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今日のアフリカ

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英国最高裁が庇護希望者のルワンダ移送計画に違法判断

2023/11/18/Sat

 イギリスの最高裁判所は、15日、イギリス政府がルワンダとの間で結んだ庇護希望者(アサイラム・シーカーズ)をめぐる政策を不法との決定を下した。5人の判事が一致した決定であった。これは、ドーバー海峡を小舟で渡ってくる庇護希望者をルワンダに送還する政策に対する判断である。
 裁判所は、UNHCRの報告などに基づいて、ルワンダが「ノン・ルフルマン原則」を遵守しておらず、庇護希望者にとって安全ではないと論じた。ルワンダはイスラエルとの間でも庇護希望者の受け入れを行っているが、出身国に送還された事例が見られたという。
 この政策はジョンソン政権期に浮上したものだが、内外で強い批判に晒され、また保守党政権内でも意見の違いを露呈してきた。ジョンソン政権を引き継いだ保守党政権も、庇護希望者をルワンダに送る政策を実施する方針は変えていない。ただ、スナク政権下で最近まで政策責任者であったブラヴァーマン(Suella Braverman)前内相のように、政策実現のために欧州人権条約(ECHR)を脱退する必要があるとの主張がある。イギリスはECHRの原署名国であり、この条約は北アイルランド紛争の和平合意(ベルファスト合意)の基礎にもなってきた。スナク首相はECHR脱退に反対の立場で、結局ブラヴァーマン氏は判決が出る直前の13日に解任された。
 今回の判決ではECHRや人権法に触れることなく、ルワンダが「ノン・ルフルマン原則」を守っていない、庇護希望者を送るには危険な国だという論理で違法判断を下した。この点で、今回の判決を評価する声がある(15日付ファイナンシャルタイムズ)。
 判決を受けて、スナク首相は、法律を改定すると述べて、庇護希望者をルワンダに送る方針に変わりがないことを示した。一方ルワンダ政府は、難民や庇護希望者の受け入れに努力しているとしてUNHCRの報告書を批判し、イギリスとともに庇護希望者受け入れに向けて努力するとの報道官談話を発表した。
 事の発端となったイギリス・ルワンダ間の「移民・経済発展パートナーシップ」(Migration and Economic Development Parnership)は、簡単に言えば、大量の庇護希望者に悩むイギリスが、援助と引き換えにルワンダに引き取ってもらうという内容である。問題含みのものであることは疑いない。それを政権があくまで押し通そうとし、そのためにECHRからの脱退が議論に上るという状況は、いかにイギリスにとって移民問題が深刻化しているかを余すところなく示している。
(武内進一)