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今日のアフリカ

今日のアフリカ

仏語圏諸国の反仏感情をどう考えるか

2023/02/05/Sun

 最近になって、フランス軍がマリ、中央アフリカ、そしてブルキナファソから撤収を余儀なくされた。背景には各国での強い反仏感情がある。「フランスがジハディストと協力している」といった荒唐無稽に思える主張、そしてデモにおける親ロシア感情の発露(ロシア国旗が振られ、プーチンの顔写真が掲げられる)から、ロシアの情報戦の影響という説明が受け入れられやすいかも知れない。しかし、それは事実のごく一部しか説明していない。この問題を考える上で興味深い二つの論説がルモンド紙に掲載されたので紹介する。
 一つ目は、1月26日に掲載された、陸軍上級大将(Général de corps d'armée)の肩書きを持つクレマン=ボレ(Bruno Clément-Bollée)の寄稿である。彼は、2002~2015年にコートジボワールに駐留したフランス軍のLicorne作戦で指揮官を務めた。論説は、「支配されたアフリカが終わり、主権を持つアフリカへ。メッセージは、アフリカをアフリカ人の手に」と題され、フランス人に認識の転換を促している。
 植民地期、そして独立してもなお、アフリカでは旧宗主国の影響が大きく、「支配されたアフリカ」であった。しかし、グローバリゼーションのなかで「アフリカをアフリカ人の手に」という動きが不可逆的に起こった。そこではフランスだけでなく、西側全体が批判の対象になっており、西側が自分たちに有利になるようルールを決めるやり方が批判されている。時代が変わったこと、これまでのやり方がうまくいかなかったことを認めねばならない。開発プロジェクトは過度に中央集権的で、CFAフランは従属の道具だとの批判を呼び、安全保障協力はフランスのイメージを傷つけた。この動きは他のアフリカ諸国にも広がるだろう。クレマン=ボレはこのように論じる。
 この議論を受ける形で、論説委員のフィリップ・ベルナール(Phillipe Bernard)もまた、考え方の変化を促している(4日付ルモンド)。マリやブルキナファソでロシア国旗が振られ、フランスへの敵意が示されるとき、ロシアの情報戦の成果だと思いたくなる。しかし、サヘルの国々がフランスに背を向けたのは、フランスに安全保障問題を解決する能力がないからだ。フランスはアフリカの政権と密接な関係を持ってきたが、そうした政権の多くは国民を排除し、貧困のうちに留める政策をとってきた。フランスはジハディストを「テロリスト」としか見なさないが、ジハディストは不満を持つ大衆に食い込み、「オルタナティブな統治」の可能性を示して人々の支持を集めてきた。サヘルで起きている紛争は、「テロリストの攻撃」ではなく、政府に対する反乱、すなわち「内戦」である。フランスはアフリカに影響力を行使しようとして、独立以降の統治の失敗の「共犯者」だと捉えられたのだ。現在起こっていることは、脱植民地化の新たな局面だと考えなければならない。
 フランスが、アフリカの旧植民地諸国と独立後も深い関係を維持してきたことはよく知られている。現在の反仏感情の広がりが、そうした深い関係の反作用であり、アフリカにおける「国家の失敗」の裏返しだという指摘は的を射ている。ロシアの情報戦よりも、ずっと根が深い問題である。
(武内進一)