ここ数日、リビア情勢が大きく動いている。1月2日、トルコ議会は、シラージュ(Faïez Sarraj)首相率いる国民協定政府(Government of National Accord: GNA)の支援を掲げて、リビアへの派兵を決めた。リビアはカダフィ政権崩壊後混乱が続き、2016年1月に国連主導でGNAが成立したものの、2019年4月には東部を実効支配するリビア国民軍(Libyian National Army: LNA)がハフタル将軍の指揮下にトリポリに向けて進軍を開始し、内戦状態に陥っている。ハフタル将軍は、エジプト、サウジアラビアなどの支援を得ているほか、ロシアが民間軍事企業Wagner社の傭兵を1500~2000人派遣している(2019年12月21日ルモンド)。ハフタルはISなどテロ組織に厳しい姿勢を示しているため、米国やフランスもハフタルとの関係を維持している。
トルコの介入は、GNAとの間で昨年11月27日に結ばれた安全保障・軍事協力協定に基づくが、ロシアの動きに触発された側面がある。ただし、両国は必ずしも激しく対立しているわけではなく、プーチン大統領は1月8日、ガスパイプライン開通式のため、トルコを訪問してエルドアン大統領と会談している。そのうえで両国は、12日からの停戦を呼びかけ、LNAはこれに応じる姿勢を見せている。トルコとロシアはそれぞれの思惑があるが、米国が中東から引き揚げる動きを見せるなかで、リビアでの権益を確保しようとする点は共通している(1月11日付ルモンド)。
リビアに関しては、EU諸国もそれぞれの思惑を持っている。イタリアのコンテ首相は、1月8日、ローマでハフタル将軍と会談した。当日、シラージュGNA首相もブリュッセルからトリポリへの帰路にローマに寄り、コンテ氏と会談する予定だったが、ハフタル将軍がいることを察知し、急遽ローマ訪問を取りやめた。リビアはかつてイタリアの植民地だった(1911-45年)こともあり、イタリアは自身の勢力圏と見なしている。2011年に英仏主導でNATOが軍事介入し、カダフィ政権が倒れた際には、イタリアは深く動揺した。イタリアにとって、リビアの主要勢力から影響力のあるアクターだと認知されることは最優先事項で、リビア内戦の仲介者として振舞いたかったと11日付ルモンド紙は分析している。
エルドアン大統領は、トルコの派兵に際して、1920年のセーヴル条約に言及したという(1月9日付ルモンド)。これは、オスマントルコ帝国の解体を決定づけた国際条約である。イタリアの植民地になる前、リビアはオスマン帝国領であった。トルコはまた、GNAとの間で、自国に有利な地中海の領域確定協定を結び、フランス、キプロス、ギリシャ、エジプトがこれに反発している(1月11日付ルモンド)。地中海をめぐる複雑な国際関係史に、リビア内戦はさらなる一頁を加えることになる。