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なぜその⾔語?〜教員に聞いてみた!:フランス語 秋廣尚恵准教授インタビュー

研究室を訪ねてみよう!

東京外国語⼤学の学⽣・卒業⽣や教員に、なぜその⾔語を選択したのか、その⾔語を学んでどのような展開があったのかなどを聞いていくシリーズ企画「なぜその⾔語?」。今回は、本学の卒業⽣でもあり、⾔語学やフランス語学を専⾨とする⼤学院総合国際学研究院の秋廣尚恵(あきひろ・ひさえ)准教授にインタビューしました。

取材・記事担当:⾔語⽂化学部フランス語3年・村上眞海(むらかみ・まりん)、広報マネジメント・オフィス学生記者

フランス語との出会い

―――先⽣は本学のご出⾝だと伺いました。なぜ東京外国語⼤学でフランスを学ぼうと思ったのですか。

実は、最初はロシア語専攻を志していたのですが落ちてしまい、1年浪⼈してフランス語専攻に⼊りました。浪⼈時代の予備校の先⽣に⾔語学者であるフェルディナン・ド・ソシュールの本を⾒せていただいたのがフランス語を志したきっかけです。その時におもしろい、⾔語学をやってみたいと思いました。そしてせっかくなら原書で読みたいと思い、フランス語に決めました。

―――本学での学⽣⽣活はどうでしたか。

いろいろな⼈と話ができたと感じています。のんびり友達とおしゃべりすることが多く、⾼校までと⽐べて⼈との関係が密になり、そこから学ぶことがたくさんありました。

―――在学中、ソシュールについても学ばれましたか。

はい、幸運なことにソシュール研究で有名な富盛伸夫(とみもり・のぶお)先⽣(本学名誉教授)がいらっしゃったので、ソシュールに特化した授業があり、先⽣のサブゼミにも所属して学んでいました。まさに⼤学⼊学前に興味を持っていたことを学ぶことができました。所属したゼミの先⽣もフランス語学の先⽣で、現在の研究の⽅向性が学部時代に掴めたように感じています。

―――ゼミはどのようにして決められましたか。

当時のフランス語学の先⽣全員にお会いして、⼀番話がおもしろいと感じた敦賀陽⼀郎(つるが・よういちろう)先⽣(本学名誉教授)のゼミを選びました。実は私が今いるこの研究室は、敦賀先⽣の研究室でした。先⽣は具体的な例をしっかり⾒ていくような研究⽅法を取られていたのですが、それが今の私の研究の基盤にもなっています。

フランスへの留学

―――在学中にフランスへの留学はされましたか。

学部の時も修⼠の時も⾏かず、博⼠課程の3年時に初めて⾏きました。資⾦⾯の問題と、今よりも派遣留学の枠がとても狭かったということがあり、それまで⾏きませんでした。⾏ってからは15年ほどずっとフランスに住んでいたので、留学というよりは移⺠のような⽣活を送っていました。

―――実際にフランスへ⾏ってみて驚いたことや、とくに印象に残っていることはありますか。

もうそのようなことばかりでしたね。ちょっとしたことでもすべて驚きになるからこそ楽しかったです。コーヒーの飲み⽅や朝⾷のメニュー、野菜の⼤きさなど⽣活の⼀瞬⼀瞬が⽇本とは違うので、どの瞬間も刺激的でした。そのようなことがストレスになる場合もありますが、やはり新しいことからは多くの学びが得られます。

留学時代の友⼈とパーティ。私が巻き寿司を作りました。

―――フランス語を学ぶ中で苦労したことはありますか。

とくに最初のうちはフランス語が全然できませんでした。話したり聞いたりがずっと苦⼿で、それがコンプレックスで留学が遅かったというのもあります。⾃分でフランス語ができると思ったことはないです。実際にフランスへ⾏ってから伸びたと感じています。

―――克服するためにどのような努⼒や⼯夫をされましたか。

語学の勉強は⽬に⾒えて上達する⼈もいますが、基礎が⾝についていてもそこからなかなか上達しない⼈もいます。伸びるためには何かきっかけが必要で、たとえば現地に⾏って⾔葉を使ってみることでコツを掴み、そのコツが分かれば⼀気に伸びていきます。私も⽇本で10年近くやってもうまくいかず悩んでいたのですが、フランスへ⾏ってわずか半年で⼀番難しい資格試験に合格しました。今思えばきっかけが⼤事だったのだと思います。

―――今の⼤学⽣に、学部のうちから留学へ⾏くことを勧めますか。

⾏けるのであれば⾏くことをお勧めします。やはり早いうちから異⽂化やコミュニケーションのコツなどの発⾒をすることは⼤きなきっかけとなります。今は以前と⽐べ、派遣留学や奨学⾦の制度も整っているので、就職のことなどもあまり気にせずにぜひ⾏ってみてほしいと思います。

プロバンス地⽅の写真を紹介。きれいなところでしょ。

―――留学先のことを教えてください。

私はパリとエクス=マルセイユに⾏きました。パリは物価が⾼く⽣活は⼤変ですが多くの⽂化遺産を持った素敵な街でした。エクス=マルセイユはとにかく美しいところです。またパリや東京に⽐べ、⼈とのかかわりが密になります。待ち合せずとも歩いていたら友⼈と会ってカフェに⾏ったり、隣⼈と⾷材や⼿作りのお菓⼦を共有したりというようなことがよくありました。とにかく⼈が優しくてあたたかかったです。

南仏アルプスでハイキング。留学中、ハイキングにはまっていました。

――――素敵ですね。外国⼈であるということはあまり関係なく仲良くできていたのですか。

やはり⼈種差別がまったくなかったわけではありません。しかしそのような移⺠の⽴場に⽴ってみることも貴重な経験だったと思います。また、⼀緒に⽣活していくとそのような壁はなくなっていきます。実際にホームステイ先のおばあちゃんは、毎⽇お菓⼦を作ってくれたり友⼈に紹介してくれたりととてもかわいがってくれました。

つながり

―――ー今もそうした⼈々とのつながりはありますか。

はい。⽇本⼈よりフランス⼈の⽅が思い⽴ったようなときに急に「久しぶり!」と連絡をくれることが多いです(笑)。

―――⼤学院に進むことを決めた理由を教えてください。

⼀度きりの⼈⽣なので好きなことを優先したい、もう少し勉強したいと考えたからです。ただやはり経済⾯を考え、教職を取っていたことから⾼校の英語⾮常勤講師として働きながらでした。

―――当時⾼校⽣に教えていたことが現在も役に⽴っていると感じることはありますか。

⾼校⽣と⼤学⽣では異なる⾯も多いですが、教えるという点で⽣徒側の視点に⽴つことや⾔い⽅ひとつで伝わり⽅が変わるということは⼤変勉強になりました。

―――教員としてのやりがいにはどのようなものがありますか。

もともと⼈と関わる仕事が好きな⽅ですし、私が教える以上に学⽣さんから教わることが多く、ちょっとしたことでも気づきや発⾒があることが⼀番のやりがいです。

―――現在どのような研究をされているのか教えてください。

⼤学院の頃からずっと話し⾔葉の研究をしています。⼈々の⽣活や⽂化が垣間⾒えるのが話し⾔葉のおもしろいところです。さまざまな場所で録⾳し、それを転写して特徴を考察してきました。

―――研究の中での気づきをどのように会話の中などで実践されていますか。

フランス語はとにかく多様で場所や場⾯、職業などのさまざまなコンテクストによって語彙などが異なるのでそういった点は意識しています。みなさんが普段教わっているネイティブの先⽣⽅のフランス語にも、その違いが現れていることがあるのではないでしょうか。

―――たしかに違いますね。先⽣にとってフランス語や⾔語学はどのような存在ですか。

やはり⼀番興味のあることですし、それを仕事にできて、さらに社会に何か還元できているので、私にとっては切り離せないものだしアイデンティティのひとつです。

若い⽅へメッセージ

―――先輩として東京外⼤⽣にメッセージをお願いします。

みなさんさまざまなポテンシャルを持っているので、⾃分を信じて失敗を恐れずにいろいろなことにチャレンジしてほしいと思います。そして多くの経験の中で⾃分の持っているものを磨いていってください。

マルセイユから地中海の眺め。お気に⼊りの散歩コース

―――本⽇はありがとうございました。

インタビュー後記

私はフランス語専攻なので、今回秋廣先⽣にフランスや語学についての貴重なお話を伺うことができ、⼤変光栄でした。とくにフランスでの⼼温まるエピソードは、聞いていてとてもわくわくするもので、フランスに⾏きたくなりました。秋廣先⽣もフランス語学習に苦労されていたという話は驚きでした。成⻑が⽬に⾒えなくても地道にコツコツと学習を続けたいと思います。お忙しい中ありがとうございました。

村上眞海(⾔語⽂化学部フランス語3年)

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