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現代の暮らしの中で、人と野生動物の距離は思っている以上に近く、そしてその関係はとても繊細です。2025年は日本でもクマによる被害が多く報じられ、「どう向き合えばいいのか」と考えさせられた方も多かったのではないでしょうか。農作物が荒らされてしまうといった生活への影響に加え、山道や住宅地周辺での不意の遭遇による人身被害も相次ぎ、地域の不安はこれまで以上に高まりました。一方で、野生動物の生息環境の変化や餌不足といった背景を踏まえ、動物をどう守るかという思いも大切にされており、そのバランスを取ることは決して簡単ではありません。

お笑いコンビ・ママタルトさんをパーソナリティに迎え、世界の食文化を入り口に、地域の社会や文化を掘り下げるポッドキャスト「ママタルトの地球ディッシュカバリー 〜東京外大の先生と一緒〜」。今回は、大学院総合国際学研究院の大石高典准教授と現代アフリカ地域研究センターの林剛平特別研究員をゲストに迎え、目白にあるジビエ料理店「アンザイ」を舞台に、アフリカ・カメルーンでのフィールドワークと日本の熊猟の現場から見えてくる、人間と自然の関わり方について語りました。アフリカと日本それぞれの農村や山での暮らしを研究してきたお二人が、少し違った角度から光を当てています。「共に生きる」ためのヒントを、一緒にのぞいてみましょう。


ゲスト: 大石 高典 准教授

東京外国語大学大学院総合国際学研究院 准教授。専門は生態人類学、文化人類学・民俗学。中部アフリカ・カメルーンの熱帯雨林地域において、狩猟採集民や農耕民の生活、環境利用に関する調査を 20 年以上にわたり継続している。研究者情報 研究室を訪ねてみよう

ゲスト: 林 剛平 特別研究員

東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター所属。原発事故後の放射能測定をきっかけに熊猟に関わるようになり、現在は山形県飯豊町を拠点に活動している。築 200 年の古民家に住みながら、マタギの伝統やクマ猟のドキュメンタリー制作、地域文化の研究を行っている。研究者情報

パーソナリティ: ママタルト 檜原洋平さん、大鶴肥満さん

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\ぜひ耳で味わってみてください!/ 

「ママタルトの地球ディッシュカバリー〜東京外大の先生と一緒〜」

ポッドキャストでは、ママタルトさんの軽快なトークと笑いに包まれながら、大石准教授と林特別研究員の深くて面白いお話がたっぷり詰まった“知的エンタメ”なひとときが味わえます。聞けば世界がちょっと広がる、楽しくてためになるひととき。ぜひポッドキャストでお楽しみください!

目白の食卓からカメルーンの辺境へ――ジビエがつなぐ縁

────今回、ぼくらが先生方に教えていただく学びの食卓は、こちら、目白にあるジビエ料理のお店『アンザイ』さんです。先生は、こちらにはよく来られるんですか。

大石  私は今回で3回目くらいになります。元々のきっかけは、私の教え子の学生が「狩猟に興味がある」と言って、自分でこのお店を検索して見つけ出してきたことなんです。彼女はこちらで働かせていただきながら、なんと卒業論文までここで書き上げました。そのご縁があって、私のゼミではここ数年、卒論発表会の打ち上げの際に安西さんからお肉を届けてもらい、みんなで料理して味わうのが恒例になっています。

  私はお店に直接伺うのは、実は今回が初めてなのですが、大石先生がおっしゃったように、これまでにも安西さんの送ってくださったお肉をいただく機会はありましたので、その味は以前から存じていました。今日こうして店舗で直接料理をいただけるのを、とても楽しみにしていました。

アンザイの玄関。目白の住宅地の中の一軒家
実家に帰ったかのような居心地の良い部屋。奥中央が店主で猟師の安西さん

────大石先生はカメルーンの村に 1 年近く滞在されることもあるそうですが、どのような環境で調査をされているのでしょうか。

大石  カメルーンは「ミニ・アフリカ」と呼ばれるほど多様で、言語ベースで250 以上の民族が存在します。僕の調査する村だけでも15ほどの民族が暮らしています。西アフリカのセネガルやマリなど遠くからやってくる移民の人たちもいるので、全員が話せる共通言語はフランス語だったり、時にはボディーランゲージが混じることもあります。電気も水道も通っていない文字通りの「辺境」ですが、しかし面白いことに、最近ではそこには太陽光パネルが並び、首都よりも冷えたビールが飲めたり、スターリンク(衛星インターネット)を通じて TikTok をアップしたりする光景があります。国家によるインフラ整備を待たず、自分たちでDIYによってテクノロジーを取り入れる「自由と自治」の逆転現象が起きているんです。水に関しては、最近の滞在では新しく井戸を掘りました。井戸掘りを専門にしている人がいて、頼むと 1 ヶ月ほどかけて手作業で少しずつ掘り進めてくれるんです。私が出会った井戸掘りおじさんはカメルーン北部から来た人でしたが、彼はムスリム(イスラム教徒)なので、お酒は⼀切飲まず、朝夕に短時間仕事をして日中の一番熱い時間には冷えたジュースを飲みながら衛星テレビでサッカー観戦を楽しむという、非常にマイペースで誠実な仕事ぶりでした。

井戸掘りの職人が井戸を掘っているところ。鉄の棒一本で岩も砕いてしまう。2025年6月、カメルーン東部州にて撮影(大石)

「一期一会」の食文化

────さて、最初のお料理が運ばれてきました。うわあ、いい香りですね! 見た目はまるで牛肉のヒレステーキのようですが、これは一体何のお肉でしょうか。

安西  これは、私が地元・浜松で捕獲したシカの肉です。シンプルにニンニク醤油で焼き上げています。

鹿の焼肉

────いただきます!……(一口食べて)……うわ、すごい! 驚くほど柔らかいですね。ジビエ特有の臭みなどは全く感じられなくて、赤身の旨味に非常に深いコクがあります。

大石  東京にもジビエ料理店は多いですが、安西さんのようにシェフ自身がハンターであり、獲物の背景をすべて知り尽くした上で提供しているお店はそう多くありません。 

安西  そうですね。私は調理師である前にハンターでありたいと考えています。野生動物の命をいただく以上、「殺し方、解体の仕方、保管、調理」というすべてのプロセスに責任を持つことで、最高の状態でお客さんに届けることができるんです。

────続いてのお料理が運ばれてきました。お、次は何でしょう……。一見、厚揚げ豆腐のようにも見えますが、これはお肉ですか? 見た目はまるで豚バラのブロック肉、サムギョプサルが出てきそうなボリューム感ですね。

安西  これはイノシシのロース(背中の部分)です。醤油とみりん、そしてイノシシの骨からとった出汁をベースにした「和風出汁」で煮込んであります。

猪の煮物

────いただきます! ……(食べてみて)……うわ、脂身がすごくぷりっとしていて、噛むと口の中で甘みが広がりますね。豚肉に近い感じもしますが、より繊維が豊富で食べ応えがあります。

大石  本当に、この脂身の美味しさは格別ですね。 

  見てください、この皮の処理が本当に綺麗です。下手だと、せっかくの脂身が皮のほうにいってしまいます。毛穴が見えるということは、皮を見事に剥いでおり、脂身が赤身サイドに完璧にいっています。これは実に見事に、美しく仕上げられていますね。安西さんの腕の良さがよくわかります。 

安西  一般的には臭みを消すために味噌を使うことが多いのですが、うちでは適切に処理された「臭みのない肉」を使っているので、肉本来の味を楽しめる醤油味で提供できるんです。素材に自信があるからこその味付けです。

脂身がぷりっとして噛むと口の中で甘みが広がる

────続いてのお料理が運ばれてきました。一気にパーティーが始まったかのような華やかさです。これは……骨付きの塊肉ですか?

安西  これは、生まれてまだ1歳を迎えていない「ウリ坊(イノシシの子供)」の前脚を丸ごとローストしたものです。シンプルに焼き上げて、仕上げにハーブソルトをかけています。

ウリ坊の前脚を丸ごとローストにしたもの(左:檜原さん、大鶴さん)

────いただきます。……(食べてみて)……めちゃくちゃ柔らかいですね! 本当だ、一瞬でなくなっちゃう。脂身もすごく甘くて、プルプルしたコラーゲンのような食感があります。ウリ坊、こんなに美味しいんですね。

大石  この柔らかさと美味しさは、動物が受ける「ストレス」とも深く関係しています。過剰な開発で劣化した環境にいる動物や不適切な狩猟でプレッシャーを受けている動物の肉は、実はあまり美味しくないんです。

  安西さんのように、その個体がどこで何を食べていたかまで把握し、適切な距離感で仕留める。そうしたプロセスすべてが、この「ストレスのない味」につながっているんですね。

猪の牡丹鍋
牡丹鍋には野菜もたっぷり。人参は猪の形にくり抜かれている

カメルーンのジビエが教える自然との距離感

────そんなカメルーンでは、ジビエはどのように食べられているのでしょうか。

大石  カメルーン、特に私が調査している熱帯雨林地域では、ジビエは特別なものではなく、最も身近な「日常のタンパク源」です。これには生態学的な理由があります。アフリカにはツェツェバエが媒介する「眠り病」という強力な感染症があり、家畜の牛や豚を育てることが非常に難しい地域です。例えば外から連れてきた豚はすぐに病気で死んでしまいがちですが、野生のイノシシは森の中で元気に走り回っています。そのため、村の人々にとっては森の野生動物が最も安定して手に入る肉になります。‎

大石准教授

────具体的にはどんな動物を、どうやって料理するんですか。

大石  地域や民族にもよりますが、ダイカー、ホロホロチョウ、サル、フサオヤマアラシ、センザンコウ、ワニなど、非常に多様です。サルの肉は、独特の歯ごたえと風味があり、鶏肉など他の肉とは一線を画す独立した味わいです。フサオヤマアラシは、鋭い棘の下にあるゼラチン質の皮が絶品で、煮たり焼いたりすると最高にうまく、まさに「ご馳走」です。ワニは、数種類いますが1メートルちょっとの「アフリカコビトワニ」などをよく食べます。特に尻尾の付け根の肉は、鶏のせせりのように動かす部位特有の旨味があって、私は大好きです。調理法で最も一般的なのは煮込み料理です。味付けには、森で採れるナッツや木の皮、草などをすりつぶしてペースト状にしたものを使ったり、最近ではトマト缶を加えたりすることもあります。一番シンプルなのは、塩と唐辛子だけでジビエを煮込む料理ですが、これが驚くほど美味しいんですよ。

ダイカーのソース煮込み。これはトマト缶が入っている。2025年6月。カメルーン東部州にて撮影
アカカワイノシシのスープ。塩と唐辛子で味付けされた澄まし汁のように透明な汁物は、フランス語で、「ブイヨン」と呼ばれる。2009年9月。コンゴ共和国にて大石撮影

────ワニまで! 獲るのは大変じゃないんですか?

村の子どもたちは本当にたくましくて、小学校2、3年生くらいの女の子がナタ一本でワニを獲ってくることもあります。また、ワニの卵も食べましたが、これがなかなか固まらない。40分くらい茹でても半熟のままで、私はそれをインスタントラーメンにトッピングして食べたりしていました。ナマズなどの川魚が獲れたときも、即席で「ナマズの辛ラーメン」にしたりしてね。そうやって現地の素材を自分なりのやり方で生活に取り入れることができるのも、アフリカでの生活の面白いところです。ただ、こうした豊かな食文化がある一方で、近年は森林伐採などの資源開発のための道路建設によって、主に村での自給用だったジビエが都市部へ売られる「商業化」が進み、野生動物の数が激減するという深刻な問題も起きています。

────ジビエの「商業化」に伴う問題とはどういうことでしょうか。

大石  かつては村の中での自給的な消費で完結していましたが、道路建設などの開発が進み都市部への流通ルートができると、「商業化」という問題が生じます。都市部での需要に応えるために銃などで乱獲されるようになり、動物の数が激減したり、採れる個体が小型化したりしています。 また、過剰な開発や狩猟によって人間と野生動物の距離が不自然に近づくことで、人獣共通感染症のリスクが高まることも、グローバルな課題となっています。

熱帯林から切り出した材木を運ぶトラック。道路の建設・管理と熱帯林伐採事業のような資源開発は密接に結びついている。2015年3月大石撮影(コンゴ共和国)

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学びを広げるリンク集

訪れたお店の紹介

ジビエ料理

アンザイ

東京都新宿区下落合3丁目1−1(JR目白駅より徒歩約3分)

ドキュメンタリー映画『OGUNI MATAGI』

山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)  「ともにある Cinema with Us2017」招聘作品。
撮影/編集/監督 林剛平/日本/2017/124分
『OGUNI MATAGI』フルバージョン

https://youtu.be/VL8fPHo-spw?si=B-RueTX1dHQjfpz5

山形県飯豊連峰のマタギに関するYouTubeチャンネル

YouTubeチャンネル:MATAGI RAW | Gohei Hayashi
@matagiraw

https://www.youtube.com/@matagiraw

ジビエ・狩猟ブームの“その先”を考える人類学インタビュー

日本で広がるジビエ人気や獣害対策の動きが、私たちの価値観や社会の深部にどこまで届いているのか。ブームの陰にある可能性と課題を、今回のポッドキャストのゲスト教員である大石高典准教授の視点から丁寧に読み解くインタビュー記事。

『アフリカで学ぶ文化人類学──民族誌がひらく世界』

不朽の民族誌と最新の研究成果からアフリカの現在を考える、文化人類学を学ぶ人にとってもアフリカを学ぶ人にとっても最適の入門書。

『アフリカで学ぶ文化人類学──民族誌がひらく世界』松本尚之・佐川徹・石田慎一郎・大石高典・橋本栄莉 編 

出版社:昭和堂
ISBN 9784812219065
判型・ページ数 A5・288ページ
出版年月日 2019年11月25日
本体2,200円+税

http://www.showado-kyoto.jp/book/b480879.html

書影

『民族境界の歴史生態学―カメルーンに生きる農耕民と狩猟採集民』

カメルーンの変わりゆく暮らしのなかで、農耕民と狩猟採集民の境界はいかに維持されているのか。伝統と変容が交錯するなかでの民族間の境界の駆け引きを、歴史的な視点から描き出し、自然/生業/社会の相互作用に迫る一冊です。

『民族境界の歴史生態学―カメルーンに生きる農耕民と狩猟採集民』大石 高典 著

出版社:京都大学学術出版会
ISBN 9784814000227
判型・ページ数 A5上製・280頁
出版年月日 2016年3月
本体3,700円+税

https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814000227.html

書影

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―

食を通じて文化を知る――そんな体験をもっと広げたい方には、東京外国語大学出版会の『世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―』がぴったりです。料理から見える世界の多様性を、ぜひ味わってみてください。

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理― 沼野恭子【編】

ジャンル:食文化・料理・地域研究
版・貢:A5判・並製・224頁 
ISBN:978-4-904575-49-9 C0095
出版年月:2015年10月30日発売
本体価格:1800円(税抜)

https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book39/

本記事に関するお問い合わせ先

東京外国語大学 広報・社会連携課

koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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