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今日のアフリカ

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マクロン仏大統領、アルジェリア戦争時の軍の犯罪を認める

2021/03/06/Sat

 3月2日、マクロン仏大統領は、アルジェリア独立戦争の闘士で弁護士のアリ・ブーメンジェル(Ali Boumendjel)の死(1957年)が、フランス軍の拷問・殺害によるものであったことを認めた。マクロンはこの事実を、ブーメンジェルの4人の孫を大統領府に招いて伝え、昨年8月に亡くなった彼の妻のMalika が「聞きたかったことだろう」と述べた。
 ブーメンジェルの死については、公式には自殺とされてきたものの、オサレス(Paul Aussaresses)将軍がその著書2001年に出版した『特殊任務 アルジェリア1955-1957』(Services spéciaux. Algérie 1955-1957. Perrin)において、拷問と殺害を告白していた。今回マクロンは、フランスの名の下に、その責任を認めたことになる。
 政府がブーメンジェルの殺害を認めることは、2021年1月に刊行されたアルジェリア戦争の記憶をめぐるバンジャマン・ストラの報告書での勧告の一つであった。ストラの報告書に関しては、刊行後にフランス、アルジェリア双方で大きな議論となっている。ストラ報告書は勧告の中に「謝罪」を盛り込まなかったが、アルジェリア政府の立場は「謝罪」を求めるものであり、アルジェリアの退役軍人組織はストラ報告書が「植民地におけるフランスの犯罪を隠ぺいした」と非難している(3日付ルモンド)。一方で、フランス国内では保守派を中心に「謝罪」に対する拒否感が強い。
 ストラは、ルモンド紙とのインタビューのなかで、「謝罪」については、「政治的な罠」に陥る危険があると考えて報告書には盛り込まなかった、今になってみると、虐殺のようにはっきりした犯罪については謝罪すべきだと書き込めばよかった、と述べている(2月17日付)。
 今回、マクロンが軍によるブーメンジェルの殺害を認めたことは、専門家の中でも驚きの声が上がっている。歴史家のラハル(Malika Rahal)は、ストラ報告書が出たとき、政府はこの点は認めないだろうと思っていたと述べている(5日付ルモンド)。オサレス将軍の著書によって半ば公然になっていたとはいえ、政府としては大きな決断だったと言えよう。ラハルが指摘するように、アルジェリア戦争中に失踪し、フランス軍の関与が疑われているのはブーメンジェル一人ではないからだ。
 今回のマクロンの動きは、来年の大統領選挙で有力な対立候補となるであろう、極右候補マリーヌ・ルペンを意識したものという分析もある。彼女と彼女の政党がこうした行動に一切反対することを見越して、先手を打ったという指摘である(3日付ルモンド)。
 アルジェリア戦争をめぐる昨今の動きは、植民地の記憶をめぐる問題が、解決には程遠い状況にあることを示している。しかし、それをよりよい状況に向けて動かそうという意思は確実に見受けられ、そこから学ぶことは非常に大きいと感じる。