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今日のアフリカ

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人々が宗教的過激主義に加担する理由

2019/12/30/Mon

12月29日付ルモンド紙は、IFRIのMathieu Pellerin研究員による論説を掲載している。論説は、サヘルで人々が宗教的過激主義を唱えるジハディスト・グループに加わるのは、宗教的な理由よりも社会的、政治経済的な理由が大きいと主張するもので、示唆に富む。
 同研究員は、3つの要因が重要だと指摘する。第1に、自らが実際に受けた、あるいは強く感じている不正義によるものである。最も典型的なのは、土地をめぐる紛争である。サヘルでは、牧畜民と農耕民、あるいはそれぞれの間で土地争いが頻発している。サヘルで最大の牧畜民グループはプール(フラニ)人だが、牧畜民と農耕民は歴史的に補完関係にあった。しかし近年、旱魃などの異常気象、人口増、牧畜民に対する政策上の放置、さらに政治エリートによる土地収奪等によって土地をめぐる競合関係が激化した。農村では、国家機構に対するアクセスがきわめて弱い。これは特に、移動するプール牧畜民にとって深刻である。結果として、最も脆弱な人々が不正義を被り、それに対する怒りや怨恨からジハディストに加担している。
 第2に、安全保障上の要請である。ジハディスト集団はコミュニティと多様な関係を結んでおり、庇護関係の下で安全を保障している場合もある。他のグループ(特に農耕民の自警団グループ)からの安全保障を求めてジハディストに接近することは、サヘルで広くみられる。農耕民の自警団は、反テロリズムの名の下に、プール人コミュニティ全体を標的にして攻撃する。ブルキナファソ北部Soum近くの状況が典型的で、そこでは農耕民の自警団がプール人コミュニティを頻繁に攻撃した結果、後者の多くがジハディストに接近した。
 第3に、思想的背景とは関係なく、民兵のような形でジハディストのために戦う集団の存在である。密猟や密輸など、違法取引に従事する犯罪者集団がこれにあたる。彼らにとって、ジハディストの活動のために国家が取り締まりの能力を失った現状は好都合である。サヘルに蔓延する組織犯罪は、ジハディストの要請に対して迅速に動員可能で、人材供給源になっている。犯罪者の「ジハディスト化」は極めて深刻な事態だと、同研究員は指摘している。
 サヘル地域の治安悪化をめぐっては、ISやアルカイダなど域外勢力の影響が取り沙汰されるが、ローカルな問題が基本にある。また、ここで挙げられている理由は、コンゴ民主共和国東部や中央アフリカ共和国など、長く治安悪化が続くアフリカの他地域にも当てはまる。ジハディスト勢力がいてもいなくても、紛争解決が困難な地域には、複雑なコミュニティ間関係、実効的な国家統治の不在、犯罪者集団の跋扈など、よく似た問題が横たわっている。