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今日のアフリカ

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南アフリカで「国家収奪」報告書第一弾刊行

2022/01/09/Sun

 年明けの4日、ゾンド(Raymond Zondo)判事を委員長とする「国家収奪」(State Capture)調査委員会の最初の報告書がラマポサ大統領に提出された。これは、ズマ政権時代(2009-2018年)の大規模な汚職に関する調査である。
 900ページ近い報告書には、汚職の実態と政府への勧告が記されている。報告書では、南ア航空のミエニ(Dudu Myeni)前会長をはじめとする指導部について資金流用の疑いで調査するよう勧告したほか、ズマ政権に深い影響力を与えたとされるグプタ(Gupta)兄弟のうちTony Guptaについても贈賄の疑いで調査を勧告した。グローバルなコンサルタント企業Bain & Companyについても、財政規律を弱める方向に寄与した疑いが指摘されている。ラマポサ大統領は、調査報告書に対して、今年半ばには対応を明らかにすると返答した(5日付ファイナンシャルタイムズ)。
 この動きに対して、ファイナンシャルタイムズ紙のコラムニストであるデイビッド・ピリングは、国家の理念と現実という観点からコメントを寄せた(7日付FT)。彼によれば、南アは「米国と同様に、自らの理想像を永遠に求め続ける国家」なのだという。米国が独立に際してヨーロッパとは異なる理念に基づく国家建設を宣言し、それに基づく国づくりを進めてきたことは、「明白なる使命」(Manifest Destiny)の言葉とともによく知られている。アパルトヘイト廃絶後の南アもまた、過去と決別し、新たな理念の下に国づくりを進めてきた。理念に基づく国家建設は、常に現実とのギャップに苦しめられる。ズマ政権の汚職は、その典型である。しかし、ゾンゴ報告書の公開がそうであるように、理念の体現に向けて努力する。
 この指摘は、とても興味深い。国家の成り立ちが「人工的」であるほど、常にその基盤となる理念が問われる。今日の主権国家/国民国家が常に「人工的」な側面を持つことを考えれば、南アが直面する理念と現実のギャップは、きわめて普遍的なものである。