10月28~30日、フランスのマクロン大統領がモハメドVI世の招待に応じてモロッコを公式訪問した。国賓待遇での訪問に、9人の閣僚(経済、外務、内務、軍事、高等教育、等)と約40人の企業経営者が同行した。
フランスとモロッコは、移民に対するビザ発給厳格化などの問題をめぐってギクシャクした関係が続いていたが、今年7月末にフランスが西サハラ政策を転換してモロッコの立場を認めたことで、両国関係は大きく改善した。これが、今回の公式訪問の背景にある。
マクロンは29日にモロッコの議会で演説し、両国間に「新たな戦略的枠組み」を構築することを提唱した。事実上、EU以外で最重要のパートナーシップを結ぶことを意味する。モロッコの独立を認めた1955年11月6日のラ・セル=サン=クルー宣言から70年となる来年に予定されているモハメドVI世の訪仏時に、パートナーシップ協定が締結される方向が示された。
モロッコとの関係改善に関して、ルモンド紙は2つの懸念点を指摘している(10月29日、30日付)。第1に、西サハラに対するモロッコの主権を、EU司法裁判所が認めていないことである。今年10月4日、同裁判所は、EUとモロッコが結んだ農業、漁業に関する協定2件を無効と判断した。西サハラ(サハラウイ)人の自決原則を無視したとの判断である(10月4日付ルモンド)。この地域の開発にはデリケートな問題が残る。
第2に、アルジェリアとの関係である。モロッコとアルジェリアは西サハラ問題を中心に対立が深まり、両国は国交を断絶している。モロッコに接近するフランスに、アルジェリアは不満を募らせている。マクロンは議会演説で、フランスの西サハラに対する方針転換が、「誰に敵対するものでもない」と強調したが、そのメッセージはアルジェリアには届いていないようだ。ルモンド紙は社説でフランス・マグレブ関係が「ゼロサムゲーム」に陥っていると懸念を表明している(30日付)。
マグレブ三国は、アフリカの中でもフランスとの関係が歴史的に最も深く、市場規模も大きい。それだけに複雑な相互関係が展開されている。(武内進一)
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