協働を支え、研究の社会実装を推進するURA(ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター)の育成が進められています。こうした取り組みは、三大学の連携にとどまらず、人文知を社会へひらき、学内外の多様な人々をつなぐ共創の場へと広がりつつあります。
東京外国語大学のURAとして、そして「ゲーミフィケーション」や「ライティング教育」を専門とする研究者として活躍する小林真也さん。2026年2月には日本デジタルゲーム学会年次大会にて学生大会奨励賞を受賞するなど、その活動は学問分野の枠を超えて広がっています。その役割を「研究のプロデューサー」と語る小林さんに、これまでのキャリアや研究、そして東京外大が切り拓く未来について詳しくお話を伺いました。
「研究を起点に共創をプロデュースする」新たな職種
──まず、URAというお仕事について教えてください。
URAは「ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーター」の略称です。単にリサーチ・アドミニストレーターとすることもありますが、リサーチ・アシスタントと区別するために「U」をつけて呼ばれることが多いですね。理系を中心に広まり、文系では比較的最近になって必要性が認知されてきた新しい職種なので、聞き馴染みの無い方もいると思います。2010年代中頃のURA登場初期には、知財や研究倫理への対応など、研究活動の発展をささえる高度専門人材としての役割が重視されていました。また、競争的研究費の獲得や執行に関わる研究支援業務、いわゆるプレアワード(研究費を獲得するまでのプロセスを支援する業務)・ポストアワード(研究費が採択された後の管理と成果最大化を支援する業務)を担う職種としても活躍してきました。最近はそうした役割に加え、さまざまな連携を生み出すための企画・調整も担う、より広範なマネジメント職として注目されています。
教員(研究者)とも事務職とも異なる「第三の職種」と言われ、両者の仲介・調整や、教育・研究・事務すべてにまたがる広範なマネジメントを担うため、ある研究者が研究プロジェクトの「ディレクター(監督)」であるとしたら、URAは「プロデューサー」的な役割というのが非常にしっくりきます。
──博士後期課程の大学院生から、どのような経緯でURAになられたのですか?
私は東京外国語大学には博士前期課程から在籍していますが、2022年に博士後期課程へ進学し、2025年7月に試験に合格して博士論文執筆資格者(Ph.D. Candidate)になりました。これは、残すところ博士論文を提出して最終審査や公聴会を迎えるのみという段階です。人によって在学を続けながら博論を執筆したり、いわゆる「単位取得満期退学」を選んで指定期間内(3年以内)の博論提出を目指したりすることになります。
私の場合は、試験に合格したのが前期末という年度の途中だったため、後期からの身の振り方を考えていたのですが、ちょうどそんな8月末頃に現職の公募が出ていることを知りました。締め切りが1週間後と迫っていたのですが、急遽書類を準備して応募しました。必要書類の中にあった「URAとして外大を盛り上げるようなアイデアの企画書」の作成には頭を悩ませましたが、URAという職種自体は以前から知っていて興味を持っていたので、私にとっては非常にタイミングが良かったですね。その後、URAとして採用され、大学院は休学して現職に着任したというのが一連の経緯です。
東京外大のURAとして:「人文知のアンバサダー」を目指して
──本学のURAとして、どのような役割を期待されていると感じていますか。
私が所属する学際研究共創センター(TReND)では、西東京三大学による「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」を中心に、大学間連携や産学連携に取り組んでいます。また、科研費勉強会の開催を通じて、学内の研究者同士がつながる場作りにも力を入れています。URAはそのような背景のもと設置されたのですが、東京外大にはまだURAという役割が浸透していないので、自分たちで「外大ならではのURA像」を作っていく必要があります。そのため、私たち自身が現役の研究者でもあるという強みを活かし、これまで十分に取り組まれてこなかったことにも、積極的にチャレンジしていく姿勢が期待されていると感じています。
──理系大学や企業など、異分野のアクターと協働する中で、東京外国語大学ならではの強みを感じる場面はありますか。
東京外大は言語・地域研究をはじめ人文系学問に特化しているので、特に理系のプロジェクトに加わると、視点の深化や多様化に貢献できていると感じます。例えば、東京農工大・電気通信大とのハワイでの稲作プロジェクトでは、プロジェクトを通して対話や交流を重ねる中で、理系・文系それぞれのプロジェクトに対する視点や考え方、目的の違いを意識した上で、東京外大は、プロジェクトを当該社会の歴史・社会・文化的な文脈に位置付けて、現地の人びとの視点に寄り添ったプロジェクトデザインを模索・提案し、実践しています。
また、協働の場では自他ともに東京外大のルーツを問われることが多いのですが、私たちのルーツである「蕃書調所」(1856年に江戸幕府が設置した洋書の翻訳、海外事情の調査等を行った機関)を、理系の方に「日本の技術発展に必要な知のインフラを整備していた場所」とお伝えすると、非常に好印象を持っていただけます。
──歴史的な背景だけでなく、現在の学生たちの活動も大きな力になっているようですね。
その通りです。加えて、外語祭という特徴的なイベントを持っていることも強みだと感じます。外部の方をお招きすると非常に楽しんでもらえますし、目に見え体験できる形で東京外大の特色を理解していただけることが多いからです。
現在は万博をきっかけに国際的・多文化的なコンテンツへの関心が高まっているという追い風もありますが、何より学生の皆さんが外大の価値を高めてくれているのだと強く感じます。こうした学生のパッションや多様な個性が、学外の方々を惹きつける大きな魅力になっています。
社会と大学をつなぐ:TReNDでの実践
──学際研究共創センター(TReND)のURAとして活動をされていますが、TReNDのミッションや、大学における位置づけをどのように捉えていますか。
TReNDでは、主に他大学や企業、自治体といった外部のアクターとの研究連携や協働を行っています。特に、これまで東京外大ではあまり例のなかった形の外部連携を積極的に推し進めることで、「東京外大と社会との接点を広げていくこと」が重要な役割だと考えています。
また、大学における位置づけとして、学生に新たな学びや活躍の場を提供することも不可欠なミッションです。これまでに「MIRAIプログラム」* で培ってきた博士学生支援の取り組みをさらに広げ、企業や自治体、地域との共同プロジェクトに学部生も含めた多くの学生が参画できる環境を整えていきたいです。こうした活動を通じて、TReNDが学生の皆さんに多様な機会や経験を得てもらう場でありたいと考えています。
* MIRAIプログラム: 東京外国語大学が実施する博士学生支援プログラム。専門分野に閉じこもらず、異分野交流や社会連携プロジェクトを通じて研究者の視野を広げることを目的としている。小林さんも同プログラムの学生として、他大学との交流合宿や謎解きゲームの企画など多角的な活動を行ってきた。
ゲーミフィケーションと日本語ライティング教育の研究
──2026年2月に日本デジタルゲーム学会年次大会にて学生大会奨励賞を受賞されました。おめでとうございます! まずは受賞研究のテーマと、取り組むことになった背景を教えてください。
ありがとうございます。今回の研究テーマは「学習者が没頭する学習デザインのための実践的枠組みの構築」というもので、教育分野におけるゲーミフィケーション研究を理論的・文献的に整理しました。背景として、近年の教育心理学では焦点となる概念が「モチベーション(動機づけ)」から、より主体的な関与を示す「エンゲージメント」へと拡大・移行しているということがあります。言語教育分野でこの概念が盛り上がるきっかけとなった『Engaging Language Learners in Contemporary Classrooms』(日本語では『外国語学習者エンゲージメント—主体的学びを引き出す英語授業』というタイトルで訳されています)という本を読んでいた際、そこに書かれていた「エンゲージメントを高める手法」が、実はゲーミフィケーション研究で実践されてきた内容と強く合致していると気づいたことが、研究の出発点でした。ゲーミフィケーションとエンゲージメントを結びつけて整理するアプローチは国内ではまだ珍しく、その新奇性を評価していただけたのだと思います。
──研究を進めるうえで、東京外国語大学の環境や人的ネットワークはどのように役立ちましたか。
この学会は産業界の方も含め、分野を問わずあらゆる方が参加されるため、「専門外の方にも伝わる見せ方」を常に意識していました。その際、東京外大の先生方が、分野の違いを超えて真摯にフィードバックをくださったことは大変ありがたかったです。特に、事前原稿を読んで有益なコメントをくださった伊集院郁子先生、石澤徹先生、阿部新先生、青井隼人先生には、この場をお借りして改めて感謝申し上げます。こうした多様な視点からのアドバイスがあったからこそ、学際的な学会でも評価される内容に仕上げることができました。
──今回の受賞は、小林さんの今後の活動にどのような影響を与えそうですか。
実は、学生として参加する最後の大会だったので、明確に「賞を取りに行く」という戦略を練って参加しました。ある種狙い通りに評価をいただけたことは大きな自信になりましたし、「面白い成果はちゃんと面白がってもらえる」と確信できました。この成果は私の博士論文の重要な一部になりますし、科学技術融合振興財団の補助金助成にも採択されています。これを糧に、さらに研究を発展させていきたいですね。
──ゲーミフィケーション研究は、大学の教育や学際的なプロジェクトに今後どのように応用できるとお考えですか。
ゲーミフィケーションはあくまで「手法」なので、適用対象を選びません。ゲームは工学から文学、社会学まで多様な分野と接点があるため、コラボレーションの可能性は無限大です。実際、東京大学附属図書館U-PARL主催のシンポジウム「文理融合・東西融合フォーラム」にパネリストとして登壇した際も、ゲーミフィケーション研究が文理融合的な意義を持っていると認識してくださったのだと推察します。現在、東京外大は東京農工大・電気通信大とともに「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に取り組んでいますが、その学際プロジェクトの中でも、ゲーミフィケーションを応用した新たな展開を予定しています。こうした活動を通じて、外大の研究の面白さを多方面に発信していきたいと考えています。
──授業や学習活動に「ゲーミフィケーション」を取り入れる意義についてはどうですか。
ゲームというのは、「ゴール(目的)」「ルール」「相互的なフィードバック」によって構成されたシステムに対して、プレイヤーが自発的に参加することで成り立っています。実は、授業や学習活動の構造はこれらと非常に近いものです。そもそもゲームとは、プレイヤーがゴールに向かう過程で経験的な「学習」が発生するものであり、それ自体が学習的な本質を秘めています。そのため、教育にゲーミフィケーションを取り入れるということは、ゴール・ルール・フィードバックを明示し、学習者が自発的に学びに参加できるような「導線」を整えることに他なりません。これは、特定の分野に限らず、あらゆる教育において普遍的な意義を持つアプローチだと捉えています。
──もう一つの専門である「日本語ライティング教育」についてもお聞かせください。最近は、学生がレポートや卒論に生成AIを活用する場面も増えています。この現状をどのように見ていますか?
確かに生成AIの進歩にともなって、レポートや卒論をAIで丸々書いてしまうようなケースがかなり目立ってきました。しかし、本来の「ライティング」は、単に文字を綴るだけの活動ではありません。本来それは、構想(および調査)→執筆→推敲といった、レイヤーの異なるセクションで構成される「循環的・再帰的な営み」です。AIを使わずに書いていたときは、これらのプロセスが時にはある種無意識的に行われていました。ところがAIに丸投げしてしまうと、実際には「執筆」の部分を代行・支援してもらっているに過ぎないにもかかわらず、プロセスのすべてを肩代わりしてもらえるように錯覚してしまうことがあります。執筆そのものが楽になった今だからこそ、「書く」という試みがどのようなものかを改めて認識し、ライティングのプロセスにおけるリソース配分を考え直していくことが必要だろうと思います。
──AIを使いこなすためにも、個人の「書く力」が問われるということでしょうか。
その通りです。AIへのプロンプト(指示文)を作成するという観点からも、日本語(母語)のライティング能力や言語運用能力は、ますます重要になってくるはずです。これまで「日本語教育」といえば、留学生や外国人学習者のためのものという認識が強かったかもしれません。しかし、これからのAI共生時代においては、母語話者に対する日本語教育もさらに拡充させていく必要があると考えています。
未来への展望:流動性の高い大学へ
──小林さんが感じる「東京外国語大学らしさ」とは、どのようなところでしょうか。
一言で言えば、多様な個性を持つ方が多く、良い意味で「異質な他者」に満ちていること、そして東京外大生の持つ圧倒的なパッションを肌で感じられるところだと思います。この多様性と熱量こそが、東京外大の最大の魅力ではないでしょうか。
──大学が今後さらに伸ばしていくべき分野や、可能性を感じる取り組みはありますか。
私は、社会人学生がもっと増えるといいなと思っています。少子化が進む中で大学が存続していくためには、若年層以外の学生を増やすことは避けられません。しかしそれ以上に、社会と大学の流動性を高めることで、ある人の人生にとって大学が一過性の存在にならないようにすることが重要だと考えています。そのためには大学も企業も変わっていく必要がありますが、その先駆けとしてメルカリ社の「R4D」のような、研究開発と社会実装を繋ぐ取り組みには非常に注目しています。大学が一生を通じて関わり合える、もっと「開かれた場所」になっていく可能性を信じています。
──最後に、学際的なキャリアや共創的な学びに挑戦しようとしている学生・若手研究者の皆さんへメッセージをお願いします。
私自身も東京外大生の一人であり、若手研究者ですので、同じ目線に立つ「同輩」からのメッセージとして受け取ってください。まず伝えたいのは、「今の自分の興味や専門、所属するコミュニティだけに閉じこもらないでほしい」ということです。アカデミックな道に進むかどうかにかかわらず、自分の持つ「手札」や「話題」は多いほうが、将来必ず役に立ちます。ポストというものは、自分に合わせて待っていてくれるわけではありません。状況に応じて適宜ピボット(方向転換)しながら、長い目で見たときに少しずつ自分のやりたい方向へ持っていければ、それでいいのだと思います。特に東京外大生の皆さんには、ぜひ色々な活動に挑戦してほしいです。東京外大に所属する教職員よりも、学生の皆さんのほうが数は圧倒的に多く、実に8倍もの規模になります。皆さんの「共創」には、大学の内外を動かす大きな力があるはずです。皆さんの活躍によって東京外大がもっと面白い場所になるよう、私もURAとして、東京外大生として、研究者として、さまざまなプロジェクトを仕掛けていきたいと思っています。興味のあるイベントやプロジェクトがあれば、ぜひ積極的に参加してください!
本記事に関するお問い合わせ先
東京外国語大学 広報・社会連携課
koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)
