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今日のアフリカ

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チャドの民政移管に向けた動き

2024/03/04/Mon

 2日、チャド軍事政権トップのマハマト・イドリス・デビィ・イトノ将軍は、5月6日に実施予定の大統領選挙に立候補を表明した。この選挙が実施されれば、チャドは移行期を終えて民政移管される。チャドでは、2021年4月にマハマトの父、イドリス・デビィ・イトノが反乱軍との戦闘前線視察中に死亡し、直後に軍が当時37歳のマハマトを担いで政権を掌握した
 移行過程は紆余曲折を辿ってきた。2022年10月には、野党勢力のデモが暴力的に鎮圧され、100人以上の犠牲者を出す事件が起こった。軍事政権は国際社会から厳しい非難を受け、鎮圧の対象となった野党勢力の指導者マスラ(Succès Masra)は亡命した。その後、2023年に入ってからコンゴ民主共和国のチセケディ大統領の仲介で関係改善が進み、マスラは2023年11月に帰国した。
 12月には憲法レファレンダムが実施され、39歳のマハマトに立候補資格を与える憲法が採択された。今年1月1日には、マスラが移行政権の首相に任命された。移行期終了後の政権では、マスラとマハマトがコンビを組むことが確実視される。1月13日には、与党MPSの候補に指名され、大統領選挙立候補への準備が整った。
 マハマトの立候補宣言の直前に、大きな事件が起こった。野党勢力指導者のディロ(Yaya Dillo)の殺害である。2月28日、治安部隊がディロの野党(PSF)本部を襲撃し、そのなかでディロが殺害された。PSF側は処刑されたと主張し、政権側はそれを否定している。
 ディロは、マハマトの父である故イドリス・デビィのオイで、マハマトのイトコである。イドリス・デビィが政権を軍事力で掌握して以来、この国の政権中枢をザガワ人が占めてきたことはよく知られている。ザガワ出身のディロはインナーサークルの人物であり、その意味でマハマトにとっては真の脅威であった。その脅威を選挙前に除去したことになる。
 ルモンド紙の報道によれば、マハマトは父親が構築した治安システムを改変しようとしており、父親に近い立場の軍高官を数名更迭している(2月29日付ルモンド)。ディロの死は権力内部の粛正とも受け取れるが、今後の不安定要因になるかもしれない。
(武内進一)