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今日のアフリカ

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サヘル三国とアルジェリア

2024/02/12/Mon

 1月28日、マリ、ブルキナファソ、ニジェールのサヘル三国は、Ecowas(西アフリカ経済共同体)からの脱退を発表した。いずれもクーデタで誕生した軍事政権で、フランスを放逐してロシアに接近し、制裁を科すEcowasと緊張関係が続いていた。昨年9月以降、三カ国は「サヘル同盟」(AES)を結成し、足並みを揃えて行動している。
 三国は、Ecowas脱退を表明しても、Uemoa(西アフリカ経済通貨同盟)の脱退には言及していない。Uemoaのメンバーでいる限り、仏語圏諸国との関係(財と労働力の自由な移動、通貨同盟)はそのまま維持される。ナイジェリアとの関係が深いニジェールは別にして、マリとブルキナファソにとって、Ecowas脱退は今のところ政治的パフォーマンスの側面が強い。
 この三国がフランスとの関係を急速に悪化させたことは周知だが、最近になって急速にアルジェリアとの関係が悪化している。それを端的に示すのが、マリによるアルジェ協定の破棄宣言である。1月25日、マリ政府は2015年に結ばれた同協定を「即時終結させる」と発表した。アルジェ協定は、マリ政府とトゥアレグ人勢力を中心とする世俗派反政府武装勢力との和平合意で、その名の通りアルジェリアが仲介して結ばれた。
 しかし、昨年11月にトゥアレグ人勢力の拠点キダルがマリ軍に制圧されて以降、事実上アルジェ協定は死文化していた。その後、アルジェリアは、トゥアレグ人勢力やマリ国内の対政府批判勢力を自国に招くなどして、マリ政府から強い反発を受け、結果としてアルジェ協定破棄宣言につながった。
 マリ、ニジェールと長い国境を接するアルジェリアは、サヘル地域に大きな影響力を持ってきた。最近の動きは、これが掘り崩されていることを意味する。アルジェリアにとって座視しがたいのは、これにライバルのアラブ諸国が絡んでいることだ(2月9日付ルモンド)。
 マリがキダル制圧に成功したのは、もとよりロシアの支援が大きい。ただし、アルジェリアから離反するマリの態度は、モロッコが影響を与えている可能性がある。モロッコは、サヘル同盟(AES)に肯定的な評価を流しており、12月23日にはマラケシュにAESの三カ国とチャドを招き、「サヘル諸国の大西洋へのアクセス」提供を約束した。現段階では実現可能性は未知数だが、この地域へのモロッコのアプローチが活発化している状況は、アルジェリアを苛立たせている。
 もう一つは、アラブ首長国連邦(UAE)である。多くのアナリストが、マリがUAEから資金提供を受けている可能性を指摘している。リビアのハフタル将軍やスーダンのヘメティと同じく、UAEがゴイタに資金提供をしている可能性である。昨年アルジェリアの仲介を拒否したニジェールも、12月末に外相がベンガジを訪問してハフタル将軍に面会している。ハフタルは、アルジェと関係が悪く、UAE、エジプトの支援を受けている。
 リビアやスーダンの内戦にも、UAEをはじめとする湾岸諸国の介入が指摘されてきた。サヘル地域においても、周辺諸国の影響力争いが繰り広げられているのは当然だろう。サヘル三国は、ロシアとの関係だけで動いているのではない。
(武内進一)