• アクセス
  • English
  • 東京外国語大学

今日のアフリカ

今日のアフリカ

ロシア外相の南アフリカ訪問

2023/01/29/Sun

 23日、ロシアのラブロフ外相が南アフリカを訪問した。この訪問をめぐって、ウクライナ戦争をめぐる南アのスタンスが改めて議論を呼んでいる。記者会見でパンドール(Naledi Pandor)南ア外相は、ロシアを「友人」と呼び、中国を含めた3カ国で海上軍事訓練を2月17~27日に実施すると述べた。これはロシアのウクライナ侵攻からちょうど1年目に当たる時期である。
 南アはウクライナ戦争に際して、非同盟主義を掲げ、中立的立場をとり続けてきた。国連での対ロシア非難決議にも棄権している。一方、今回の対応については、国内からも批判が出ている。ヨハネスブルクにあるDemocracy Works Foundation代表のWilliam Gumede氏は「南アが戦争において中立だとの主張の信頼性を崩す」、「マンデラ以来自分たちのアイデンティティは『モラル・パワー』だったが、それは失われた」と述べた(27日付ファイナンシャルタイムズ)
 今回の南アの対応をどう捉えるかは重要な問題だ。南アとロシアの接近に警鐘を鳴らす論者は、昨年12月にロシアのコンテナがケープタウンの海軍基地を利用した事件を挙げる。米国から制裁を受けているTransmorflotグループが所有するLady R.号が、応答機のスイッチを切ったまま入港したことが明るみに出た事件である。この船は南ア軍への託送品を運んでいた。南ア国防相は「コロナが始まるずっと前の注文」だと述べたものの、この船が何を運んだかは明らかにされていない(27日付FT)。
 一方、ロシア外相訪問の直後に、米国のイエレン財務長官やEUのボレル外相が南アを訪問していることも、南アの姿勢を考えるうえで重要である。ボレル外相は記者会見で、ウクライナ戦争について、南アの多国間主義を尊重し、どちらかの側につくよう求めるものではないと述べ、ロシアとの良好な関係を通じて紛争の平和的解決に向けて働きかけるよう要請した。
 ボレル外相は、EUと南アとの間で定期的に開催されている閣僚レベルの政治対話のために訪問したもので、今回が15回目となる。欧米がこうした形で対話のパイプをしっかり維持していることは注目すべきである。記者会見でボレル外相は、南アとEUがともに多国間主義を重視する「戦略的パートナー」であることを強調し、続いて登壇したパンドール外相もそれに同調していた。太い対話のパイプは信頼構築の基本である。ロシア外相の訪問に憶測をめぐらせる前に、恒常的な対話の仕組みを整備するのが得策だ。
(武内進一)