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今回の「地球ディッシュカバリー」の舞台は、日本のちょうど真裏に位置する広大な国、ブラジル。サッカー、カーニバル、そしてコーヒー。私たちが抱く陽気なイメージの裏側には、植民地時代から続く複雑な歴史と、多種多様な人々が織りなす現代社会の光と影が広がっています。

今回は、ブラジルを中心としたラテンアメリカの社会研究を専門とする近田亮平教授をゲストに迎え、お笑いコンビ・ママタルトのお二人と共に、東京・赤坂のシュラスコ料理店「アレグリア」を舞台に、知のフルコースをいただきます。


ゲスト: 近田 亮平 教授

東京外国語大学大学院総合国際学研究院 教授。専門はブラジルを中心としたラテンアメリカ社会の研究で、特に都市部のスラム街「ファヴェーラ」などの貧困問題や社会運動、治安対策としての交番制度の導入など、現代ブラジル社会の変遷を長年調査研究している。学部から博士号までを東京外国語大学で取得した「生粋の東京外大生」であり、ジェトロ・アジア経済研究所での約四半世紀にわたる研究員生活を経て、2025年に母校へ着任した。研究の傍ら、ブラジル政府の応用経済研究所(IPEA)の研究員(2005〜2007年)やサンパウロ大学の客員教授(2017〜2019年)を歴任するなど、現地に深く根ざした活動を続けている。研究者情報

パーソナリティ: ママタルト 檜原洋平さん、大鶴肥満さん

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\ぜひ耳で味わってみてください!/ 

「ママタルトの地球ディッシュカバリー〜東京外大の先生と一緒〜」

ポッドキャストでは、近田亮平教授が、日本の反対側に位置する広大な国ブラジルのダイナミックな「社会のリアリティ」を語ります。20歳で初めて訪れた「世界の果て」でのボランティアや、肉が硬すぎて「歯が筋肉痛」になったという驚きのエピソード、さらに排水が垂れ流しのスラム街「ファヴェーラ」などを対象に、住民たちの社会運動を間近で捉えた壮絶なフィールドワークの体験が満載です。サンパウロの交差点で目撃した「人種のるつぼ」の原風景や、映画やSNSが選挙を左右する政治事情、そして永遠の別れの挨拶「さらばじゃ」のような意味なのを知らずに使って笑われた失敗談など、知られざるブラジルの姿に迫ります。ママタルトの二人と一緒に、シュラスコを頬張りながら、「グローバルサウス」の旗手・ブラジルの熱量を楽しく深掘りします。聴けば世界の見え方がちょっと変わる、驚きと笑いのひととき。ぜひポッドキャストでお楽しみください!

貧困の連鎖を断ち切る

────先ほどブラジルの貧困についてお伺いしましたが、貧困層を助けるような、仕組み・政策はないんでしょうか。

ブラジルでは、1980年代の民主化以降、貧困を削減するための社会保障制度が整備されてきました。かつての軍事政権までの社会保障は、政府関係者や大企業の従業員およびその親族などが対象で、多くの人々は制度の枠外でしたが、現在はすべての国民を対象とした仕組みがいくつかあります。

まず医療面ですが、先ほどお話ししたように国民は公的な医療サービスを無料で受けられる制度があります。このような公的な医療制度は、民主化後の1990年代から全国で整備が進められてきました。また教育面でブラジルでは、初等・中等教育だけでなく大学も含む公立の学校は無料となっています。ただし、公立の学校は概して教育レベルが低いため、授業料の高い私立の初等・中等の学校で学ばなければ、無料である公立の大学に入学するのは非常に困難、という問題があります。

また、ブラジルをはじめラテンアメリカで普及した政策として「条件付き現金給付政策」というものがあります。これは単にお金を配るのではなく、「子どもが学校に通う」「健康診断や予防接種を受ける」ことなどを条件に、貧困な家庭に現金を給付する仕組みです。この政策は、貧困層の子どもの教育水準や健康状態を向上させ、将来的により有利な就職の可能性を高めることから、貧困の連鎖を断ち切るための効果が期待されています。

近田教授

──── 教育や医療といった公的なサービス以外にも、貧困層を支えるための法律や支援などはあるのでしょうか。

ブラジルには実は「ベーシック・インカム」に関する法律も存在しています。しかし、これはまだ「絵に描いた餅」のような状態で、実際に全国で実施されているわけではありません。いくつかの市町村で試験的に実施された例はありますが、本格的な運用には至っていないのが現状です。

他にも、ファヴェーラのような地域には政府だけでなくNGOなどが入り、スポーツ振興、例えばサッカーや柔道などを通じて、若者が貧困から抜け出すきっかけを作るような支援も行われています。

リオのファヴェーラ近くのスポーツ施設(近田教授提供)

政治の分断と、エンターテインメントの力

────ブラジルの政治は、今、どんな感じなんでしょう。

近年のブラジル社会は、国民が政治的に分極化し、双方の対立などにより緊張感が高まった時期もありました。まず大きな構図として、現在のルーラ大統領(左派)と、前大統領であるボルソナロ氏の一家(右派)による激しい対立が続いています。ルーラ大統領は現在80歳で、2003年から2010年まで大統領を務めた後、汚職疑惑で一時期収監されたこともありましたが、2023年に政権へ返り咲きました。

一方、対抗勢力であるボルソナロ前大統領は「ブラジルのトランプ」とも呼ばれ、軍出身で保守的な政治家です。現役大統領として再選を目指した前回2022年の大統領選で敗れた後、クーデターを計画したとして有罪判決を受け、現在は自宅軟禁中です。しかし、その勢力が衰えたわけではなく、今年10月の大統領選には彼の長男であるフラビオ上院議員が出馬する予定で、再びルーラ陣営との激しい争いが予想されています。

この政治的な右と左の分極化は、一般市民同士の対立の要因にもなり、日常生活に深刻な影響を及ぼしています。最近では、政治の話で議論になった際、ただの喧嘩では済まない事態も起きています。特にボルソナロ政権下で銃規制が緩和されたため、国民の中で銃を持つ人が増え、政治的な意見の食い違いから銃を持ち出すような事件まで報道されています。

────映画が大統領選に影響を与えることもあると伺いました。

はい、ブラジルでは巨大メディアやエンターテインメントが政治に与える影響は非常に大きいものがあります。特にブラジルには「グローボ」という、アメリカのハリウッドに匹敵するような撮影施設を持つ巨大メディア・グループがあり、かつてグローボは世論をコントロールする大きな力を持っていました。例えば、現職のルーラ大統領がかつて政権にいた2010年、彼を主人公にした『ルーラ、ブラジルの息子』という映画が制作されました。グローボお抱えの有名俳優を投入し、ブラジル国内最大の劇場数で公開されたこの映画は、まさに大統領選挙の時期に合わせてプロモーションが行われました。その年の選挙に出馬したのはルーラ自身ではなく後継者(ジルマ氏)でしたが、映画が人気を博したことも追い風になったと考えられ、ジルマ氏が当選を果たしたという経緯があります。

一方で、今回の選挙に関しても、右派のボルソナロ前大統領を主役にした映画『ダーク・ホース』が今年公開される予定になっています。しかし映画は、グローボのような国内のメディア・グループではなく、アメリカ合衆国の「ハリウッド映画」としてポルトガル語ではなく英語で制作されているのが特徴です。

ところが、このボルソナロ氏の映画に関して、制作資金をめぐりボルソナロ一家などが絡んだ汚職疑惑が浮上しました。映画はまだ公開されていませんが、現在のところ期待された人気ではなく、むしろ右派・保守勢力に対する国民の反発を高めるという逆効果をもたらしています。その影響で、ボルソナロ前大統領の長男フラビオ氏は10月の大統領選挙に出馬予定ですが、支持率に関してルーラ大統領にリードを許す展開へと転じました。

かつてはテレビドラマの視聴率が50〜60%に達し、メディアが特定の候補者を有利にするような番組などを流せば世論を動かせた時代もありました。しかし、フェイクニュースを含むSNSの影響力が増し、政治戦略のメディアが多様化しているのが、現在のブラジルの面白いところですね。

ママタルトさん(左:檜原さん、右:大鶴さん)

世界は広い

────最後になりますが、この記事を読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。

メッセージとしては、ブラジルやラテンアメリカという地域は、日本ではあまり報道もされませんし、物理的にも非常に遠い場所にあると感じられると思います。しかし、皆さんが思っている以上に、世界は本当に広いのです。

今、世界では「グローバルサウス」と呼ばれる南半球の国々が大きな発展を遂げ、影響力を強めています。ブラジルはその一角を担っており、インド、中国、ロシア、南アフリカなどによる国際会議「BRICS(ブリックス)」も、現在は11カ国に拡大し、世界経済における存在感を増しています。

日本ではあまり知られていないところで、実はダイナミックな変化が起きています。例えば、かつてはアメリカの影響が強かったラテンアメリカですが、最近ではラテンアメリカの複数の大統領が企業家たちとともに中国を同時に訪れ首脳会議を行ったり、ブラジルに関しては中国の貿易量がアメリカを上回ったり、中国のプレゼンスがラテンアメリカで非常に高まっています。一方、日本はかつて「経済大国」「テクノロジーの国」として見られていましたが、世界の中で日本に対するこのような印象は薄くなって来ているという現実もあります。

こうした動きや情報は、日本にいると知る機会が少ないですが、一歩外に目を向ければ、想像もできないような新しい動きが常に起きているのです。ブラジルをはじめとしたラテンアメリカに、もっと多くの人が関心を寄せてもらえると非常に嬉しいですね。日本から遠い場所のことだと思わずに、世界で起きている多様な出来事に、ぜひ知的好奇心を持って目を向けてみてください。

────最後に…ブラジルのポルトガル語で、「ありがとうございました」と「さようなら」は何と言うんでしょうか。

「ありがとうございました」は男性なら「オブリガード(Obrigado)」、女性なら「オブリガーダ(Obrigada)」です。

「さようなら」は「チャゥ(Tchau)」と言えば通じますよ。正式なポルトガル語には「アデウス(Adeus)」という言葉がありますが、ブラジルではこの言葉を使う人はまずいません。ポルトガル語、スペイン語、イタリア語、フランス語は、ラテン語を起源とする「ラテン系(ロマンス諸語)」の言語ですので、これらは互いに似ていることがあります。ブラジルでは、イタリア語が語源の「チャゥ(Tchau)」が一般的で、ポルトガルの「アデウス」はスペイン語圏でよく使われる「アディオス(Adios)」に似ていますが、日常生活で耳にすることはまずありません。私が初めてブラジルに行った際、「アデウス」を使ってみたところ、言われた相手が「変なことを言ったな」という感じで固まってしまい、苦笑いされたことがありました。ブラジルで「アデウス」は永遠の別れなどに使う言葉で、日本語では「さらばじゃ」と言っている感覚でしょうか(笑)。

────本日はありがとうございました。オブリガード。チャゥ!

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学びを広げるリンク集

(お店のWebサイトより)

訪れたお店の紹介

シュラスコ&ビアレストラン

アレグリア赤坂

東京都港区赤坂1丁目8−1 1F

(「銀座線溜池山王駅」14番出口インターシティAir直結 徒歩3分/国会議事堂前駅直結 徒歩5分)

『ラテンアメリカへのお誘い―社会を知り学んでみよう』

『ラテンアメリカへのお誘い―社会を知り学んでみよう』ジェトロ・アジア経済研究所(2026年)

ラテンアメリカは、日本で最も知られていない地域かもしれません。そのため、ラテンアメリカへの関心も低いといえるでしょう。そして近年、日本では少子高齢化のため、ラテンアメリカなどを大学で学ぶ学生の数自体が減っていきます。 そこで、大学の教員である私たち執筆者は、「ラテンアメリカを知ってもらうこと」を目的に、本書を作成しました。まずは「知る」ことで「関心をもち」、「もっと学びたい」と思ってもらえるような教科書をめざしました。次世代を担う大学生(高校生も大歓迎)をおもな対象に、私たちが日々生活する「社会」に焦点を当て、ラテンアメリカへ「お誘い」するのが、本教科書のコンセプトです。そのため、学術性の高さより、もっと専門的なさらなる学びへの「きっかけ」となるよう、本書を編纂しました。 電子書籍の利点を生かし、本書ではインターネットで先行研究、ウェブサイト、動画などをみられるよう工夫しました。無料でダウンロードできますので、是非ご覧ください。

『躍動するブラジル: 新しい変容と挑戦』

新興国の雄として21世紀初頭に世界での存在感を増したブラジルについて、政治、経済、企業、社会、外交、開発をテーマに解説。近年のブラジルが成し遂げた変容や試行する挑戦について、総合的に理解することをめざした一書。

『躍動するブラジル: 新しい変容と挑戦 (アジ研選書 No. 34)』 日本貿易振興機構アジア経済研究所

発売日 ‏ : ‎ 2013/11/8
言語 ‏ : ‎ 日本語
本の長さ ‏ : ‎ 211ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4258290343
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4258290345
本体価格:2,860円(税込)

『千鳥足の弁証法 マシャード文学から読み解くブラジル世界』

批評家スーザン・ソンタグによって「ラテンアメリカ最高の作家だ」と評されたブラジルの文豪マシャード・ジ・アシス。武田千香教授は、そのマシャードの最高傑作『ブラス・クーバスの死後の回想』の物語世界を、独自の視点で読み解き、その本質に迫ります。2014年FIFAワールドカップ、2016年リオデジャネイロ五輪と今後ますます注目される「ブラジル」を、人・社会・文化という観点からも考察した渾身の一冊です。

『千鳥足の弁証法 マシャード文学から読み解くブラジル世界』 武田千香〔著〕

発売日 ‏ : ‎ 2013年3月15日発売
ジャンル : 学術書・文学・文芸・評論
版・頁 : 四六判・上製・325頁
ISBN ‏ : ‎ 978-4-904575-24-6 C0098
本体価格:2,800円(税抜)

『世界の中のラテンアメリカ政治』

植民地、独立、国家形成、ポピュリズム、軍事政権、米国の介入、新自由主義、左傾化、民主制の後退、専制の台頭———世界を動かす政治の「基層」に触れるラテンアメリカ諸国は非常に類似した経験を共有しており、しかし同時に、これまで各国が示してきた政治的特徴は極めて多様である。複雑に絡み合う国際社会との関係、歴史の変遷を丁寧に読み解き、先植民地期から現代まで、日本や欧米諸国などと対比しつつ、ラテンアメリカ政治史の全体像を俯瞰する、新しい概説書。ラテンアメリカ政治の基礎をこの一冊で。歴史総合の副読本、世界史の学び直しにも!

『世界の中のラテンアメリカ政治』 舛方周一郎 宮地隆廣〔著〕

発売日 ‏ : ‎ 2023年3月27日発売
ジャンル : 国際社会・政治・地域研究
版・頁 : A5判・並製・328頁
ISBN ‏ : ‎ 978-4-910635-04-0 C0031
本体価格:2,400円(税抜)

『不平等のコスト ラテンアメリカから世界への教訓と警告』

世界各地でいま、不平等が拡大している。不平等は経済成長を阻み、民主主義制度を弱体化させ、暴力や社会的不信を蔓延させる。それらは翻って、不平等を一層悪化させる。長くこの悪循環を経験してきたラテンアメリカから、世界は何を学ぶべきか。また、どうしたら方向転換ができるのか。豊富な事例研究が指し示す警告と、変革のための民主主義的提言。

『不平等のコスト ラテンアメリカから世界への教訓と警告』 
ディエゴ・サンチェス=アンコチェア〔著〕 谷 洋之・内山直子〔訳〕

発売日 ‏ : ‎ 2025年3月3日発売
ジャンル : 経済・政治・社会問題・地域研究
版・頁 : 四六判・並製・352頁 
ISBN‏ : ‎ 978-4-910635-14-9 C0036
本体価格:3,000円(税抜)

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―

食を通じて文化を知る――そんな体験をもっと広げたい方には、東京外国語大学出版会の『世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―』がぴったりです。料理から見える世界の多様性を、ぜひ味わってみてください。

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理― 沼野恭子【編】

ジャンル:食文化・料理・地域研究
版・貢:A5判・並製・224頁 
ISBN:978-4-904575-49-9 C0095
出版年月:2015年10月30日発売
本体価格:1800円(税抜)

https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book39/

東京外国語大学オープンアカデミー:ブラジル・ポルトガル語講座

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本記事に関するお問い合わせ先

東京外国語大学 広報・社会連携課

koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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