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今日のアフリカ

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南アの公教育の多言語化

2022/08/24/Wed

 南アフリカの東ケープ州で、史上初めて試験問題をコーサ語とソト語に翻訳することになったと報じられている(BBC 8月23日)。翻訳されるのは12年生試験で、数学、物理科学、生命科学、歴史、農業科学、会計学である。コーサ語とソト語は、南アフリカの11の公用語のうちの2つである。これまで南アの公教育では、4年生以降はほとんど英語だけで行われてきた。しかし、英語を家庭でも話す人口は9%にとどまり、そのほとんどが白人層である。家庭での言語を使う方が教育上有利であるため、アパルトヘイト下で優遇された層が、現在も優遇されているという点が批判されてきた(The Conversation 8月2日)。今回の動きは、このような不平等の是正を目指したものといえる。

 南アの言語政策は、植民地主義やアパルトヘイトの歴史とも深く関連してきた。今年6月にアイルランドの航空会社ライアンエアが、英国入国の際の南アパスポート不正を防止するために乗客にアフリカーンス語のテストを設けるとしたことが大きな批判を呼んだが、それはアフリカーンス語が、ヨーロッパ系白人の入植者が、アフリカでのアイデンティティを固めるために使った言語であり、アパルトヘイトにおける権威的な言語だったからだ(BBC 6月14日)。人口の約13%しか使用していないマイノリティの白人層の言語にも関わらず、アフリカーンス語がいまだに権威的な立場にあることは、脱植民地主義を目指す近年の学生運動によっても抗議されてきた。その流れの中で、2015年南アのエリート大学であるステレンボッシュ大学は、アフリカーンス語を教育言語として使用することを放棄し、英語で教える方向を決めている(BBC 2015年11月13日)。

 歴史を背負いながら言語の平等性を担保しようとする南アの動きは、複数の公用語を持つことも多いアフリカ各国の言語政策に対して、一つのモデルを示す可能性がある。公教育の多言語化を促す今回の動きが、どのような結果につながるかを見ていく必要があるだろう。