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今日のアフリカ

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ワグネルへの制裁と中央アフリカでの活動

2021/12/11/Sat

 11日付ファイナンシャルタイムズ(FT)は、EUが来週にも、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」(Wagner)に対して、ウクライナ、シリア、リビアにおける人権侵害活動を理由として制裁を発表すると報じた。ワグネルは、プーチンに近いプリゴジンが出資する民間軍事企業として知られ、2014年のクリミア併合時のロシアの侵攻や、その後にウクライナ東部で起こったウクライナ軍と分離主義勢力との戦闘に参加。また、シリア、リビア、モザンビーク、スーダン、中央アフリカでの紛争にロシアの国益に沿う形で関与した。一方で、ロシア政府は、傭兵活動は法律で禁止されていると主張し、ワグネルとの関係を否定している。
 EUがワグネルの動向に敏感になっているのは、アフリカ諸国でその活動と影響力が強まっているとの認識を持っているためだ。11月30日のルモンド紙の報道によれば、中央アフリカでは、EUが研修を行った国軍部隊がワグネルの指揮下に入っているという。EUは2016年から同国で国軍の研修事業を行っており、年間1700万ユーロの予算で350人強を対象としている。一方、同国にはロシア人の軍事顧問が2,600人おり、加えてワグネルの傭兵数百人が投入されて、国軍、政府機関に強い影響力を行使している。現場の部隊の大部分がワグネルの指揮下、もしくは影響下にあるという。
 中央アフリカのトゥアデラ政権にロシアが深く関与していることはかねてから指摘されており、欧米諸国は警戒を強めてきた。3月末に刊行された国連報告書では、中央アフリカ国軍とワグネルが重大な人権侵害行為を行ったと指摘(4月5日付ルモンド)。米国は4月、提供した車両がワグネルに使用された事実が判明したことを受けて、軍事協力を停止した。二国間協定に基づいて派兵していたルワンダも、6月に撤退した。フランスも同じく6月に軍事援助と財政支援を止めているが(6月8日付ルモンド)、EUの枠組みで軍の研修事業には参加してきた。研修を受けた部隊がワグネルの指揮下にあるとなれば、関係見直しがさらに進むことになろう。