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今日のアフリカ

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ザンビアの債務交渉と中国

2022/10/10/Mon

 6日付ファイナンシャルタイムズは、米国シンクタンク「外交問題評議会」(CFR)のセッツァー(Brad Setser)上級フェローの論説を掲載した。ザンビアの債務交渉と中国の銀行に関する興味深い内容を含んでおり、以下概略を紹介する。
 ザンビアは、2000年代以降の銅価格高騰を背景に積極的な対外借り入れを行い、3回にわたってユーロ債を発行してきた。しかし、2010年代の資源価格低下を受けてルング政権期(2015~2021年)に債務状況が悪化。2020年にはユーロ債の利子支払い繰り延べを要請するなど、デフォルト状態に陥った。それ以来債務再編をめぐる交渉が続いているが、中国からの債務の扱いをめぐって難航してきた。
 かつて、債務危機に陥った国は、政府債務についてパリクラブとの間で交渉し、民間債務については商業銀行が組織するアドホックな委員会との間で交渉した。債務国間に返済条件の差が出ないよう、「比較可能な取り扱い」(comparable treatment)原則へのコミットが各債務国に求められた。しかし近年では、中国やインド、サウジアラビアなど、パリクラブに入っていない国々が積極的に対外融資を展開し、債務国の債務の構成も複雑になった(9月26日付FT)。ザンビアはその典型である。2021年末の段階で、全体で約200億ドルの対外債務のうち、約60億ドルが中国からのものであり、これは再編対象となっている債務の4割を超える。
 ザンビア、IMF、伝統的なバイドナー、そして中国は、融資再編をめぐって議論を続けてきたが、2年の交渉を経てもなお、中国国営銀行の債務再編条件はまだ決まっていない。大きな問題は、中国において公的部門と私的部門の境界が曖昧であることだ。従来、貧困国の債務再編においては、公的債権と民間債権を分けてそれぞれ別々に交渉を行っていた。しかし、一帯一路政策に参加した国営金融機関は商業的な利益を求めて商業的融資を提供したと考えている。中国側は、中国輸出入銀行からの融資は公的債権だと認めたものの、そのほかの国営商業銀行からの融資は民間債権だと主張してきた。
 G20では、2020年11月に、中国や非パリクラブのバイドナーが、パリクラブの伝統的バイドナーと同じ交渉の席に着くという「共通枠組み」が合意された。しかし、現在までこれに従って債務再編が実施された例はない。
 ザンビアをめぐる交渉のなかで、中国の輸出信用機関(Sinosure)から保証を得た融資は公的二国間貸し付けだと判断されることになったようだ。そうなれば、今後の債務再編プロセスはより容易になるだろう。 とはいえ、個々の中国企業や銀行が債務再編に関する条件を飲んだわけではなく、先行きは依然不透明である。
 これまでの交渉を通じて、中国の金融機関も債務再編にあたって譲許的利率を受け入れざるを得ないことが明らかになりつつある。中国の金融機関や融資の仕組みに光が当たり、新しいルールを共に考えていくことになるだろう。
 以上の論説は、中国という資金提供者が急速に存在感を増したことで、債務再編をめぐる新たな国際的ルール構築が必要になったことを示している。中国側もまた、アフリカに貸し付けた資金をどのように回収するかを考える必要に迫られている。中国がパリクラブに入ることはないにしても、債務返済をめぐってルールの調整が図られている局面と理解できる。
(武内進一)