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今日のアフリカ

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チュニジアの政治危機

2021/07/31/Sat

 チュニジアのサイエド(Kaïs Saïed)大統領は、7月25日、政府を批判し、議会解散を求めるデモを受けて大統領府で緊急会議を開き、議会活動の凍結とメシーシ(Hichem Mechichi)首相の解任を発表した。翌26日には、国防相など他の閣僚の解任が発表され、28日には、最大議席を持つイスラーム主義政党ナフダ(Ennahadha)などに対して、外国から資金を得ていた疑いで捜査が開始された。また、大統領は同日、脱税などの疑いがある約400人のビジネスマンのリストを示し、取り締まりを約束した。
 サイエドは元憲法学者で、政党の基盤を持たない。汚職撲滅を訴え続け、大衆の人気は高いが、政治の素人だと見なされてきた。2019年10月に大統領に就任したが、与党ナフダとの間で対立が続き、国政がマヒしていた。今回の議会の活動停止措置に関して、大統領は憲法にある「緊急事態」条項(第80条)に則ったものだと説明しているが、ナフダなど政党側は「クーデタ」だと批判している。民衆はコロナ禍の中で続く国政のマヒに失望しており、大統領の行動を支持する声が目立つ。最大の労働組合UGTTも、大統領の行動を憲法に則ったものと見なし、支持している(7月26日付ルモンド)。世論調査では、87%が大統領を支持しているとの情報もある(31日付ファイナンシャルタイムズ)。
 大統領は、汚職一掃をスローガンとしつつ、政党の力を弱め、権力を自身に集中させようとしている。民衆からの支持があったとしても、その行動を憲法に則ったものと評価することは難しい。ここでもやはり、コロナ禍による経済の低迷や不満の鬱積を背景として、政治危機が顕在化している。「アラブの春」以降、アラブ諸国でただ一つ民主主義が実践されてきたチュニジアは、重大な岐路に立っている。