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今日のアフリカ

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中国の対アフリカ農業政策

2019/09/15/Sun

9月13日付ルモンド紙は、去る6月にFAO(国連食糧農業機関)事務局長に屈冬玉(Qu Dongyu)氏が選出されたことを受けて、中国のアフリカにおける農業政策を研究するCIRAD(開発農業研究国際協力センター)のJean-Jacque Gabas研究員に対するインタビュー記事を掲載した。以下、概要をまとめる。
 FAO事務局長ポスト獲得に際して中国は、債務減免やFAO予算への負担増など、様々な手段を使った。中国は既に、UNIDO、国際電気通信連合、国際民間航空機関、そして2016-18年にはInterpolのトップも獲得している。これは、あらゆる大国がこれまでにしてきたことだ。そうした大国と同様に、中国は国際機関のトップのポストを獲得することで、国際的な影響力を拡大しようとしている。
 アフリカ諸国がFAOトップへの中国出身者就任を支持した背景には、それなりの意思表示があるとみるべきだ。OECD諸国の農業に対する協力は弱く、2008年の食糧危機までは減少を続けてきた。政策の関心は構造調整であり、貧困削減であり、持続的開発であった。アフリカ諸国にとって、中国の台頭は機会として捉えられている。
 FAO事務局長ポスト獲得を、中国がアフリカからの農産物輸入を拡大させたいからという理由で説明することは妥当ではない。中国はアフリカにとって最大の貿易相手国だが、アフリカ諸国の中国に対する農産物輸出の割合は、2~3%に過ぎない。中国はアフリカのコメや製糖産業に投資しているが、それは本国向けではなく、アフリカ域内市場を目的としたものだ。アフリカから中国が輸入している農産物としては、ゴム、加工用キャッサバが重要で、その他には落花生、綿花、原木などがある。しかし、アフリカのヨーロッパ向け輸出産品や他の中国向け輸出産品に比べると、これらは量的にわずかである。
 中国によるアフリカのランドグラブというのは神話だ。土地への投資に関する統計はわずかで信頼に足るものはあまりないが、明らかに、中国の投資はそれほど多くない。投資額で見ると、8位か9位だ。最大投資国はOECD諸国(英米仏)で、それに国内アクター、湾岸諸国が続いている。
 中国の対アフリカ農業政策として注目されるのは、アフリカでの農業実験センターや技術移転センターの設置である。だいたいどの国にもこうした施設が一つはあって、中国人技術者がアフリカの条件に合ったコメや野菜の品種開発を行っている。運転手以外、職員は中国人だ。その目的は、中国で開発された品種、農薬、肥料、農業機材を、中国企業の仲介を通じて普及させることにある。これは長期的に重大な結果をもたらすかも知れない。中国政府はしかし、この取り組みがあまりうまくいっていないことを認めている。中国人技術者は中国語しか話せず、アフリカ人農民への普及ができていない。私たちは中国の大学と協力し、評価を行って報告書を提出した。中国政府はこの報告を受けて対応を考えている。
 今日、アフリカの農業・農村開発の多くは若年層の労働市場参入と、雇用問題の重要性を指摘している。しかし、農村部に雇用を創出するには、農業生産の集約化やアグリビジネスの発展だけでは解決にならない。他の国際機関やドナーとの協力が不可欠だ。しかし、中国は他のドナーとの協力を一切していない。FAOで彼らが何をしたいかはまだわからない。中国が国際協力主義に則ってFAOで活動することを望む。
 
 Gabas研究員の発言は示唆に富むが、特に重要と思うのは次の2点である。第1に、国際機関のトップを取りに行く中国の姿勢が、他の大国と何ら変わらないことを指摘した点。第2に、若年層の雇用創出は今日のアフリカにとって最大の問題だが、これは農業・農村政策だけでは解決できず、他の国際機関やドナーとの協力が必要不可欠であることを指摘した点である。これは、日本を含めた他のドナーにとっても当てはまる指摘だ。いかなる技術を開発するかという点以上に、技術をどのように他の分野に繋げ、普及させていくかが問われている。