7月25日、チュニジアで憲法改正の是非を問う国民投票が実施された。約930万人の有権者のうち246万人が投票し、賛成票が92.5%を占めた。有力諸政党がボイコットを呼びかけたこともあり、投票率は27.54%にとどまった。憲法改正によっては、大統領は強大な権限が与えられる。議会の解散権を持ち、議会の不在時には行政令を法律の代替措置として発出できる。国家が「危機」にあれば任期制限を超えて大統領職にとどまることができる。大統領権限に対するチェック・アンド・バランスは弱体化した。
ちょうど1年前の2021年7月25日、サイエドは議会を停止し、「例外状態」を宣言して、個人支配体制を樹立した。今回の国民投票によって、その体制が制度化されたことになる(27日付けファイナンシャルタイムズ)。
サイエドの議会への攻撃や「例外状態」は、とりわけ当初、国民から熱狂的な支持を得た。「ジャスミン革命」以降のチュニジアは、経済状態が悪化を続ける一方で、政党間の対立によって適切な政治的対応ができなかった。国民はこれに嫌気し、「強い大統領」を求めたのである。サイエドは、この1年間、議会の指導者に圧力をかけ、また裁判官を大量に解職するなど、自身を批判する人々を抑圧してきた。それに伴ってサイエドの人気にも陰りが見えており、悪化する経済情勢も相まって、6月には大規模なゼネストが実施された。
今回の憲法改正案は、サイエドが一人で作ったと言われている。6月20日、憲法草案作成委員会からサイエドに憲法草案が提出されたが、その10日後に官報で公表された改正案は大きく変更されており、その内容を草案作成委員会委員長が激しく批判するという異例の事態となった。今回の投票率の低さは、サイエドと人々の距離感を示している。
憲法改正によって「例外状態」が制度化された事実は、内外に衝撃を与えている。26日付けルモンド紙は社説で、これによって「『ジャスミン革命』以来育てられてきた民主主義は終わりを告げ」、「民主主義の『チュニジア・モデル』は埋葬された」と述べた。
ポピュリズムが生んだ指導者が民主主義を破壊した。一方で、経済危機は変わらず、今後IMFとの交渉が控えている。人々の生活が改善しなければ、サイエドへの支持は急速にしぼむことになろう。