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今日のアフリカ

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パラ・パラ農場事件の影響

2022/12/09/Fri

 先週来、南アフリカで、ラマポサ大統領の政治的苦境が伝えられてきた。一時は辞任や弾劾の可能性さえ伝えられたが、ANCによるラマポサへの支持が確認された。しかし、状況は依然不透明で、問題が長く尾を引く可能性が高い。
 発端は、ズマ政権期に公安局トップを務めたフレイザー(Arthur Fraser)による告発であった。今年6月1日の告発は、ラマポサがリンポポ州に所有するパラ・パラ農場に2020年2月強盗が入り、巨額の米ドル現金が盗まれたが、大統領はこの事件をもみ消した、というものであった。遠方の農場に巨額のドル現金を隠したのはなぜか、被害に遭った時に適切に通報しなかったのはなぜか。事実とすれば、大統領にとって深刻なスキャンダルである。一方で、ズマ派のフレイザーによるラマポサを陥れるための告発だとの見方が強く、批判は広がらなかった。
 問題が再燃したのは先週である。11月30日、前南ア司法トップを務めたングコボ(Sandile Ngcobo)を長とする議会調査委員会は、被害額は58万ドルだったが適切に報告されず、ナミビアの大統領に事件の処理を依頼したとして、ラマポサの行動が反汚職法に抵触する可能性があるとの報告書を提出した。これはラマポサにとって甚大な打撃で、先週末には、辞職や弾劾の可能性すら取り沙汰された。
 今週初め、ラマポサは、調査委員会の報告書が不当だとして司法的対抗措置を講じると述べるとともに、自身の処遇についてANC執行部に一任すると表明した。それを受けてANC執行部はラマポサへの支持を確認し、議会で弾劾の審理が行われた場合には反対するよう、ANC議員に対して指示を出した。
 ラマポサにとっての当面の危機は、回避されたように見える。しかし、事件はなお不透明で、政権が何らかのきっかけで不安定化する可能性は排除できない。国民の多くは今回のスキャンダルを「ズマ派の陰謀」としてANCの党内権力闘争の文脈で理解しており、ラマポサ自身への支持に大きな変化はないとされる(8日付ファイナンシャルタイムズ)。一方、同じFTの編集部名の記事は、長期的に見れば、今回の事件がANCの凋落を加速させ、次回の選挙でのさらなる議席数低下をもたらすと予測している(7日付FT)。
 汚職にまみれたズマ政権期のあとを受け、ラマポサが南アの立て直しに努力してきたとの印象は、多くの観察者が同意するところだろう。ラマポサ自身が渦中の人となった今回のスキャンダルは、予想以上に深刻な打撃をANCに与えるかも知れない。
(武内進一)