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およそ7000もの島々から成り立ち、180以上もの異なる言語が共存する、極めて豊かな多様性を秘めた国・フィリピン。今回の「地球ディッシュカバリー」は、日本とも実はお札の繊維や戦前の移住など、物理的・歴史的に非常に深い関わりを持つフィリピンの真の姿に迫ります。

今回は、フィリピンの政治・地域研究の専門家である東京外国語大学大学院の日下渉教授を迎え、お笑いコンビ・ママタルトのお二人と共に、西荻窪のフィリピン料理店「ATE(アテ)」を学びの教室に、知のフルコースをいただきます。

複数の国・地域がごちゃ混ぜに融合した独自の食文化や、助け合って生きる人々のたくましさ、そして困難な歴史を乗り越えた「許し」の精神まで、聴けば世界の見え方が変わる、味わい深いエピソードをたっぷりお届けします。


ゲスト: 日下 渉 教授

2001年に大学を卒業後、フィリピン大学へ留学。現在は東京外国語大学大学院 総合国際学研究院 教授。専門はフィリピンの政治学、および東南アジアの社会・文化。学部生の時にレイテ島でのボランティアで現地の人々の強さと優しさに魅了されて以来、スラムの家庭に1年間居候して露天商として一緒にフルーツを売るなど徹底的なフィールドワークを実践。スラムの住人、災害の被災者、セクシャルマイノリティなど、主流から周縁化された人々の視点から、民主主義、政治・社会のあり方を研究し続けている。自称「フィリピンの何でも屋さん」。誕生日がフィリピンの独立記念日と同じ6月12日という、不思議なゆかりを持つ。 研究者情報

パーソナリティ: ママタルト 檜原洋平さん、大鶴肥満さん

\ぜひ耳で味わってみてください!/ 

「ママタルトの地球ディッシュカバリー〜東京外大の先生と一緒〜」

ポッドキャストでは、東京外国語大学大学院の日下渉教授が、フィリピン留学や、スラムの露天商の家に1年間居候して自らフルーツを売った体当たりのフィールドワークから見えた、人情味あふれる現地の圧倒的な魅力を語ります。多言語社会の仕組みから、他国の文化が「ごちゃ混ぜ」に融合した料理の知恵まで、驚きのエピソードが満載。さらに、世界を股にかける出稼ぎ労働者を支える「恩義」の文化、そして凄惨な戦争被害を乗り越えて日本に差し伸べられた驚くべき「許し」の物語まで。「お世話になったことに感謝し、お互いを尊敬し合える対等な関係を作ろう」という先生の温かくも力強いメッセージと共に、聴けばあなたの世界が少し広がる、楽しくてためになるひととき。ぜひポッドキャストでお楽しみください!

パブからスナック、そして高級店へ――変容する日本のフィリピンレストラン

──次のお料理が届きました! 先生、こちらは何でしょうか。

これは「カレ・カレ」ですね。名前に「カレー」と付いていますが、私たちがよく知るスパイスの効いたカレーとは関係がないらしいです。マレー語で「煮込み料理」を意味する「カリ」という言葉が語源ではないか、と言われています。特徴としては、ピーナッツを使った煮込み料理である点です。具材には、ホルモンの「蜂の巣」や、本場では「オックステール(牛の尻尾、テールスープ)」などが使われます。このお料理自体には、塩味がついていません。そのため、「バゴーン」と呼ばれるエビの塩辛を添えて、ご飯のそばに取って一緒に足しながら食べます。そうして自分で塩分を足して、味を調整しながらいただくのが、カレカレの本来の食べ方です。

カレ・カレ

──それでは、いただきます!「マサラップ(美味しい!)」。

そうですね、カレカレだけで食べると、本当に野菜をピーナッツバターで煮込んだような、非常に素朴で薄い味わいになっています。ですが、これにエビの塩辛を合わせて一緒に食べると、しっかりとした塩分がプラスされて、一気に美味しくなります。塩辛単体だとかなりしょっぱいのですが、カレカレの甘みや具材の旨味と合わさることで、とても相性が良くなります。もちろん薄味が好きな方はカレカレ単体でも美味しくいただけますが、塩辛を少しずつつけて食べるのが、やはり現地流の美味しさですね。

──続いてのお料理はなんでしょうか。

こちらは「ライン」という料理です。これはフィリピンの「ビコール地域」という地方の郷土料理になります。ビコール地域には、日本の富士山と非常によく似たきれいな形をした火山のマヨン山があります。その火山から出た火山灰の土壌があるため、現地では唐辛子の栽培が非常に盛んで、それが料理に辛い唐辛子を多く使う食文化につながっています。ラインは、ココナッツミルクの甘みと唐辛子の辛みをミックスさせたお料理で、「ガビ」と呼ばれる緑色のタロイモの葉っぱをココナッツミルクで煮込んで作ります。実はこの「ガビの葉っぱ」ですが、日本のドン・キホーテでも乾燥させたものが売っているんですよ。私もこの前、実際に買ってきて家で作ってみました。ココナッツミルクの濃厚なコクと、後からじわじわと効いてくる唐辛子の辛さがとても美味しくて、これをご飯の上にかけて食べると、スプーンが止まらなくなります。

ライン

──日本にもフィリピン料理店は多いんでしょうか。

実は、一般の方に広く知られているようなフィリピン料理店というのは、それほど多くはありません。その背景には歴史的な理由があります。もともと日本におけるフィリピン料理店の多くは、1980年代から2005年頃にかけての「フィリピンパブ」全盛期に作られました。当時は、パブで働くお姉さんたちが同伴で行くようなお店が主流だったのです。そのため、お客さんのほとんどはフィリピンパブの常連の日本の男性や、そこで働くフィリピン人のお姉さんたちでした。一般の日本人を主な対象として営業しているお店が少なかったため、どうしても一般の認知度が低くなってしまったという歴史があります。この「ATE」さんのように、最初から一般の日本の方を広く対象にして営業されているフィリピンレストランというのは、実はとても珍しい、貴重なタイプのお店なんです。

ATEさんの店内の雰囲気。

──日本でフィリピン店が多かったり、フィリピンの方が多い場所はありますか。

2005年に、アメリカの国務省などから「日本政府とフィリピン政府は女性の人身売買に関与している」といった厳しい批判を受け、それまで年間8万件ほど発給されていた興行ビザ(エンターテイナービザ)が、数百件にまで激減しました。これによって、かつてのギラギラとしたフィリピンパブは次々と潰れていき、お店の性質も大きく変わっていきました。現在では、かつてパブで働いていたお姉さんたちも40代、50代と年齢を重ねられ、彼女たちが経営する落ち着いた「スナック」や、カラオケのあるアットホームなお店が主流になっています。お客さんも一緒に高齢化しており、色っぽい雰囲気を求めるというよりは、「美味しいご飯を食べながら話し相手が欲しいな」と、日本の男性が癒やされる、ほっとする落ち着いた場所(スナックやレストランなど)が各地にあります。その一方で、最近は全く新しいトレンドも生まれています。いま、日本には若いフィリピン人のITエンジニアなどもたくさん働きに来ています。彼らのような若い層を対象にした、非常にゴージャスでおしゃれな高級フィリピン料理レストランが新しいトレンドとして登場しています。そうしたお店に入ると、若いフィリピン人たちが英語でペラペラと楽しそうに会話しているような、とても洗練された空間が広がっています。このように、一昔前のスナック的なお店から、現代の若者向けの高級でおしゃれなレストランまで、日本国内のフィリピン系のお店やコミュニティも非常に多様化しており、どこに行くかによって全く異なるフィリピンの今を体験することができます。

フィールドワークから見えたフィリピンの「光と影」

──改めて、先生の研究テーマについて、教えていただけますか。

私は一応、建前上はフィリピンの政治学者なのですが、政治そのものというよりも「人間」の方が好きで、文化人類学者のようにフィールドワークを行うのが好きです。スラムに1年間住み込んだり、道端でフルーツを売っていた露天商の家族と仲良くなって居候させてもらいながら一緒にフルーツを売ったり、警察の取り締まりから一緒に逃げたり、あるいは一緒にデモに参加したりといった経験をしてきました。そうしてフィリピン社会の現場に自ら入り込み、現地の人々と一緒に暮らしながら、彼らの視点から社会や政治について考えるというアプローチを取っています。具体的には、スラムの人々にとっての「民主主義」とは何かを考えたり、農村に行って災害に遭った人々、あるいはセクシャルマイノリティの方々など、いわゆるメインストリーム(主流)ではない、周縁化された立場にいる人々の視点からさまざまな事象を捉え直すことが私の研究テーマです。また、フィリピンに関することなら依頼があれば幅広く何でも手がけており、フィリピンの外交政策に関する文章を書く一方で、同時にフィリピンの妖怪についての文章を執筆することもあります。一見まったく異なるトピックですが、書き進めるうちにこれらが同時につながってくることもあり、非常に面白いです。そんな感じで、「フィリピンの何でも屋さん」として研究を行っています。

日下教授

──スラムや露天商といった生活の現場に深く入り込むことで、彼らがルールや法に対して抱いている、日本とは全く異なる世界観が見えてくるそうですね。

そこが研究としても、社会のあり方としても非常に面白いところです。スラムの人々は、基本的には法律を守っていません。スラムというのは不法占拠ですので、他人の土地に勝手に住んでいるわけですが、私が居候していたのはフィリピン大学の土地でした。露天商も法律を守っておらず、ではなぜそれが可能なのかというと、警察や市役所、あるいは中央の役所の人たちに賄賂を渡しているからです。日本人の感覚からすると、これは単なる「腐敗」や「ルール違反」として切り捨てられてしまうかもしれません。しかし、こうした腐敗があるからこそ、貧しい人々が生きていけるという現実の側面があります。彼らの世界観では、そもそも法制度やルールというものは、お金持ちに有利なように不公平に作られていると考えられています。「政治家やビジネスマンはどれだけ大きな腐敗を働いても捕まらないのに、貧乏人がお腹を減らしてパンを盗めば檻にぶち込まれてしまうではないか」という感覚です。だからこそ彼らは、既存の不公平なルールに頼るのではなく、自分たち自身の「つながり」を頼りにして、社会の仕組みや自分たちが生きていくためのスペースをとてもクリエイティブに作り出しています。一人で完結して生きるのではなく、お互いに助け合い、もたれ合う相互依存の関係を築いて生きる彼らのあり方には、非常に豊かな人間らしさがあります。泥臭くも優しく助け合って生きる社会の姿に、私はとても魅力を感じています。

「私たちは誇り高き露天商だ」(提供:日下渉)
スラムにて(提供:日下渉)

──フィリピンの主な産業は何でしょうか。

フィリピンの主要な産業は、何と言っても「人の出稼ぎ(海外就労)」です。もう一つは、コールセンター業務などに代表される「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)」が挙げられます。フィリピンでは国内の製造業がうまく発展しなかったため、国内で良い仕事のチャンスが得られず、1980年代頃から海外へ仕事を求めて出ていく流れが始まり、それが現在も続いています。海外就労について言いますと、毎年約200万人もの人々が仕事を求めて海外へと出ていきます。海外に常時暮らしている人も含めると、その数は1000万人以上にのぼり、人口約1億1000万人の国のうちおよそ10分の1が海外で働いている計算になります。日本国内にも、現在約30万人ほどのフィリピン人の方々が暮らしており、世界中で彼らは活躍しています。もう一つの柱である国内のBPO産業としては、主にアメリカ企業のコールセンターが多数集まっており、約100万人がそこで働いていると言われています。コールセンター業務だけでなく、病院や企業の経費処理、事務処理といったバックオフィス業務をフィリピンに発注するアウトソーシング業務も非常に盛んで、こちらも国の経済成長を大きく支えています。

──海外で働く人々が稼いだお金(仕送り)は国内経済を潤す一方で、大きな社会的コスト(犠牲)も伴っているとお聞きしました。具体的にはどのような状況なのでしょうか。

海外で働いて稼いだお金(外貨)は、フィリピン国内の家族に向けて送金されます。日本に技能実習生などとして来ている場合、給料は14万円ほどと決して高くはありませんが、それでもその約半分をフィリピンに送金しています。送金された外貨は国内で活発に消費され、家族が家を購入することで不動産業が伸び、ショッピングモールなどで買い物をすることで小売業が伸び、さらには教育やエンターテイメント、ヘルスケアといったサービス産業全体が成長してフィリピンの経済を発展させています。しかし、この出稼ぎ社会は非常に大きな社会的コストを伴っています。特に母親などの女性が、子どもを国内に置いて海外へ行き、仕送りを続けるケースが多いのですが、思春期などの大切な時期を母親と離れて過ごす子どもたちは、母親に感謝はしていてもそれを素直に認められないという、非常に複雑な感情を抱くようになります。海外で働く人々は、自分が出産するタイミングや自らの人生を犠牲にして送金を続けており、これをキリストが人類を救うために自らを捧げたことに重ね合わせて「サクリフィシオ(自己犠牲)」と呼んでいます。また、フィリピンには「ウタン・ナ・ローブ」という、内なる心から生じる「恩義・負債」の文化があり、親に育ててもらった恩義を返すために海外で働いて送金をします。こうした恩義を大切にする文化があるため、日本の企業も単に労働力として安く雇うだけでなく、彼らとの恩義や信頼関係をしっかり考慮しなければ、英語ができる優秀な人材は、より給与が高いアメリカやオーストラリア、ヨーロッパなどへ流れていってしまいます。

──フィリピンで、今、社会問題になっていることや関心ごとは何でしょうか。

現在、フィリピンの人々が最も怒りを感じ、大きな社会問題となっているのが「政治家や企業の汚職・腐敗」です。そして、これと直接結びついているのが「洪水や水害」の被害です。先日、「洪水(水害)があれば、そこにワニが潜んでいる」という言葉を聞きましたが、このワニとは「腐敗した政治家」を指しています。日々の国民生活を直接脅かし、人命を奪うものであるため、これに対する国民の怒りは非常に大きいです。特に深刻なのが、公共事業を巡る汚職です。例えば、洪水対策事業などの予算がついているにもかかわらず、実際にはプロジェクトが何も行われていない「幽霊プロジェクト(架空のプロジェクト)」が存在し、架空の業者を通じて予算が政治家や関係者に還流してしまっている現状があります。このような腐敗のせいで十分な洪水対策が施されず、昨年には実際にセブでは洪水によって約200人もの人々が亡くなるなど、人命に関わる重大な事態を引き起こしています。

──洪水や災害の被害がこれほど大きくなっている背景には、歴史的な自然破壊、そして日本との関わりも影響しているそうですね。

はい。洪水や災害が起きやすくなっている背景には、歴史的な自然破壊が大きく影響しています。1960年代から80年代にかけて、日本がコンクリートを流し込むためのベニヤ板(コンクリートパネル)としてフィリピンの木材を大量に輸入したため、現地の政治家たちが不法伐採も含めて山林の木を切りまくり、山々がハゲ山になってしまいました。さらに現在では、フィリピン自体の経済発展に伴い、セメント需要を満たすために川の石や砂利を違法採掘したり、岩を砕いたりしています。こうした腐敗行為によって山や自然環境がボロボロになり、本来は人が住めない危険な場所を不法開発した結果、山崩れや水害の被害をさらに拡大させています。人々は、生きていくための日常的な小さな腐敗(賄賂を渡して露天商を続けるなど)には順応しつつも、こうした人命を危険にさらす大きな腐敗に対して非常に強い怒りを抱いています。ただ、こうした中でさえ、「悪いことをした人間が、神様との対話を通じて改心し、生まれ変わる」という物語が、フィリピンの人々はとても好きなのです。過ちを犯した者に対しても、反省し改心するのであれば「許す」という感覚があり、こうした背景が、先ほどお話しした日本軍が行った凄惨な戦争犯罪に対して、反省している日本を最終的に「許す」という寛容な姿勢にも繋がっています。

鉄板の「シシグ」に甘美な「メリエンダ(おやつ)」、そして地元のバナナ

──続いて、デザートです!と思ったら、鉄板の上に肉と卵、マヨネーズが乗ったものがでてきました。先生、こちらはフィリピンではデザートですか。

いえ(笑)、これはデザートではなくて「シシグ」という料理です。ビールのおつまみで、私がビールを飲むときには欠かせない、大好きな料理です。豚のつら皮や耳といった、豚の顔の部位を細かく刻んで炒めたものです。1970年代、米軍基地があったスービックやオロンガポの周辺で、投棄されていた豚の顔を見て「もったいない」と、なんとか活用しようとして生まれました。これがパンパンガという地域にあるレストランで生まれて人気を呼び、フィリピン全国へ広がっていったと言われています。非常にお酒が進む味付けですが、コラーゲンがたっぷりでプリプリとしています。実はコラーゲンが多くてお肉自体がかなり硬いため、自分で作ろうとするとお肉を細かく刻むのが非常に大変なんです。私も家で自分で作ったことがあるのですが、切るのが大変すぎて「あんた、いつも何やってるのよ」と妻と喧嘩になってしまったほどです(笑)。ちなみに、トッピングにマヨネーズが使われていますが、フィリピンにはもともと乳製品があまりないため、独自のマヨネーズといった文化は本来はありません。

シシグ

──お酒にぴったりな、とてもパンチの効いたお料理なのですね。現地にはこういった居酒屋メニューやお酒を飲む文化があるのでしょうか。

はい、あります。このように味が非常に濃いのが特徴ですが、これは居酒屋メニューともいえます。フィリピンにも居酒屋のようなお店があり、お酒を飲む人がたくさんいます。お酒としては、ビールのほかに、現地ならではのさまざまな地酒が存在します。例えば、ココナッツの実がなる花の部分を切って樹液を集め、発酵させた「トゥバ」というお酒があります。このトゥバを蒸留した「ランバノック」もありますし、北部のサトウキビから作る「バシ」や、サトウキビから作るラム酒など、独自の地酒が楽しまれています。

──そして、デザートが届きました。こちらはどのようなお菓子でしょうか。

こちらは「レッチェフラン」という、スペインから伝わったプリンです。見た目は日本の一般的なプリンの形というよりは、チーズケーキやホールケーキ、タルトのような形をしていて、それを切り分けて提供されます。味は非常に濃厚です。カスタードのしっかりとした風味があり、上にかかっている少し粘り気のある甘いシロップと相まって、食べた後もしばらく口の中に甘みがずっと残り続けるほど、ものすごく甘いのが特徴です。フィリピンの人々は本当に甘いものが大好きなのですが、特におやつのことを「メリエンダ」と呼んでおり、このおやつの時間が非常に充実しています。フィリピンには「チャンプラード」という、チョコレート(カカオ)と米を一緒に煮込んだ、甘いチョコレートの雑炊のような食べ物があります。日本でいうとおはぎやお汁粉に近く、フィリピンはカカオもよく取れるため、こうした甘い米料理が存在します。また、フィリピンの有名なデザートといえば、紫の紅芋などを乗せ、さまざまな具材を混ぜ合わせて食べる「ハロハロ」もよく知られていますね。

レッチェフラン

──フィリピンといえば、日本でも馴染み深い「バナナ」のイメージがあります。

フィリピンは非常に作物が豊かで、お米やココナッツ、マンゴー、そしてバナナなどがたくさん取れます。特にバナナは、日本で流通しているものの多くがフィリピン産です。日本へ輸出されているバナナは、ミンダナオ島などの多国籍企業が大規模に管理しているプランテーションで作られた、完全に「輸出専用」のキャベンディッシュ種です。船で日本まで運ぶ間に青い状態から熟していくため、皮が分厚く、傷みにくく黒くなりにくい特徴を持っています。こうした輸出用バナナは効率よく管理するために1面すべて同じ品種で栽培されており、ヘリコプターを使った空中からの農薬散布が行われています。この農薬散布による健康被害や水質の汚染、そして地元の政治家が親戚を通じてその利権に関わっていることなどが、現地で大きな社会問題になっています。一方で、フィリピンの現地の人たちが日常的に食べているバナナは、皮が薄くて多様な品種があり、濃厚で香りが良く、日本で食べるバナナとは全然味が違います。中には「サババナナ」と呼ばれる調理用のバナナがあり、これをふかしたり、揚げて「揚げバナナ」にしたりして食べます。田舎に行くと、まだ青い状態のサババナナを蒸したものを、非常にしょっぱいエビの塩辛に浸して食べたりします。塩辛に酢や唐辛子、あるいはカラマンシー(シークワーサーのような柑橘類)を入れてしょっぱさを和らげながら、バナナと一緒にいただくのです。このように、フィリピンでは「大量の白米を、非常にしょっぱいスープやおかずと一緒に食べる」という食習慣や、非常に甘いものをたくさん好む習慣があります。残念ながら、こうした極端に塩分や糖分の高い食生活が影響して、フィリピン人の死因で最も多いのは高血圧や脳卒中などの血管系の疾患や糖尿病となっています。そのため、人々の平均寿命はあまり長くなく、男性で68歳、女性で74.5歳です。

レイテ島の田舎で。奥に見えるのがサババナナ。手前にあるのが小魚の塩辛(ギナモス)。飲み物は、ヤシ酒のトゥバ。このコンビネーションが美味しい。(提供:日下渉)

日本とフィリピンの“はざま”を見つめて

──ここまで色々、お話を伺って来ましたが、そんなフィリピンについて、より知ることができる、映画の上映会があるそうですね。

東京外国語大学で11月28日に、「TUFS Cinema」というイベントがありまして、そこでフィリピンに関係するショートフィルムを3本、上映させていただきます。今回の映画は単なるフィリピンの紹介というわけではなくて、日本とフィリピンがちょうど交わるところ、いわば「はざま」にある、非常にセンシティブなテーマを扱った作品ばかりです。まず1本目は、フィリピン人の監督が、日本における「孤独死」をテーマに扱った映画です。フィリピンは人との距離がすごく近くて、助け合いの社会ですから、彼らから見ると日本の「孤独さ」というのは、本当に不思議であり得ない現象に映るわけです。それをなんとか理解しようということで、監督自身が取材を重ねて撮った作品になります。 ちなみに、この映画を撮られたのはジャヌス・ヴィクトリア監督という方なんですけれど、2027年1月には、リリー・フランキーさん主演で同じく孤独死をテーマにした『DIAMONDS IN THE SAND』という映画が日本で公開されることも控えています。それから2本目は、「JFC」――つまり日本とフィリピンの両親を持つ子どもたち(ジャパン・フィリピン・チルドレン)をテーマにしたドキュメンタリー映画です。これは、ご自身もJFCで、アーティスト名「VIVA」という名前で活動されているヒューマンビートボクサーの長谷川大知監督が、同じように日本で暮らしているJFCの人たちにインタビューをして作った作品です。最後の3本目は、離別した親子を描いた映画です。かつてフィリピン人のパートナーとの間に生まれた子どもを置いて日本へ帰ってしまったお父さんが、年老いてから、その子どもをフィリピンへ探しに行って謝罪する、というストーリーの作品ですね。これら3本の映画はどれも、日本人の一方的な視点からではなくて、フィリピン人や、日本にルーツがある人たちの視点を通して、私たち自身の社会やあり方を再発見していく、という非常に深いアプローチの企画になっています。

──そろそろ、エンディングのお時間ですが、日下先生、改めて、番組を聴いている皆さんにお伝えしたいことなどありますか。

フィリピンという国は、誰でも温かく迎え入れてくれる非常に寛容な社会です。私たちは、歴史的(戦争の記憶)にも、それ以外の日常的な面でも、フィリピンに非常にお世話になってきています。フィリピンに行くと、日本人はものすごくチヤホヤされます。まるで芸能人のように扱われ、本当に気持ちよく歓迎してくれます。ある意味で、日本にとって非常に都合がよく、便利なところがある社会です。しかし、私たちはそのことに対して十分に感謝をしていないのではないでしょうか。フィリピンのことを利用するだけ利用した上で、「あいつらはダメだよね」とバカにするような態度を取ってしまう人も少なくないです。現地や日本国内でさんざんフィリピンの人々にお世話になっているにもかかわらず、彼らの悪口を言って酒を飲んでいる日本の人の姿を、私は何度も見てきました。フィリピンの人々は、何よりも「人間関係」をとても大切にする人たちです。日本人が上司であったりするような、対等ではない非対称的な関係の中であっても、彼らは何とか良い関係を作ろうと一生懸命に努力をしています。しかし、その彼らの優しさや順応さ、努力をバカにし、ないがしろにしたり、上から目線で侮辱したりしたとき、フィリピンの人は本当に怒ります。報道などでは「フィリピンは治安が危ない」と言われることもありますが、基本的にはそのようなことはありません。相手の優しさに対して、こちらもちゃんと優しさで返していれば、とてもハッピーに関係を築くことができます。日本人が現地で犯罪に巻き込まれるケースというのは、実は日本人同士のいざこざに巻き込まれているか、あるいは現地でフィリピン人をバカにしたりとか、お金のことで逆恨みされている場合がほとんどです。普通に暮らしていれば、危ない目に遭うことはありません。ですから、これまでお世話になり、利用させてもらったことに対して、私たちはしっかりと感謝をしなければなりません。その上で、お互いに尊敬し合える対等な関係を作っていかなければいけない、ということを改めてお伝えしたいです。

レイテ島の友人とヤシ酒を飲み交わす(提供:日下渉)

──最後に…フィリピノ語で、「ありがとうございました」と「さようなら」は何と言うんでしょうか。

ありがとうございますは、タガログ語(フィリピノ語)で「マラミン・サラマット」と言います。「マラミン」は「たくさん」という意味ですので、「たくさんありがとう」というニュアンスになります。これに「ポ」という言葉を最後につけて「マラーミン・サラマット・ポ」とすると、より丁寧な表現になります。そして「さようなら」ですが、少し堅苦しいフォーマルな表現だと「パアラム」と言います。ただ、この「パアラム」は普段の生活ではあまり使われません。もっと日常的によく使われるさようならの表現としては、「気をつけてね(気をつけて帰ってね)」という意味の「インガット」という言葉があります。普段のお別れの際には、こちらの「インガット」が毎日よく使われています。

──ということで、本日は、日下渉教授にお話を伺いしました!「サラマット!」「 パアラム!」

マラーミン・サラマット・ポ! インガット!

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学びを広げるリンク集

訪れたお店の紹介

フィリピン料理レストラン

「ATE(アテ)」(東京・西荻窪)

https://www.facebook.com/yumitake1015

フィリピン──強権を求めた「新生」への希望

既得権益層に対する不満や怒りは、「悪しき他者」の打破、「善き市民」の利益を夢見た。新生への希望は、「民主的な強権」や「独裁ノスタルジア」へと結実し、時に暴力や失望を生みだす。それでも変化を恐れないフィリピンの人々の果てなき情熱はどこへ向かうのか。小さな一地域の挑戦が照らし出す民主主義の過酷なドラマ。

『フィリピン──強権を求めた「新生」への希望』日下 渉 著

【版・頁】 新書・254頁
【ISBN】 9784004321088
【出版年月】2026年4月17日発売
【出版社】岩波書店
【本体価格】1056円(税込)

フィリピンを知るための64章

フィリピンにとって2016年は、独立70周年にあたり、また日本との国交樹立60周年に当たる記念すべき年である。本書は21世紀に入り、フィリピンを理解できるだけでなく、複眼的な視座から新世紀にふさわしい「新しいフィリピン像」を紹介する。

『フィリピンを知るための64章』大野 拓司、鈴木 伸隆、日下 渉 編著

【版・頁】 4-6・408ページ
【ISBN】 9784750344560
【出版社】 明石書店
【出版年月】2016年12月31日発売
【本体価格】2,000円+税

反市民の政治学――フィリピンの民主主義と道徳

膨大な数の市民が立ち上がり、マルコス大統領の独裁政治に終止符が打たれてから約30年。貧富の差が拡大し、選挙のたびに票の売買が取りざたされるこの国に、「正しい」民主主義は根付かないのだろうか。著者はスラムに暮らし、したたかでたくましい庶民の声に耳を傾けて、新たな共同性の可能性を探る。国民の分断が進む日本社会に本書は参考となるに違いない。

『反市民の政治学――フィリピンの民主主義と道徳』日下 渉 著

【出版年月日】 2013年4月1日
【ISBN】 978-4-588-60330-3 C3331
【出版社】法政大学出版会
【判型・ページ数】 四六判/上製/442ページ
【定価】 4,620(税込)

TUFS Cinema 「交差する日比映画特集:日本とフィリピンの周縁から──裏影3部作(The Depth of Blue)」

東京外国語大学の「TUFS Cinema」は、映画を通して世界の社会・歴史・文化への理解を深める企画です。今回の特集では、日本とフィリピンが交差する周縁に光をあて、JFC(日本とフィリピンの両親を持つ子どもたち)や日本の孤独死など、私たちが普段見落としがちなテーマを掘り下げる短編3作品(合計73分)が上映されます。

◆上映作品(全3作品)
・『水の中で育てられた子どもたち』(17分/フィクション)
・『日本とフィリピンを生きるストーリー ケン編』(26分/ドキュメンタリー)
・『沈黙との出会い』(30分/ドキュメンタリー)

◆上映後解説・トーク
上映後には、長谷川大知監督、曽我満寿美プロデューサーをお迎えし、日下渉教授(東京外国語大学大学院)の司会による解説・トークセッションが行われます。

◆ 開催概要
日時: 2026年11月28日(土)14:00上映開始(13:40開場、16:10終了予定)
会場: 東京外国語大学
参加費無料、Webによる事前登録者優先

  • 詳細はこちら(準備中)

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―

食を通じて文化を知る――そんな体験をもっと広げたい方には、東京外国語大学出版会の『世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理―』がぴったりです。料理から見える世界の多様性を、ぜひ味わってみてください。

世界を食べよう!―東京外国語大学の世界料理― 沼野恭子【編】

ジャンル:食文化・料理・地域研究
版・貢:A5判・並製・224頁 
ISBN:978-4-904575-49-9 C0095
出版社:東京外国語大学出版会
出版年月:2015年10月30日発売
本体価格:1800円(税抜)

https://wp.tufs.ac.jp/tufspress/books/book39/

本記事に関するお問い合わせ先

東京外国語大学 広報・社会連携課

koho[at]tufs.ac.jp([at]を@に変えて送信ください)

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