14日、イギリスのジョンソン首相は、ルワンダとの間で「移民と経済発展パートナーシップ」を結んだと発表した。同日、パテル(Priti Patel)英内相はルワンダを訪問し、同国のビルタ(Vincent Biruta)外相とともに、記者会見に臨んだ。同パートナーシップの内容は、ドーバー海峡を超えて違法に英国の地にやってきた庇護申請者(アサイラムシーカー)をルワンダに移送する一方、英国はルワンダに1億2000万ポンドの資金支援を行うというものである。この資金は、主として教育や職業訓練支援に充てられる。共同声明では、「ルワンダに移民を移送し、その個人的能力開発と雇用機会を提供することで、移民を生むグローバルな機会不平等を是正するとともに、犯罪者のインセンティブ構造を削ぎ、無辜の命を救う」と紹介された。ルワンダの政府系紙New Timesは、このパートナーシップ締結を大々的に報じた(14日付)。
一方、この協定は、内外で激しい批判に晒されている。アムネスティ・インターナショナルなどの人権団体はルワンダの人権状況などを理由に一斉に反発し、Oxfamは「冷酷で非道徳的なだけでなく、実行不可能」だと述べた(14日付ファイナンシャルタイムズ)。
ルモンド紙は15日付の社説で、問題点を整理して批判した。この協定では誰が、どのような場合にルワンダに移送されるのかがはっきりしない。これはアサイラムシーカーがそもそもイレギュラーな状態で入国する事実を無視したものであり、難民条約に違反している。ドーバー海峡を渡る移民の数を減らしたいと述べているが、実際のところ、地方選挙を3週間後に控えて、有権者の目を自身の「パーティーゲート」問題から逸らせることが目的だ。この政策が「Brexitの利得」であり、「国境のコントロールを取り戻した」と述べるジョンソン首相は、EU離脱によるネガティブなインパクトを忘れさせたいのだ、と厳しく批判した。
16日付のFT紙も、ルワンダがこれまで何度も難民受入れを表明してきたが、現実には多くの問題があり、受入れが進んでいないと指摘している。国連も批判的な態度を明らかにしており、金持ち国がすべきは、難民を既に受け入れているルワンダを支援することであって、その逆ではない、とイギリスを批判した。また、UNHCRは、英国とルワンダに計画を再考するよう求めた。
この一件が示すのは、移民・難民をめぐる問題がヨーロッパにとって抜き差しならないものであること、それだけにこの問題を政治的に利用する動機が喚起されることである。先日スペインが西サハラ政策転換を表明した際にも背景に移民問題の存在を指摘する声があったが、イギリスとルワンダの件も、それがヨーロッパとアフリカの間できわめて重要かつ深刻な問題であることを改めて示している。