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今日のアフリカ

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ベルナール=アンリ・レヴィ署名記事への研究者の反論

2019/12/08/Sun

12月7日付ルモンド紙は、5日刊行の『パリ・マッチ』誌に掲載されたベルナール=アンリ・レヴィ(BHL)の記事に対する研究者の反論を掲載した。BHLの記事は、彼が訪問したナイジェリア中部の状況について、フラニ人がキリスト教徒に対するジェノサイドを行っていると論じたものである。フラニ人はボコハラムであり、キリスト教徒を虐殺し、ナイジェリア国軍は参謀長がフラニ人であるためにフラニ人の蛮行の共犯者であり、そもそもブハリ大統領もフラニ人だ。ナイジェリアのキリスト教徒はSOSを発している、とBHLの記事は論じている。
 これに対して、英国、米国、ナイジェリア、セネガル、フランスの研究機関、大学に属する15名の研究者が連名で反論を寄せた。「フラニ人」を一括りにして「キリスト教徒」に対する「ジェノサイド」を行っているという議論は、事態を過度に単純化する危険なものだ。「フラニ人」が結束して攻撃の主体を構成しているわけでもないし、彼らもまた暴力の犠牲者である。ナイジェリア中部でムスリムとキリスト教徒の住民間の衝突が頻発していることは事実だが、その背景には、人口増加による土地不足や気候変動、あるいはガバナンスの悪さに起因する政策の失敗など複雑な要因がある。ナイジェリア国軍参謀長がフラニ人だという情報は誤りだし、ブハリ大統領がフラニでも彼がボコハラムの共犯者だという主張は荒唐無稽である。さらに、「ジェノサイド」という言葉はナイジェリアにおいて、ビアフラ戦争以来、しばしば政治的操作のために利用されてきた。15名の署名記事ではこうした反論が展開された。
 BHLは、その著作が何冊も日本語に訳されている著名な哲学者である。しかし、『パリ・マッチ』の記事は、きわめて安易な、また質の低いものと言わざるを得ない。問題を簡単に民族や宗教の違いに還元する議論に対しては、既に多くの批判がなされてきたが、今なお多くの知識人がその枠組みに捉えられていることに改めて驚く。15名の地域研究者による批判が即座にルモンド紙に掲載されたことは、せめてもの救いである。