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本学の環境系学生サークル「たふえね」が、学生に世界各地域の環境問題についての知識を深めるきっかけを提供することを目的に、教員へインタビューするシリーズ企画。今回は、国際関係論やオセアニア地域研究が専門の片岡真輝准教授に、たふえねの学生たちがオセアニアにおける環境問題を中心にインタビューを行いました。
インタビューでは、オセアニアの人々が抱く反核アイデンティティと気候変動問題の親和性、被害の記憶を共有することで強まる地域主義(リージョナリズム)、さらには気候変動が安全保障に及ぼす影響など、国際政治学的な観点から多角的なお話を伺いました。現在を生きる私たちがどのように過去から意味を見出し、視野を広げて環境問題に向き合うべきか、大学生へのメッセージも語られています。

<懇談参加者> 

以下、たふえね

  • 吉成 雫さん(国際社会学部 オセアニア地域 2年)
  • 鬼塚 泰祐さん(言語文化学部 中国語/東アジア地域 4年、教育社会学ゼミ)
  • 高田 夏織さん(国際社会学部 西南ヨーロッパ地域/フランス語 4年、国際社会学ゼミ)
  • 鈴木 真悠子さん(国際社会学部 中央ヨーロッパ地域/ポーランド語 4年、西欧比較政治学ゼミ)
  • 武藤 紗空さん(国際日本学部 1年)
  • 龍 歩未さん(国際社会学部アフリカ地域 3年、アフリカ地域研究ゼミ)
  • 田中 バットアイシャ 真李さん(国際社会学部南アジア地域/ウルドゥー語 3年、記憶論ゼミ)
  • 仲山 健さん(国際社会学部東アジア地域/モンゴル語 1年)

「和解」への探求から太平洋の島国フィジーへ

── 片岡先生のご専門に関することからお伺いできればと思います。 

本日はお呼びいただき、ありがとうございます。国際社会学部の国際関係コースで記憶論ゼミを担当している片岡真輝です。私の専門は国際関係論で、オセアニア地域のフィジーを主なフィールドとしています。フィジーという小さな国における民族対立や、その和解をどのように達成するかといった問題を、「記憶の政治学」と呼ばれる分野で研究しています。実は、環境問題そのものは私の専門ではありません。しかし、オセアニア地域を担当していると、環境問題は避けて通れないトピックです。温暖化にともなう海面上昇で国土消失の危機に直面している国があるなど、この地域にとって「環境外交」は外交政策の基軸となっているのです。私自身、国際政治系の学会などを通じて、オセアニアの「環境政治(クライメット・ポリティクス)」や「気候安全保障(クライメット・セキュリティ)」といった分野にも携わってきました。専門の先生方のような深いお話はできないかもしれませんが、日本にいるとなかなか入ってこないオセアニア現地の情報や、地域研究の観点からの取り組みについてお話しできればと思います。どうぞよろしくお願いします。

片岡准教授

── 先生が学生時代から、現在の研究テーマであるオセアニア地域やフィジーの「記憶論」にたどり着いた経緯を教えてください。 

実は、最初からオセアニアや記憶の研究を志していたわけではありませんでした。学部生の頃は、漠然と国際的な何かを勉強したいと考えているだけで、研究者になろうとも思わず授業を受けていただけでした。しかし、3年生のゼミの頃から勉強が楽しいと感じるようになり、「もう少し学びたい」という思いから、国際関係論を学ぶために大学院に進学しました。大学院で安全保障や国際政治を学ぶ中で、紛争解決や和解というテーマに興味を持つようになりました。修士論文では紛争後の社会における民族対立の和解について取り組んだのですが、その過程で出会ったのが、「移行期正義(トランジッショナル・ジャスティス)」という学問分野です。これは、紛争後の社会でいかに過去の不正義を清算し、被害者と加害者が新しい社会で共存していくかを考える学問です。移行期正義では、対立する集団の間で食い違う歴史認識を、いかに双方が納得できる公的な歴史へと落とし込むかが重要になるため、「記憶」の話と非常に親和性が高いのです。こうした記憶が持つ社会的な役割や政治的な側面に関心を持ち、記憶論を専門的に勉強するようになりました。フィジーをフィールドに選んだのは、本当にたまたまの縁です。修士課程を終えた後、オーストラリアのシンクタンクでインターンをしていた際に、オーストラリアの対太平洋島嶼国外交を担当することになりました。そこでフィジーの民族分断や対立の現状を知り、移行期正義や和解を考える上で面白いケースになるのではないかと考え、研究をスタートさせました。現在は、民族融和のために記憶がどう使われるのか、あるいは逆に記憶が分断を深めてしまうのかといった実態を分析しながら研究しています。

核実験から気候変動へ。オセアニアに根付く「被害の記憶」

── 先生のご専門である「記憶論」という視点から伺います。オセアニアにおける気候変動の経験や被害は、いつ頃から社会で問題視されるようになったのでしょうか。 

いつから注目され始めたのか特定するのは難しいですが、国際社会が気候変動や温暖化を本格的に深刻に考え始めたのは、1970年代や80年代頃だと思います。それ以前の太平洋島嶼国では、気候変動はそれほど注目されてはいませんでした。ただ、この問題がオセアニアで大きな問題として捉えられるようになった背景には、かつてこの地域が核実験の実験場にされてきた歴史が、大きな下地として存在しています。冷戦時代、大国による核開発競争の中で太平洋地域でも核実験が行われ、人々は被曝被害に遭いました。これに対し、地域の人々は大国のパワーによる国際関係への異議申し立てとして、強い「反核アイデンティティ」を育んでいきました。その結実が、1986年のラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約)でした。「大国の身勝手によって、自分たちの責任ではないところで環境が破壊され、土地を追われている被害者」という点において、核実験の問題と温暖化の問題は同じ構造をしています。かつての反核運動による強い姿勢やアイデンティティが、現在の気候変動問題に対する強い関心の素地になっていると言えます。

── そうした気候変動の経験や被害は、人々の記憶としてどのように蓄積され、政治や社会に影響を与えているのでしょうか。 

一方的に降りかかってきた被害や犠牲の記憶というのは、社会に定着しやすいものです。特に気候変動は、「自分たちに責任がないのに、大国の経済活動のせいで被害を背負わされている」という、国際的な不平等の象徴として機能します。この地域における大きな特徴は、その被害の記憶や認識が、個別の国にとどまっていないという点です。例えばツバルは「沈みゆく国」として表現されるような象徴的な国になっていますが、これはツバルだけの問題ではなく、オセアニア全体の問題として捉えられています。太平洋諸国の人々が「同じ気候変動の被害者である」という自己認識や記憶を地域レベルで共有することで、地域全体の結束、つまり「地域主義(リージョナリズム)」が強まっているのです。その結果、ツバルのような気候変動に対して脆弱な島国だけでなく、パプアニューギニアやフィジーといった比較的国土の大きな国々も、記憶を共有しながら協力して外交活動を行うという、地域一体となった集合行為が見られるようになっています。

「気候変動ナショナリズム」が導く小国の連帯

── 東京外国語大学出版会の『ピエリア』(第16号「気候変動と人の営み」、2024年4月発行)の中で、被害者意識という感情が集団の結束を促進することを「気候変動ナショナリズム」と表現されていました。この「気候変動ナショナリズム」は、今後の環境問題の解決にどのように役立つとお考えでしょうか。 

「ナショナリズム」という言葉の適切性には議論があるかもしれませんが、自分たちの尊厳や人権が理不尽に奪われているという認識は、集団の結束を高める役割を果たします。ナショナリズムにはマイナスのイメージもありますが、不正義に対して集団で結束して立ち向かうという意味では、ポジティブな側面もあるかもしれません。特に太平洋島嶼国は国力が非常に小さいため、温室効果ガスを大量に排出しているアメリカや中国のような大国に対して、個別の国で立ち向かうことは困難です。だからこそ、地域で結束して声を大きくし、国際社会を味方につけて国際交渉に臨む。こうした結束力を高める意味で、このナショナリズムは問題解決に向けてポジティブに作用する可能性があります。

── 一方で、こうした感情によるナショナリズムが排他的な感情を生み出したり、激化したりする危険性についてはどのようにお考えですか。 

おっしゃる通り、排他的になったり過剰に攻撃的になったりする危険性は当然あります。ただ、オセアニアの場合は国際社会におけるパワーの非対称性があまりに大きいため、彼らが排他的になったとしても、それが先進国を揺るがすような国際的な脅威にはなりにくいという現実もあります。むしろ注意すべきは、極端な主張が逆効果を生む可能性です。一部の過激に思われる主張は、多くの人々を辟易させ、「アンチ環境派」や「気候変動否定論」を増やして環境問題への取り組みにブレーキをかけてしまう危険があります。例えば現在のEUでは、環境規制や環境税の負担によって現場の生産者が困窮し、「自分たちの生活を救うべきだ」という「環境疲れ」が可視化されています。こうした事態を避けるためにも、気候変動ナショナリズムをいかにコントロールするかは、真剣に考えなければならない課題です。そのような危険がある一方で、オセアニアの気候変動外交では、公的なレベルでは自制を働かせ、大国の経済政策や国際貿易体制との間でバランスを取りながら主張を行うというスタンスを取っているように見えます。

大国の思惑が交錯するオセアニアの地政学

── 米中対立の最前線において、気候変動はオセアニア地域の安全保障にどのような影響を与えていると考えられますか。 

最近の「安全保障」という概念は、大きな転換期を迎えています。伝統的な軍事力だけでなく、経済安全保障やサイバー安全保障といった他の分野を包括しながら考えるのが、現在の国際政治の主流となっています。その中に「気候安全保障(クライメット・セキュリティ)」もあります。特にオセアニアにおいては、気候変動はもはや環境問題という枠を超え、国家の存立を揺るがす「生存への脅威」そのものです。例えば、環礁島であるツバルなどは標高が数メートルしかありません。そのため、海面が上昇すれば、たとえ国土が完全に消失せずとも、高波による塩害で作物が育てられなくなるなど、住み続けること自体が困難になります。その結果として発生するのが、いわゆる「気候難民」の問題です。この問題における具体的な動きとして注目すべきなのが、ツバルとオーストラリアが結んだ「ファレピリ連合条約」という合意です。これは、オーストラリアがツバルの人々を難民として受け入れる代わりに、ツバルが他国と安全保障上の重要な決定をする際にはオーストラリアの許可(相談)を必要とするという条件を課したものです。これを「主権の侵害」と見る向きもありますが、このように気候変動という生存の脅威が、国の安全保障や主権のあり方にまで直接影響を及ぼすようになっています。 

── その安全保障の観点から、オセアニア地域は今後どのように重要になってくるとお考えでしょうか。 

地政学的な要衝となっている太平洋では、気候変動問題と国際政治が切り離せない関係になっています。2022年に中国とソロモン諸島の間で締結された安全保障協定は、アメリカやオーストラリアにとっては大きな脅威です。こうした中国の海洋進出を防ぐため、大国は気候変動問題を外交のカードとして利用しています。ツバルの例のように、難民の受け入れや環境支援を提示することで、自国の安全保障上の国益にかなう条件を相手国に飲ませるといった動きが起きているのです。また、例えばトランプ政権が国防費を増やす一方で環境のための予算を削減するなど、安全保障と環境問題の間で「予算の奪い合い」も起きています。ポピュリズム政治において、環境問題と安全保障は切り離せない関係になっているのです。今後、オセアニアは単なる「環境被害の現場」としてだけでなく、大国の思惑が交錯する安全保障の最前線として、ますます重要な地点になっていくと思います。

多角的な視座で「今、何をすべきか」を問い直す

── 先生が専門とされている「記憶」の研究という独自の観点から、私たち大学生に向けたメッセージをお願いします。 

私たちは環境問題や脱炭素社会の実現について「今、何をすべきか」を考えますが、その判断基準は、すべて「過去にこうしたことがあったから、繰り返さないためにこう行動すべきだ」というように、過去に基づいています。記憶論の観点から言えば、私たちは過去に起こったことをそのまま完璧に認識することはできず、現在の価値観や脅威の認識、国益などに基づいて過去を「再構築」しています。これは社会学的な言葉で「集合的記憶」と呼ばれますが、過去は現在の関心事項に基づいて作られるものなのです。だからこそ、皆さんには「現状を正しく認識するために視野を広げること」を大切にしてほしいと思います。例えば、欧米のNGOが発信する情報だけが、気候変動をめぐる世界のすべてではありません。日本にいると情報の入りにくい太平洋島嶼国やカリブ海、アフリカ、南アジアといった地域の人々がどのような生活を送り、何を求めているのかという点に、広くアンテナを張ってください。視野を広げ、これまで社会で可視化されてこなかった人々の実態を知ることで、それを踏まえた「今、我々が何をすべきか」を考えることができるようになります。こうした考え方は、環境問題に向き合う上でも非常に有効だと思います。

── 学びを深めるために、おすすめの本や文献がありましたら教えてください。 

私は環境問題そのものの専門家ではないため、体系的に網羅しているわけではないのですが、一冊挙げるとすれば『Rethinking Climate Change, Security and Politics』(2025年、Palgrave Macmillan)という最近出版された本です。これは国際政治学会(International Political Science Association: IPSA)という巨大な学会の中に新しくできた「気候安全保障と惑星政治(Climate Security and Planetary Politics)」という分科会が編集した論文集で、私も関わっています。この本では、気候安全保障や気候政治について、グローバル・ガバナンスの強化、貿易や規制、さらには先住民の知見をどう危機克服に活かすかといった、非常に多角的な切り口から議論されています。内容はテーマごとに整理されており、網羅的にトピックがカバーされているので、自分の興味や研究テーマに合ったものを見つけるための入り口として読んでみるのも良いかと思います。

(2026年7月9日収録)


本記事に関するお問い合わせ先: 広報・社会連携課 広報係 koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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